月見の里短歌ワークショップを終えて
この記事は、静岡県で短歌ワークショップの講師=ファシリテーターをした人がその経緯について書いた2,200文字くらいの文章である。
短歌企画のきっかけ
2025年5月上旬、静岡県袋井市にある複合型ワークショップセンター月見の里学遊館が「当館主催の短歌講座の講師を尾内にお願いできないか」と私へ依頼を出した。私は快諾した。私が適任だとは思わなかったけれど、浜松市に住む私へ袋井市のワークショップセンターが依頼を出すということはそれなりの筋道があっての決断だろうから、依頼を阻んでしまうと先方のいろいろな試みが頓挫してしまうかも、と考慮したからだ。
短歌ワークショップが初の文芸ワークショップに
5月に何度か担当者やりとりしたあとで企画名は月見の里短歌ワークショップになった。さらに、この月見の里短歌ワークショップは、月見の里学遊館で初の文芸ワークショップになると8月の再詩丼のときに担当者から聞いた。もちろん大岡淳芸術監督時代もふくめてということらしい。これは日本唯一と言われるワークショップセンターにおける文芸ワークショップの今後の命運を私が担うかもしれないと言っても過言ではない。責任重大である。
市民全員を歌人に
ならば期待に応えるため、そして短歌ワークショップを名乗るからには、この企画をゴールにしてはいけないと心に決めた。つまり一方的に私が短歌を教えるのではなく、参加者とともに学びあうもの、具体的には私より参加者が多く考え多く発言するような場にしたいと企画を練った。さらには参加者が今後、たとえば月見の里学遊館であるいは自分のまちで短歌のみならず詩歌や文芸のワークショップの講師=ファシリテーターになれるようなスタートのワークショップにしたいと目標を据えた。
本当にその地域の文化振興をしたいのであれば、短歌界を盛り立てたいのならば、誰かひとりの講師がずっと講師であり権威であり続けてその人を核とする団体やグループが発生するような構造をつくっても結果にはつながらない。1ダースの、いや数百人の講師や先生が網のように散らばっている方が、なんなら市民全員が詩人であり歌人であるようなネットワークの状況の方が心強い。そもそも詩丼も『断食月』もそのようなネットワークの活動だった。なに、今までやってきたことを月見の里でもやればいいのだ。
月見の里短歌ワークショップ当日の流れ
2025年9月27日(土)当日の流れはこんな感じとなった。時間は3時間だったので駆け足感は否めない。
オリエンテーションとして「短歌初心者でも参加者が講師になれるようなワークショップにしたい」と目標を設定
アイスブレイクとしてカードゲーム「ゴーシチゴーシチシチ」。7音カードを4枚+5音カードを3枚配布して1首作成してもらう→参加者全員が発表、みんなで1首ずつ拍手
カードを数枚増やして1首作成してもらう。→参加者全員が発表、みんなで1首ずつ拍手(狙いは発表することを照れないようにするため)
名前とどこから来たか、短歌をはじめるキッカケ、この短歌ワークショップに参加したキッカケなど自己紹介
短歌の虫食いクイズ。→参加者全員がその答えとその理由を発表(もとの短歌が正解なのではなく理由を述べられた全員の解答が正解であること、短歌の問いと答え・上書き性などについて)
休憩
短歌の主体・視点についてのミニ講義→参加者全員がそこから受けた自身の考えを発表(5での短歌の上書き性の理論面補強、結果として短歌史)
ミニ歌会→参加者全員があらかじめ作ってきた「ことば」をもとに作歌、ホワイトボードに短歌を1首書き、1人あたり2首についての感想を発表(5の応用、同じ短歌についてでも読み手によって評が異なることを経験)

反省
このように月見の里短歌ワークショップは初心者+α向けで、それでいて数十年のベテランも「なるほど」と思えるだろう、初心者でも歌人としてある程度やっていける最低限の知識のサワリを超高速で詰め込んだ内容になった。
基本的に7以外は講師の私ではなく参加者が発言した。7についてもほぼ全員がそこから受けた参加者自身の考えや自身の体験を組み合わせての気づきを述べてくれた。とは言え、初心者やどちらかというと受け身な参加者にとっては7で拒否反応が出てもおかしくない内容だったと思う。
これは「市民全員が詩人であり歌人である」という私の態度と期待が裏目に出た結果である。単に短歌のなにかに所属しているだけでいいという市民もいるのだ。とは言え、いまさら私の態度を崩すわけにもいかない。
改善
なので、もし短歌ワークショップに今後があるならば一回ごとにテーマを設け、その回はずっとそれについてアクティビティを行うというやり方へ軌道修正すべきだろう。今回はこの一回きりの短歌ワークショップだからと参加者に傷痕を遺すべく、3時間に全般的な知識とナイフの切っ先を詰め込んだ。これはこれで良かった面もあるけれどすべての参加者を包み込む内容ではなかった。たとえば3回や5回のワークショップになれば10~20分のミニ講義のあとでアクティビティを1~2回行うことで参加者が1回につき1つは他人の意見も容れながら自分の意見を持ち帰り、それらから次回まで各自で発展させる、という設計もできる。いや、それでやりたい。
