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詩歌テクノクラートになるための30冊+3冊

 地方都市で退屈している君へ、今すぐ詩歌テクノクラートを名乗れ。真顔で書くけれど、地方都市に住む人は有利である。東京や大阪にも大した人物は少ないけれど、地方都市にはまず人物はいない。地方都市にはクリエイター集団がこびりついているだけ。彼らは文化芸術を生業にしていることが多く、そこが文化芸術に対する彼らの弱点となる。つまり、クリエイターは文化芸術のためには働けず、ただ彼らの食い扶持のためにしか働けない。なので詩歌にさえ通じれば、居住する地方都市で容易に文化芸術の有機的先駆者となれる。詩歌テクノクラートはその有機的先駆者の一形態である。では、詩歌テクノクラートになって何をするのか? それは退屈を凌ぎ、暇を潰しながら、文化芸術へ貢献するのみ。
 その詩歌テクノクラートとは、詩歌・言語芸術・その他芸術において企画批評実作の鼎立活動を展開できる技能を備えた人物である。具体的には群衆詩誌の編纂・公募制詩歌販売会の運営・合評会や読書会の世話・詩歌人の発掘・全芸術分野を視野にいれた文化施策への提言などに当たる。つまり、合理化された現代社会において科学技術的な解決策を嚮導しながら、どうしてもこぼれ落ちてしまう不条理詩の精神を忘れずに、言葉を社会へ置いてゆく存在が詩歌テクノクラートである。

 以下は詩歌テクノクラートになるための選書である。決して新人賞や文芸賞で受賞するためのブックリストではない。なぜなら詩歌テクノクラートは、新人賞や文芸賞の選者・審査員風情をはるかに圧倒できる詩歌人材だからだ。


俳句

 俳句は俳論と多作と多読のつり合いである。

柴田宵曲『古句を観る』岩波新書

 柴田宵曲という人は目立たない人だけれど、確かな選句眼があると思う。この人の選ぶ江戸俳諧の句はおもしろいし、句評もおもしろい。私の句評技術はほぼ彼から盗んだと言っても過言ではない。

東明雅『連句入門』中公新書

 俳句とは何かを知るにはまず外濠としての連句を知るしかない。冬の日狂句こがらしの巻の表6句についての作品鑑賞だけでも読んでおいた方がいい。余力があれば現代連句入門なども。

高橋睦郎『私自身のための俳句入門』新潮社

 なぜ俳句が五・七・五なのか、なぜ季語や切れ字があるのか、などという俳句の根本を語るための入門書である。

小西甚一『俳句の世界』講談社学術文庫

 俳句の歴史を知ることは俳句把握の変遷を知ることと同義だ。

中島斌雄『現代俳句の創造』毎日新聞社

 現代俳句とはどのようなものかの用語化の試みがなされている。本書を読むと俳句や詩歌について語るための武器を得られる。

塚本邦雄『百句燦燦』講談社文芸文庫

 この百句は暗記しておいた方がよい。評の癖の強さは秘めた懐刀くらいにとどめておこう。

短歌

 短歌は多作と多読のつり合いである。

塚本邦雄『清唱千首』冨山房百科文庫

 短歌を捉えるためには和歌、とくに詠み人知らずの発生についての考察が必要だ。本書を足がかりに『万葉集』『古今和歌集』へも手を伸ばしてみるといい。和歌で、自分ならではの百人一首を編めるようになれば尚良い。

『万載狂歌集』角川ソフィア文庫

 アンソロジーを作ることの極端な一例として。

永田和宏『近代秀歌』『現代秀歌』岩波新書

 本書に出てくる短歌はとりあえず暗記した方がいい。暗記しなくても声に出して一度読んだらいい。

三枝昴之『昭和短歌の精神史』角川ソフィア文庫

 詩歌史を書くならいっそここまでやりたいものだ。定説を史料で覆す試みでもある。

穂村弘『はじめての短歌』河出文庫

 短歌の入門書はなぜかたくさん刊行されている。入門書を全て読むのは時間のムダなので、とりあえず一冊読むとよい、著者の独自色や独自用語が強い本ならなおよい。

詩歌全般とその他

 現代詩、および詩歌が支え詩歌を支える政治について。

豊﨑由美・広瀬大志『萌える現代詩入門』思潮社

 現代詩ってとっつきにくいな、と思っている人のための名著。

西東三鬼『神戸・続神戸・俳愚伝』講談社文芸文庫

 「俳愚伝」の「7 新興俳句は死刑か」やその前後だけでも一読をすすめる。

小池正博編著『はじめまして現代川柳』書肆侃侃房

樋口由紀子編著『金曜日の川柳』左右社

 川柳ほど「編著」がふさわしい詩歌ジャンルはない。

山田勝美『中国名詩鑑賞辞典』角川ソフィア文庫

 日本の詩歌史は漢詩抜きには語れない。詩人の名と有名な数首、そしてそれらが書かれた場面は憶えておこう。好きな漢詩人をひとり決めると近道だ。他の漢詩アンソロジーでも構わない。

四元康祐『詩探しの旅』日本経済新聞出版

 詩歌イベントを主催するなら詩祭とは何かの概要をつかんでおいたほうがいい。

都築響一『夜露死苦現代詩』ちくま文庫

 詩歌人を名乗らない人の詩歌を無視する人に詩歌人を名乗る資格はない。

『ドイツ名詩選』岩波文庫

 実は中学生時代の私の愛読書である。対訳で脚韻とは何かについて触れることができる。本書ではなく同じ岩波文庫から出ている『フランス名詩選』『アメリカ名詩選』でもいいから欧米の詩を知っておこう。ほかに売り方を知るために『ルバイヤート』岩波文庫なども目を通しておくことを勧める。

『カヴァフィス詩集』岩波文庫

 詩の発表媒体を考える上でカヴァフィスのやり方は参考になる。

塚原史『言葉のアヴァンギャルド』講談社現代新書

 芸術、特に言語芸術と政治の関わりについて知らないと詩歌テクノクラートとは呼べない。

入沢康夫『詩の構造についての覚え書』ちくま学芸文庫

 表現することとはどういうことか、それを自分のなかだけでも決めるのを怠って表現活動をはじめるのはすこし待って。批評の風が吹けばすべて持っていかれちゃうよ。

池上嘉彦『記号論への招待』岩波新書

 池上嘉彦の記号論についての著書ならなんでもかまわない。新刊に『入門 記号論』ちくま学芸文庫がある。言語に限らず芸術を扱うには記号論を避けては通れない。

外山恒一『改訂版 全共闘以後』イースト・プレス

 1968年以降、政治の主戦場は文化芸術分野へも移行した、という歴史観で書かれた活動史。詩歌を世へ出すことは政治的行為なのだからその政治的な意味を考え、次の一手を考えるための史料となる。

上野修『スピノザの世界―神あるいは自然』講談社現代新書

 誰かひとりの哲学者に深く通じていると哲学思想のだいたいを見通せる。スピノザはアリストテレスからの神学とデカルトからの近代哲学の蝶番的位置にいるような人物だから汎用性がある。そして詩歌テクノクラートとして群衆やネットワークを扱うなら絶対にデカルトではなくこちら。というのもスピノザはmultitudo 群衆という用語を使った先駆者のひとりだから。講談社現代新書からは國分功一郎『はじめてのスピノザ』吉田量彦『スピノザ 人間の自由の哲学』も出ていて、あわせて読むと立体的に理解できる。余力があれば本人の『エチカ』『神学政治論』くらいは一読しよう。

金重明『「複雑系」入門』ブルーバックス

 複雑系や複雑ネットワークの考えはネットワークや群衆を扱う上で欠かせない。それは次の引用からもわかる。

複雑系には中心が存在しない。コントロールタワーのようなものはないのだ。

金重明『「複雑系」入門』ブルーバックス

 詩歌テクノクラートは自らが中心になってはならない。詩歌テクノクラートはクリエイター・ファシズムやプロレタリアート独裁を担ったりそれらを輔弼したりするのではなく、ネットワークを補助・点検する役割を負う黒幕だから。ブルーバックスからはネットワークに重みを置いた『「複雑ネットワーク」とは何か』という本も出て読み物としてはこちらのほうがおもしろいけれど昔のmixiの話も出てくる。これらから圏論やゲーム理論へ手を伸ばしてもおもしろい。あと森敦『意味の変容』も複雑系への文学的視点と言えばそうかもしれない。そして、なにより言語活動そのものは複雑系である。

ギー・ドゥボール『スペクタクルの社会』ちくま学芸文庫

 すさまじい訳だけれど、読み通せたらふしぎな自信がつく。1968年以降における文化芸術の基礎思想書である。

村上龍『愛と幻想のファシズム(上)(下)』講談社文庫

 実はこの小説、政治経済小説であるのと同時にテクノクラート小説でもある。通底するのは内務省へのリスペクトだ。もちろん小説としては『コインロッカー・ベイビーズ』の方が上等。

扇田昭彦『日本の現代演劇』岩波新書

 日本における政治と芸術の関わりの最も激しい接点は現代演劇かもしれない。

三島由紀夫『文化防衛論』ちくま文庫

 詩歌に関わるということは文化に関わることとさほど変わらない。


 それと下にリンクを貼った別記事に書いた詩歌イベントのための3冊と中道風迅洞の現代どどいつと草壁焔太の五行歌の運動には目を通しておいた方がよい。
 個人の全作品を読むなら古典的には山口誓子・寺山修司・中原中也だろうけれど、攝津幸彦・田中裕明・中澤系・笹井宏之・吉岡実・田村隆一も踏まえておきたい。ちなみに選者や審査員を務める詩歌テクノクラートになりたいなら高浜虚子・斎藤茂吉・萩原朔太郎あたりから読み始めるとよい。退屈になってしまったものがかつて持っていた価値を味わえ。

 以上である。読む順番とか全冊完読すべき、とかはない。あとテクノクラートと書いたのに余り触れなかったけれどhtmlとcssとJavaScriptとPHP、つまりHyperTextまわりの言語は、書けないまでも読めてかついじれるようになっているとバイブコーディングにより詩歌企画で活用できる。

 最後に大事なことを。詩歌テクノクラートとなるだろうあなたがやるべき作業は、このブックリストを凌駕するブックリストの選定にほかならない。

テクノクラート苦悶の時にくゆらせる無に近きメンソールの煙草

中澤系

​詩歌テクノクラートとは: 詩歌など言語芸術と情報工学とを架橋し、文化芸術の有機的知識人として振る舞う実務者。その活動領域は、実作・批評・企画から文化的なアーカイブ構築まで多岐にわたる。

他者の詩歌テクノクラート選書


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