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空に解き放った心 - 第一話 訪れた転機

訪れた転機

 「今頃どうしているかなぁ、毎日でも会いたいけど、無理だよなぁ」

 九月になり肌寒くなった札幌の秋の空に赤く染まった夕日を見ながら健二は一人で呟いていた。健二は今、北海道に転勤となり札幌の開発拠点で勤務しているプロジェクト・マネージャ(PM)である。そんな健二には付き合って一年になる彼女がいた。名前は、しおりという。しおりは現在東京で仕事をしているので長距離恋愛中ということになる。健二とは違う会社でコンサルタントの卵として日々忙しく働いている。どちらかといえば、健二の方が熱を上げているような感じだ。

 一年前ふたりは、東京芝浦にあるお互いのクライアントの仕事で偶然に出会った。しおりの会社は、このクライアントに人事の仕組みについてコンサルティングを実施し、それまでの人事制度とは異なり社員をさらに優遇できるような仕組みをアウトプットしていた。社員の離職対応を織り込んで優秀な人材の流出を防止することもシステム刷新の目的の一つだった。そのアウトプットをベースにして業務システムとして構築する仕事を健二の会社が請負、健二はプロジェクトマネージャとして担当していたのだった。

 しおりは、本来はプロジェクトマネージャが専門であり、システム開発のプロジェクトを推進するのが本業だった。システム開発会社に勤務しているPMだったのだが、コンサルティング会社から引き抜かれる形で会社を変わり、現在はコンサルタントとして仕事をしているのだった。その時にしおりを引き抜いたのが、現在のコンサルタント会社の水島翔だったのだ。健二との出会いが実現したのはコンサルティング会社に転職したことが発端だったのである。では、どうして転職することになったのだろうか。さらに半年ほど遡ることになる。しおりには将来を左右するような転機が訪れていた。コンサルタントの翔は、将来の事業拡大計画のために優れたPMを探していたのだ。なかなか見つからない時に友人からしおりを紹介されたのだった。会ってみて、しおりのPMとしての手腕と容姿、頭のキレに惚れ込んでしまい、アプローチしたのだった。その時に、翔はコンサルタント会社の社長の息子だということがわかり、計算高いしおりはググッと心を動かされたのだった。仕事の話をしているうちに、翔はしおりの才能に確信を持ち、父親である社長に話をしておくことを決断していた。

「父さん、とてつもなくいい才能を持った女性に出会ったよ。できれば、引き抜いて、コンサルチームに入れたいんだ。これまで話をしていたシステム開発部門を立ち上げる時のトップとして働いてくれる自信があるんだ。ゆくゆくは、一緒になって、父さんに楽をさせてあげるよ」
「ほう、やっとお前も真剣になれる相手を見つけたのか。まぁ、お前がそこまでいうんだから信じることにするよ。それで、その子をこの会社に入社させてコンサルティングの学習をさせるつもりなんだな」
「うん、そうなんだよ。社内でいざこざが起きないようにしておきたいから」
「しかし、私に直接紹介するのは、システム開発部門の目処が立ってからにしてくれよ。それまでは、どうなるか分からんからな。それに、今はデータセンターがらみの投資戦略を練っているから、そのうちにお前に依頼する仕事で連絡することになると思うよ。ただし、データセンターの件はまだ誰にも言っちゃいけないぞ。もちろん、彼女にもな。社外にリークしてしまうと大きな問題となってしまうからな」
「了解。できるだけ早く呼び出してくれよ。あまり気が長い方じゃないから」
「はっはっはっ、分かってるよ、お前の性格は。私によく似てるしな」

 父親と話をした数日後に、翔はしおりに話を切り出した。勇気を出して伝えるために、ショットバーに行き、若干テキーラの勢いを借りて話をした。翔はいずれは社長の後を自分が継ぐことになるということと、今は存在しないシステム開発部門を立ち上げる計画を持っているということ、しかし翔自身はシステム開発に詳しいわけではないので信頼できる人材を探しているということ、そしてそれにはしおりが適任だということを伝えた。さらに、しおりには翔の会社に転職して来てほしいということと、そのためには準備金も用意するし、現在しおりが勤めている会社にもしっかりと話を通すということも付け加えた。最後に、一番の決め手となったのが翔からしおりへのプロポーズだった。翔は真剣にしおりと一緒になって会社経営を実行していきたいと計画していたのだ。今ここでしおりを逃してしまうことになるとしおりより優れた女性に巡り会うことは到底できないと考えていたので、何としてもしおりの心の全てを得ておきたかった。半ば強引に畳み掛けるように翔は思いの丈をしおりに伝えた。翔は、自分の真剣さと将来への期待はしおりの心に届いてくれたとある程度確信していた。きっとしおりなら、一緒に歩く道を選択するはずだ。それがしおりにとっても、今ある選択肢の中で唯一無二のものだろう。翔は、話し終えた瞬間から次に進めなければならない段取りなどを考え始めていた。全てのことにおいて「善は急げ」で行動した方がいい結果につながることをこれまでの経験で身に着けていたのだ。


つづく

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