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長編小説③:凶器は灰皿

元がついた彼氏を浄化した翌日から私は世の救済の準備をはじめた。
ラジオ体操に参加する小学生のようにベットから跳ね飛びおきる。
街にある神具の場所をチェックしていく。
休日もつかい、神具のまわりに人がいない時間帯も調べあげる。
しばらくすると、私の耳に声がとどくようになった。
私の眼に光がとどきだした。
神具の位置がわかるようになってきた。
はるか上空を舞うように飛ぶワシの視点で街を俯瞰するように、ちいさいミツバチが花のミツを探しまわるように神具の位置がわかる、見えるようになった。
神具がココにいると光っている。天罰をくだせと神具が、とどろき叫んでいる。

満タンのハイオクを心臓にいれたように熱く元気になった私は、この世の浄化のために必要なものを用意していく。
「ホームセンターをブラブラしているだけで、たくさんの時間がつぶせるね」とデート代をケチっていた浄化された男の言葉を思いだした。
ホームセンターには、救済に必要な道具があふれかえっている。
あれも、これも、役にたつものばかりだ。
マシンガンのようにしか見えない釘を打つ道具。
三国志の豪傑が手にもっているような大きなトンカチ。
ホームセンターは、神具にて世界を浄化するために作られたのだと私は確信した。

神具にて現世の汚物を浄化する方法もしっかりと確認した。
45度の角度で重さ1~3kgほどの衝撃を神具に与えると、神があたえたもうた神聖なるハンマーが汚物にふりおろされる。

いよいよ神が私にこの世の掃除を実行せよと告げられている。

「神よ、七難八苦をあたえたまえ、神具にて困難にうち勝ち、この世を清浄しましょう」

私はそう誓った。

会社の直属の上司に天罰をくだすことは決めていた。
女性社員の肩や手、腰、あげくのはてに尻までをさわる上司。
上司の毒牙にかかり、男性恐怖症になった女性社員もいる。
上司の権力という暴力で押さえつけられ、不平不満の声をあげる口をふさがれる。
助けをもとめる声をあげたとしても権力という名の暴風雨にかき消されてきた。
たくさんの女性社員たちが苦しめられてきた。

会社や法が裁けないのであれば、私が上司を裁くしかない。

会社帰りに上司を酒の席にさそった。
さそわれた上司は、メデューサの髪ににらまれたカエルのような顔でかたまった。
しかし、すぐに冬眠からさめたカエルのような好色な顔になり、耳にねばりつくような参加の声をあげた。

上司に気持ちよくお酒をのませる。
自慢話や苦労話、若者や社員への愚痴をしっかりと聴き、相槌をうつ。
上司に天罰をくだせると考えれば、どのような話を聞かされようとも、ヤモリのようにねばつく手のひらで肩や二の腕、ふとももを触られようとも、私の心は、動揺せず、嫌悪感をいだかず、心はさざ波ひとつたたず、平穏そのものだった。

酒の席がおわった。
ひとりでは歩けないほど酒をのませた上司を商店街のハズレにある神具の元へ誘導していく。
ヒーローが飛んでいる姿を模した神具のまえで上司があゆみをとめた。
頭を視えない巨大な手で押さえつけられたように前かがみになり、食べたもの、飲んだものを吐きだそうとしている。
私に背をむけている上司。

いまだ。

ハンドバッグにいれていたものを頭髪のない上司の頭部におもいっきり叩きつけた。
上司は声をあげなかった。そのかわりに、どろりとした黒い血がはえた。
上司を神具で浄化させるまえに昇天させてしまった。

わたしが上司に叩きつけたものは灰皿。
強化ガラス製の灰皿をストッキングにいれる。
そして、灰皿が飛びでないようにストッキングのはしっこを持つ。
野球の投手のようにふりかぶり、ストッキングの先にいれられた灰皿を対象の頭へと叩きつける。

黒く赤い原罪ともいえる血が、上司の頭からふきだしている。
神具で上司を叩いていない。灰皿で叩いただけだ。
なので、肉体に邪心が残存しているかもしれない。

赤と白のヒーローの形を模した神具のまえに上司をひきずり置く。
神具に45度の角度で重さ1kgの衝撃をあたえる。
神具から勇ましい音楽が流れだす。
赤と白のヒーローが、邪悪な怪獣と戦うように激しく動きだした。
ヒーローのパンチがあたるたびに、上司のどす黒い血が、ヒーローの白い部分を赤くをそめあげていく。赤い部分はさらに濃く厚くなった。

神具よ、上司の邪悪で淫猥で愚弄な黒い血を一滴残らず吸いだせ。

5,000円分ほど神具は活動したのち、静かに動きをとめた。

我が身を汚し上司を浄化した神具を洗い清める。
しっかりとした厚手の生地のタオルにて汚れをふきとり、アルコール消毒液をしあげにふきかけた。
「地球の勇者に感謝を」
ヒーローから感謝の言葉が聞こえた。

その夜、ベッドにもぐりこんだ私は考えた。
やはり、生きた悪魔を聖なる火にて焼くように、邪悪な男たちを生きたまま神具の断罪にかけなければばならない。
私の心は、まったく軽くなっていない。

たんたんと右から左へと罪人を裁く閻魔さまのように、救いようのない餓鬼のような男たちを生きながら神具にて断罪せねばならぬ。

神が、そうせよと私の頭のなかに語りかけてくる。
あたらしい正義の執行方法を考えなければならない。
私は静かに深い眠りについた。

4話


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