8月26日 シルマンデー・ユースホステルの日 【SS】バックパッカー
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- シルマンデー・ユースホステルの日
ユースホステルの創始者リヒャルト・シルマンを記念する日。
シルマンはドイツの小学校教師であった。1909年(明治42年)のこの日、生徒たちと遠足に出掛けた時、突然の大雨のために小学校で雨宿りをした。しかし、夜になっても雨は止まず、そこで一夜を過ごすことになった。この経験から、旅行中の青少年が何かあった時に駆け込め、安い料金で安心して宿泊のできる施設の必要性を感じ、ユースホステルを創設した。この日には世界中のユースホステルで記念行事が行われる。
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【SS】バックパッカー
小学生の時、父親に連れられてユースホステルに泊まった事がある。自転車で行ける距離にあったということも連れて行ってもらった大きな理由だったが、幼い僕にとっては、経験したことのない世界をそこで感じる事ができた。
小学二年生になったある日、夕食中に突然、父親が声をかけてきた。
「おい、慶太。天気もいいし、今日の夜は星を見に父さんと一緒に出かけてみるか」
「えっ、本当。やったー、行く行くー」
「よーし、じゃあ、父さんは望遠鏡の準備するから、慶太は自分の着替えをリュックに詰めなさい」
こうして、お泊まりの準備をして、自転車に乗って近くにあるユースホステルに向かった。父さんは、独身の頃から利用していたらしいが、僕にとっては初めて訪れる場所だった。自転車を止めて玄関に入ると、待ってましたというくらいいいタイミングで、オーナーの星野さんが出迎えてくれた。奥さんの名前が「夢」という名前らしく「夢の星」という名前にしたと後から聞いた事がある。
「ようこそ、夢の星ユースホステルへ。おや、今日は可愛いお客様も一緒ですね〜」
「経験させたくて、初めて一緒に息子を連れてきました。今日はよろしくお願いします。今日の宿泊客の方はどんな感じですか」
「はい、今日は、アイスランド、アメリカ、中国、シンガポール、スウェーデンなどの国からいらしてますよ。賑やかになってます。半分くらいの人はカタコトの日本語ができるので会話は困らないと思いますよ。残念ながら、お子様はいらっしゃいませんけれど」
「ありがとうございます。よかったな、慶太、いろんな国の人と友達になれそうだぞ」
「うん、でも、僕恥ずかしいよ」
「大丈夫だよ、父さんがいるんだから」
基本的にユースホステルでは、他の泊まり客と同じ部屋で宿泊することになる。その分、料金はお得というわけだ。それに、夕食はついていないのが普通なのでみんな外で済ませてから懇談の楽しみを求めて宿泊にくるらしい。なので、僕たちも、家で夕食を済ませて、留守番の母さんを残して父さんと二人でやってきた。もうすぐ午後七時になろうとしている。ラウンジにはすでにみんなが集まり、それぞれ飲み物を手に取り楽しそうに話が弾んでいる。いろんな国から集まっているので、一人ひとりにとっては新鮮な話らしく盛り上がっている。中には、ここで友達になってスケジュールを合わせて来たという人もいるようだ。まるで家族のようだった。僕もその話の輪の中に少しだけ入った。父さんの影に隠れてはいたけど。父さんのお友達もいたようで、子供心に「父さん、すごいな」と思った記憶がある。
父さんが、天体望遠鏡で星を見に来たというと、みんなが感動していて「見せてほしい」とねだっていた。僕はちょっと心配になったけど、父さんが「まず、慶太が最初に見るからね。その後順番に見せてあげるよ」と仕切ってくれた。そうやって、楽しい初ユースホステルのお泊まりを経験した。
そんなことを思い出しながら、今、僕は大きいリュックを背負ってバックパッカーとなって、ユースホステルに向かっている。二十歳になり大学生になっているが、父さんに連れてきてもらってからというもの、ユースホステルの魅力に取り憑かれて毎年泊まり歩いている感じだ。完全にライフワークになっている気がする。
「ここだよ、アグネス。僕が父さんに連れられて初めて泊まったユースホステルは」
「わー、ここが慶太のユースホステルの始まりなのね。名前も素敵だね」
「星野さん、ご無沙汰してます。やってきましたー」
「おお、慶太くん。久しぶりだね〜。おや〜、隣の綺麗な女性はどなたでしょうか」
「スウェーデンから来ました。アグネスと申します。よろしくお願いします」
「おお、日本語も全く問題ないのですね」
「はい、慶太と同じ大学で勉強してますので」
「そうですか。今日も多くの方がラウンジでお話しされていますよ。さぁ、どうぞ入ってください」
実は、この日は前もって、僕が大学の友達に頼んで随分前から予約を入れておいてもらったのだ。だから、ラウンジにいるのは、全員が僕とアグネスの友達。その事を知らないのはアグネスだけだった。サプライズだ。二人でラウンジの扉を開ける。みんなが声を揃えた。
「いらっしゃーい。待ってたよー。アグネス、慶太」
「ええ、どういうこと。何でみんないるの。ねぇ、慶太どういうこと」
「へへ、実は僕が頼んでおいたんだ。ここのオーナーにもお願いしてね。今日は、アグネスに大切な話があるんだ。友達みんなが立会人だ」
「ヒュー、ヒュー。何を話すんだ。慶太」友達から一斉にヤジが飛んだ。
僕は、アグネスを輪になって話をしている友達の真ん中に連れて行った。そして、仰々しく礼をし、片膝をついた。
「アグネス。付き合ってもう二年目だ。そろそろ僕の気持ちをきちんと伝えたいと思って今日のこの場をセッティングしたんだ。僕は、これからの未来の時間と夢をアグネスとともに過ごしていきたいと思っている。ここは僕が夢を見た原点の場所だ。この場所で君に結婚を申し込みたい。大好きなアグネス、僕の気持ちを受け取ってほしい。大学を卒業したら、僕と結婚してください」
「慶太。ありがとう。私も同じ気持ち。でもちょっと恥ずかしい」
周りから大きな拍手と笑いが沸き起こり、オーナーがパーティの準備をしてくれた。次々と料理が運ばれて、みんなで楽しい時間を過ごす事ができた。僕とアグネスは大学で友達になったというより、実はそれ以前にユースホステルで知り合って友達になった仲だった。僕の夢も恋もユースホステルから始まったんだ。これからは、僕たちの子供達にもバトンを渡すことを考えよう。父さんが僕にしてくれたように。
了
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