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空に解き放った心 - 第一話 期待と失望

期待と失望

 翔の話を聞いてしおりは、自分の人生設計の変更を頭の中で考えた。自分の得意とするスキルを活かせるし、会社経営もできるようになることを想像してその未来にすっかり夢中になってしまった。それに翔のことはすでに大好きになっていたので、その場でOKの返事をしたのは言うまでもない。しおりはとても計算高く現実的な女性だったので勿体ぶる行為は得意ではなかった。そんなところも翔と相性がいいのかもしれない。どちらかといえば、自分自身の生活基盤を良くするための損得を考えることを一番に実施してしまう方だった。そして、その上で安心して一緒になれるパートナーとの愛を考えるのだった。

 その後、翔としおりは付き合いながら翔は上級コンサルタントとして、しおりはコンサルタント見習いとして仕事をするようになった。PMの時にコンサルティングの研修もいくつか受講していたしおりは、コツを掴み始めると何なくコンサルティングの仕事もこなせるようになっていった。一通りの仕事を覚えた後は、翔以外のチームの仕事も担当するようになった。この辺りも翔の思惑通りだった。しかし、翔はしおりにも話せない極秘プロジェクトへの参加のため、しおりの前から連絡もなく、忽然と消えてしまったのである。会社内でしおりが確認しても誰も知らなかった。どうやら失踪してしまったらしいとの噂が立っていたくらいである。その時、しおりは「騙されたのかな、この私が」と心の中で思っていた。そして、このままじゃ終われないと思い、自分の将来のために仕事に没頭しメキメキと頭角を現していったのだった。その影には有能なリサーチャーの存在もあった。元々はデータサイエンティストである里香というリサーチャーが適切な調査を実施し資料をまとめ上げ、しおりが判断しやすくしてくれていたのだ。しおりは里香にかなり助けられていた。そのおかげでクライアントと話をする時間を豊富に作り出すことができるようになり、PMとしての経験からの提案などもできて、クライアントからの信頼は鰻登りに上昇し、社内での評価も向上することになっていったのである。

 とはいっても、やはり心のどこかには翔を信じるべきなのかという思いもあり、いなくなった後しばらくの間は翔から連絡が入ることを期待していた。しかし一向にその気配は感じられなかった。そして、数ヶ月が過ぎ、今回の案件のコンサルティング担当者としてプロジェクトに加わることになった。プロジェクトが終了する頃には翔に対する信頼は完全にしおりの心から消滅し、それまでの存在を意識的に忘れることにしたのだった。この時、しおりが第一に考えたのは仕事の安定と社内外からの信頼獲得だった。自分のスキルを信じ、何としても盤石な仕事の基盤を作ろうと試みていたのだ。翔のことを意識的に吹っ切ることでそのエネルギーの全てを仕事に振り向けたのだった。周りからすると異様に頑張りすぎるキャリア・ウーマンに見えていたかも知れない。

 プロジェクトも終盤に入り、クライアントに成果物の報告を実施した。今後の方向も提案して全て終了となり、クライアントから借用していたプロジェクトルームも片付けてチーム全員、引き上げるつもりで整理していた。


つづく

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