【SS】 意識の世界 #シロクマ文芸部
文芸部が我々の学校にも発足した。僕は文章を書くのが好きだから、文芸部ができるのを心待ちにしていた。どうやら、顧問になってくれる先生がいなかったため、文芸部発足は見送られていたらしい。しかし、今回新しく我々の学校に赴任して来られた、名前が本棚文世という国語の先生は、自らも小説を書く人だったようで、着任早々、文芸部発足を校長に訴えたようだった。校長も文学に勤しむことは素晴らしいと理屈抜きに賛成し、文芸部は発足した。
この際、パソコンではなく万年筆でも使って手書きで小説を書くというのも悪くないなと思っては見たものの、校正作業は大変だろうなと考え直し、やっぱりパソコンかなと考え直した。とりあえず、新生文芸部の最初の集まりに参加してみて、それから考えようと思い、筆記用具だけを持って部室の扉をノックした。
部室の中からは返事がない。「もしかして早く来すぎたかな」と思っていたら、頭の中に声が響き渡った。
『ようこそ、意識文芸部へ。歓迎しますよ、翔太郎くん』
「えっ、あの、どこにいらっしゃるんですか。それに、なぜ僕の名前が解るんですか」
『まぁ、色々と詮索する前にドアを開けて入ってください』
僕は、恐る恐るドアを開けた。ここは学校の一番端っこの部屋のはずだと思って開けたのだが、目に飛び込んできた景色は全く違った。僕は時空ものの小説を書くのが好きなのだが、まさしく時空間にいるような感覚の部屋だった。上下左右すら良くわからない。最初の一歩をためらっていると、誰かに促されるように異空間に引き込まれた。振り返ってみたものの、入ってきたはずの扉がない。一気に不安が襲ってきた。
『大丈夫よ、心配しなくても。ここは、あなたの意識の仲の空間なの』
「えっ、僕の意識の空間ってどういうことですか」
まさか、変な催眠にかけられて、どこかに連れて行かれたりしないのだろうかと心の中で思っていると、また頭の中で話しかけかられた。
『そんなに怖がらなくてもいいのよ。私は、顧問の本棚文世。あなたの意識に話しかけているの。高麗空間はあなたの潜在意識が作り出した、あなたにとっての文章を紡ぎ出すためだけの空間なの。誰も入ってこないわ。私以外はね。だから、ゆっくりと創作のための思案をしていいのよ。あなたが思い描いた文章たちは、現実に戻った時に、あなたのメールアドレス宛に届いているはずよ』
「えっ、そんな不思議なことができるのですか。ちょっと信じられないけど、他の部員の人たちも同じように執筆しているのですか? 執筆と言っていいかどうかわからないけど」
『そうよ、実は皆んな同じ部屋にいて、一人一人カプセルに入っているのよ。あなたが開けたドアはあなた専用のカプセルの入り口だったの。入った瞬間にそれぞれの意識の部屋を創ってあげたの。誰にも邪魔されずに好きな文章を綴れるようにね。それでイメージした文章は、部室内にあるコンピューターが処理してみんなのメールアドレス宛に送っているのよ。もちろん、完成後に送るように設定もできるけど、今は部活動の一時間分の成果単位に送るように設定してあるの。だから、安心して、一時間を有効に使いなさい。いずれ、現実の世界での読み合わせ会も案内するから。部員の紹介はその時にしてもらうつもりよ。一週間後の予定よ』
「なんだか分かんないけど分かった気になりました。じゃあ、創作してみます」
こうして、僕は夢なのか意識なのかわからない世界で、時空間旅行の小説を創作してみた。とりあえずは、プロローグだ。そう思いながら、目を閉じた。頭の中ではいろんなアイデアが出ては消え、消えては出てくる。不思議なことに、そのアイデアたちが、まるで色分けされたレゴブロックのように整然と並んでいる。早く積み上げてくれと言わんばかりだ。僕は頭の中でストーリーを考えながら積み上げてみる。ちょっと気になって目を開けてみた。すると目の前に積み上げていたアイデアのブロックがはっきりと見えている。
『そうか、頭の中で考えていることが僕から見える場所に再現されるのか。これはすごい。本当に僕の意識の世界だ。もしかして、触れるのかな。あっ、手を使ってブロックを積み直すことができるぞ。これは分かりやすいなぁ』
時間が経つのは早い。あっという間に一時間が過ぎ去った。なんとなく周りがざわめいている。肩を揺すられている気もする。ふと瞼を開けると、周りには人がたくさん群がっている。
「あれ、みんなどうしたの」
「翔太郎くん、おはよう。初日から熟睡とは。さぞかし面白いストーリーでも手に入れたのかしら」
一気に笑い声に包まれた。周りに集まっていたのは、文芸部の部員たちだ。今日は文芸部としての初の集まりだったのだ。僕は、恥ずかしさのあまり、顔が赤くなるのを感じていた。
『あちゃー、夢見てたのか。初日なのに、とんだ失態を見せちゃったな。この先が思いやられるよ。トホホ』
そう思って机の上の筆記用具を整理していると、頭の中に声が響いてきた。
『そんなことないよ。意識の世界はどうだったかな。文章のブロックは上手に積み上げられたかな。家に帰ってからメールを確認してね。先生も楽しみにしてますよ。あなたが体験したカプセル自体もあなたの意識の一つだったのよ』
「えっ」
文芸部第一回目の活動は終了し、部員たちはガヤガヤと自分の得意なストーリーの話をしながら、教室から出て行った。僕もその流れに遅れまいと立ち上がった。その時、スマホからメールの着信音が聞こえた。
了
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