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長編小説①:電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物

あらすじ

『電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物』
名前を聞いても、単語を見せられても、それがなんなのかわかる人はいないだろう。
コインを1枚いれ子どもをのせ、上下にゆれるだけの玩具だ。
けれども、神にえらばれた女性は、その玩具をつかい世の中にはびこる悪の成敗にのりだした。
神ならざる人が他人をさばく、ましてや殺してはいけない。
法治国家につかえる従僕が捜査にのりだす。
彼女は世をただせるのか、従僕は彼女をつかまえられるのか。
いままで誰も読んだことのない小説の幕がひらく。

本編

「電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物って言うんだぜ」

頭に血がのぼり沸騰した。
頭のなかで張りつめていた線が、ぷっつりと切れた音がした。
手にもっていたハンドバッグをふりかぶり、遠心力にまかせるままに発言者のドヤ顔をぶん殴っていた。
付きあいだして三年。我慢のダムが決壊した。
ハンドバッグは、彼氏のアゴを正確にうちぬいた。
アゴをうちぬかれた彼氏は、酔っぱらいのようにふらふらと歩き、糸が切れた操り人形のように背後にたおれこんだ。
電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物の新幹線に彼氏の後頭部がぶつかった。
硬質的な派手な音が、しんと静まりかえった公園に響きわたった。
みひらかれた彼氏の目。驚愕、殺意、とまどい、おびえ、さまざまな感情が浮かびあがっては消える彼氏のすこし茶色がかった目。

ラブホテルからのかえり、ふとたちよった公園での出来事だった。
私は公園に置かれていた遊具の名前を彼氏にたずねた。
その答えが、「電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物って言うんだぜ」だった。
できそこないの三日月そっくりの顔、そんなことも知らないのかと人を見下す冷血動物のような彼氏の目が、私を異様にイラつかせた。
突発的な衝動につきうごかされた私の行動が、私のその後の人生をかえた。
いま、思いかえしてみると、それは神様の導きだったのかもしれない。

電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物の新幹線が、陽気な音楽をかなでだした。
そして、電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物の新幹線が、激しく前後にうごきだした。
児童が安全安心に遊べる遊具とは思えない乱暴なうごき。
ロデオマシーンの牛のように激しく暴れ、馬のように勢いよく飛び跳ねる電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物。
新幹線の丸い部分が、地面に接触するほど前のめりにうごく。
電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物のまえに倒れこんでいた彼氏の頭に新幹線のハンマーがふりおろされた。
ハンドバッグでアゴをうちぬかれた彼氏は、体をうごかすことも、手で防御することもできない。
せまってくる新幹線をよけるスベがない。また、新幹線をとめる超人も現れない。

硬いモノと硬いモノがぶつかりあう音が響く。
花瓶を病院の廊下に落とした破砕音が聞こえた。
白い新幹線が、真っ赤にそまりだした。
紅にそまった唯一無二の新幹線は、何度も何度も執拗に、規則的に、正確に彼氏の顔をたたく。
ガツガツと硬い音が響きわたる。
おおきい音のなかに、ちいさい粘着質な音も混ざりだした。
ヨダレと血が混じった悲鳴があがる。
赤いシャボン玉ができ、すぐに弾ける。
新幹線が奏でる音色は、時間がたつにつれギョウザやハンバーグをこねているような音にかわり、つぎに、両生類が、アスファルトを歩くような粘着質な音になった。
ニコチンにそまりきった、ふるぼけた象牙のような歯は、電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物のハンマーが前後するたびに飛びちり欠けていった。
彼氏の顔に黒い穴が、ぽっかりとあいた。

電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物が前後するたびに、私の心が軽くなる。
電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物がうごく。
プロポーズせずにだらだらと体だけをもとめられた日常が過去に消える。
電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物が彼氏をうがつ。
コーヒーとニコチンの匂いがまざった口と接吻していた日々からの脱出。
電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物がうたう。
ただただ、痛いだけだった性行為からのエスケープ。

電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物という名のスリッパで叩かれたゴキブリのように手と足を痙攣させている彼氏。
電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物は、三千円分ほど前後にうごいた。
そして、動きをとめた。
ついでに、彼氏の呼吸も心臓の動きもとまった。
赤い水をいれたビニール風船を地面にたたきつけ割ったように、たっぷりの血を吸ったモスキートを手で叩きつぶしたように、ペチャンコになった彼氏の頭部。
電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物が、彼氏という鎖、いや、呪縛から私を救済してくれた。
電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物は、私の救世主だ。
電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物が、私の心を清いものにしてくれた。
天女の薄手の衣をまとったように私の心は軽く清められた。
そして、生きる価値のない罪ぶかく強欲で身勝手でサルをもうわまわる性欲しかもたない排泄物以下の彼氏に神罰がふりかかった。

私の脳細胞がつながり電気が流れた。
天から尊い声が聞こえる。
神が、私に、電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物を使い現世にはびこる汚物の掃除をせよとおっしゃられている。
神が、私に、神具である電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗をつかい卑猥で汚らしく自己中心的で、か弱い女性を泣かせている男を浄化せよとお告げになられた。
私は、電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物に救われた。
次は、私が電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物にて苦しめられている女性を救世しなければならない。
私は世界を救う、電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物で。

救世を完了したばかりの電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物に、そっと手をおく。
赤い液体や黄色い油、白い物体などがこびりついている。
レースがついた白いハンカチにて汚れを綺麗にふきとる。

電動力応用機械器具屋内用電動式電気乗物を掃除している彼女の姿は、厚く濃い黒い雲の切れ目から零れおちる月光のスポットライトに照らされている。
その姿はまるで、献身的に神に祈り、操すらを捧げた聖女のように見えた。

神罰をあたえる浄化対象のことを考えながら、彼女はひとりまっすぐな道を歩きだした。
七つの困難があろうと、その困難にうち勝ち現世を浄化すると、彼女は赤く輝く月にちかった。

2話

3話

4話

5話

6話

7話

8話

9話

10話

11話

12話

最終話


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