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空に解き放った心 - 第一話 健二との出会い

健二との出会い

 コンサルタント会社としてのアウトプットは一旦クライアントに引き継がれるのが普通だが、クライアントの強い希望があり、開発担当である健二たちのチームが同席して引き継ぎ作業を実施することになり、お互いが顔を合わせることになった。最初は、お互いの会社同士は敵対視していたので、健二としおりもお互いを警戒しながら引き継ぎの話をしていた。ある日、ほとんどの引き継ぎ作業が終わった時、コンサルチームのしおりだけが後片付けのためクライアントのオフィスに残っていた。その時健二は、特に他意もなく、遅くなっていたので、しおりを食事に誘ったのが最初のきっかけだった。その時しおりは付き合っていた彼氏がいなくなって仕事に没頭している時であり、当分恋をしないと決めていた。なので、健二の誘いにも、そっけない対応をとっていた。

「遅くなったから、食事して帰るけど一緒にどぉ、一人じゃ美味しくないし」
「あー、もしかして、それって誘ってるんですか? まぁ、どうせこの後、食事は摂らないといけないのでいいんですけど」
「あっ、いや、別に変な意味で誘ったわけじゃないよ。引き継ぎもほぼ終わったのでどうかなと今思っただけだから、嫌ならいいです。一人で行くから」
「行きますよ。今後のクライアントとの関係もありますし。変なこと吹き込まれても嫌ですから」
「あぁ、オーケー、じゃあ、三十分後にで出ようか」
「分かりました、三十分後ですね」

 最初はこんな感じで、二人はとりつく島のないような感じでのスタートだった。しかし、その後、食事のために近くのレストランに入り、しおりが頑張ってきた過去を聞き、健二は何となく惹かれていったのだった。

「コンサルティング作業は大変だったでしょう。あとは我々に任せてください」
「お願いします。本当は、システム開発まで私はやりたかったんですけど、私の会社では担当することができないんです。会社としてやっていないので。そこが、悔しいんですよね。最後まで見届けたいのに」
「へぇ、システム開発にも興味があるんですね」
「というか、私自身はそっちが本業ですから、個人的には。私は今はコンサルティングチームの下働きですけど、本来はプロジェクトマネージャなんです。当然ですがプロジェクト・マネージャとして重要な資格であるPMIの認定も持ってますよ。当然、更新もしてます」
「すごい、僕はまだ受験してもいないな。じゃあ、なぜ、今の会社に入ったんですか」
「入るつもりはなかったんですけど、成り行き上仕方なく」
「仕方なくってどういうこと」
「うーん、まぁ、いいか。もう過去のことだし、話ましょう。元彼がどうしても今の会社に入ってくれって言ったんですよ。口きくからって。私は最初断ったんですけど、そうじゃないと結婚できないからって。元彼のお父さんが社長なんですよ。今の会社」
「えーっ、すごいな。玉の輿ってやつかな」
「違いますよ。もう別れたし、あんなやつ。今は元彼です」
「えっ、どういうことですか」
「あー、思い出しただけでも腹が立つ。あいつは私のPMとしてのスキルが欲しかっただけで結婚する気は1ミリもなかったんですよ。でも悔しいから今も会社を辞めていないし、この後もっと上の立場になってやろうと思って」

 しおりは、元彼から、「君のPMとしてのスキルは絶対に役に立つし、会社に入ってくれれば一緒になる道も作りやすくなる」と言われて転職したということや、入社した途端に、肝心の言った本人が失踪してしまったらしいということになり、急に姿を消してしまったのだということを付け加えて説明した。

 こんな経験をしている女性に健二は初めて出会った。すごく優秀なのに消えてしまうような彼氏を選んでいたということが意外だった。でも、社長の息子だったらふらっと戻ってくることもあるかもしれないな。だったら、今のうちに何とかしておかなければならないと咄嗟に考えた。心のどこかで、しおりとの繋がりを切っちゃいけないという声がして、その日の内にお互いのラインの友達登録まで持ち込んだのだった。もちろん、引き継ぎでわからない内容があったときにすぐに連絡できる方が便利だからといって強引にラインでの連絡ができるようにしたのだった。その後は健二の持ち前の「押し」でしつこいくらいのアプローチを繰り返し、やっと付き合うようになっていったのだった。健二は実直で真面目な性格なのだが、自分が思い込んだらとことん追求するようなタイプだった。最も、二人ともスキル的にはプロジェクトマネージャなので話をする題材には事欠かない。何となく徐々に二人の距離は近づき、しおりもいつしか健二のことを愛するようになっていったのだった。そうして、次第にそして確実に翔とのことは記憶から薄れていった。

 そんなおり、健二の会社では札幌に開発拠点を作るという話が持ち上がり、札幌拠点のPM組織のリーダーとして健二に白羽の矢が立ってしまったのだった。もちろんしおりは東京勤務のままで変わりはない。健二はしおりに転勤のことを伝えたが、健二にとっては出世することになるし、今より大きく重要な役割を担うことになるのでしおりは大賛成した。しおりは自分より仕事ができない男は嫌いだったし、将来の目標を持っていない男も好きではなかった。そういう意味では、健二は少し物足りないところがあったのだ。だから今回の転勤をきっかけに飛躍してくれればいいと考えていたのだった。

 結果的に転勤後から二人の遠距離恋愛がスタートした。ラインやズームを使って毎日連絡する日々が始まったのだが、お互いの仕事は夜遅くまでかかることもしばしば、毎日のオンライン連絡は長くは続かず、電話も留守電になるケースが増えていった。そして段々とラインのメッセージでのやりとりのみとなり生活の時間差によるズレが生じ始めていった。

 遠距離恋愛は、時としてその距離が障害となってしまう。会いたい時にすぐ会えないこと自体が不満となり心配となり疑心が生まれるものである。でも、今はITの力を借りれば最低でも画面越しだけど会うことはできる。しかし、二人の場合は、お互いの仕事の忙しさが阻んでしまっていたのだ。仕事が増えて責任範囲も広くなり収入が増えるのはいい事なのだがその分プライベートの時間を犠牲にしてしまうことになってしまう。ITに関わっていて有能であるが故の障害。皮肉なものだった。仕事上の障害は何とかして排除する工夫をするが、こと恋愛に関しては直接話せない時間が増えていくと、どうしても相手への思いが段々と薄くなっていく。その冷めていくスピードはしおりのほうが早かった。しおりは現実を直視して損得を判断する。しおりにとって、今一番大切なのは今よりもっとより良い生活基盤を築く事だった。健二は違っていた。しおりとの関係を続けられるのならそれだけでいいと考えていたのだった。だからしおりの変化に気づくことなく、日々の仕事に没頭していた。もちろんしおりの心を信じていたし、しおりへの一途な気持ちを維持しながら日々の仕事を大切にこなしていたのである。

つづく

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