10月23日 家族写真の日 【SS】現実
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 家族写真の日
東京都中央区日本橋人形町に事務局を置き、赤ちゃんや妊婦さんなど家族の思い出写真作りを行う一般社団法人・日本おひるねアート協会が制定。
日付は「撮(と=10)ろうファミリー(23)」と読む語呂合わせから。
毎年約5万人の赤ちゃんを撮影している同協会では、赤ちゃんだけの写真は多いが両親と写っている写真が少ないことに気がついた。そこで記念日を通して多くの人に「家族写真を撮る」という習慣を作ってもらうことが目的。
家族が集い写真を撮ることで、家族の歴史を一年に一度刻んで欲しいとの願いが込められている。記念日は2020年(令和2年)に一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。
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【SS】現実
私の家系は代々伯爵の爵位を受け継いでいる。今は、私の父が伯爵を名乗っている。残念ながら私はスカーレットという名の女性。父の伯爵の爵位を引き継ぐことはできない。おそらく弟のチャーリーが引き継ぐことになるだろう。本当はジェームスという兄がいるのだが、数年前に父と喧嘩をして家を飛び出してしまった。その時に、父から勘当されてしまったのだ。今頃はどこでどうしているのかさえもわからない。でも、気まぐれな性格なので、忘れた頃にひょっこりと私の前に現れてくれるのかもしれない。
今この文化遺産とも言える煉瓦造りの館で生活しているのは、祖父母と両親と弟と私だ。家や庭などを維持するための職人さんには月に一度通って来てもらっている。日々の掃除や料理も今では麓の街から平日のみ通ってきてもらっている。以前は住み込みで雇っていたらしいのだが、時代の変遷とともに収入も減少したため、祖父の代からコスト削減を実践している。私も今はまだ大学生なので、親に甘えているが、卒業後は就職するつもりで法律を勉強している。弟はまだ高校生なので、まだまだ脛齧りは続くのだろう。
この館には、ゲスト用の部屋などを含め二十近い部屋数がある。その中には、不思議な部屋も存在する。家族でかつこの館に住んでいるものしか入れない部屋があるのだ。部屋の広さは百平米程度なので、そこそこ広い。その部屋は『家族写真の部屋』と呼ばれている。大きな窓は作られておらず、明り取りの窓が、外に面した天井下の壁に小さいスリットが作られ、そこに磨りガラスがはめられているだけである。ドア以外に出入りできる場所がない様に作られたようだ。部屋に入るドアは、明り取りの窓の向かい側、つまり北側に作られ、天井まで届く高さの扉になっている。ドアを開けて左側、つまり東側の壁には、現在住んでいる私たちの家族写真が等身大で飾られている。反対側の西側の壁には、すでに亡くなったご先祖様の写真が所狭しと並んでいる。そして部屋の中央には部屋の四隅に向かって鏡が配置されている。なんとも不思議な空間を演出している部屋なのだ。私は、毎日この部屋に入り備え付けの椅子に座り、家族写真をじっと眺めながら、話をしたりしている。
実はここに飾られている写真には不思議な力が宿っている。決して家族以外の人には話せない不思議な力だ。不思議な力に守られている部屋といってもいいかもしれない。私は、この部屋は、死者の世界と生者の世界を繋ぐ部屋だと感じているし信じている。私は一日一回、この部屋の扉を開け、不思議な現象を確認し、不思議な会話を楽しんでいる。
今日も家族写真の部屋の扉を押し開ける。正面の鏡は扉の左右を映し出している。扉の左右にはこの館から出て行った人たちの肖像が浮かび上がっている。いつものことなので気にせずに、自分が写っている家族写真の前まで歩く。そこには、おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、弟、そして私が写っている。兄のジェームスは写っていない。小さい頃は一緒に写っていた。実は、この家族写真は、館を出て行った瞬間にその人の写真は消えてしまい、扉の左右のどこかにその時点の肖像として移動してしまうのだ。最初は怖かったが、この部屋では当たり前のことなので、いつの頃からか気にならなくなった。そして、家族写真は新しい家族が生まれた時だけ近くの写真屋に依頼して居間で写真を撮り、この部屋の家族写真を更新することになっている。それから後は、一切写真を撮ることはない。つまり、写真に写っている家族は写真の中で成長し、年老いていくのだ。ただ、館を出て行ったものは、場所が映るだけで、その時の姿から変わることはない。不思議な現象だった。私は自分の写真の前に立ち、ニコッと微笑む。すると、写真の私も微笑み返してくれるのだった。まるで、鏡のように。
ひとしきり、私が写っている家族写真の前で過ぎていく時間を楽しんだあとは、後ろを向いて、亡くなってしまったご先祖様の方へ歩み寄る。すると、壁一面に整然と並んでいたご先祖様の写真たちが、一斉に中央に寄ってくる。私に話しかけてもらうのを待っていたかのように。まるで、餌付けされた池の鯉のようだ。私は、静かに話しかける。
「ごきげんよう。そちらの世界は平和ですか?」
『スカーレット。今日も綺麗だね。こっちの世界は退屈で死にそうだよ』
「あら、もうお亡くなりになっていますよ。フフッ」
『ああ、そうだったね。すっかり忘れていたよ』
「お兄様は帰ってこないのかしら。どなたか、お兄様がどうしているかご存じありませんか?」
『こっちの世界でも何も聞こえてこないなぁ。まぁ、生きていることだけは確かなようだが。全く長男のくせにどこで何をしているのやら。弟がいるからいいようなものの、本来ならこの館を受け継ぐべき人間なのにな』
「もうすぐ私もこの館を出て働くか、ここから通って働くかを決める時期がくるから、そうなったら少し探してみようかしら」
『スカーレット、探すのはやめた方がいいよ。歴史を変えてしまうかもしれないからね。そっとしておきなさい。いつの日か、ジェームズの方から連絡をくれるまで』
私は、こんな会話を毎日のように家族写真の部屋でしている。生者の成長の確認と死者との会話ができるこの部屋が好きだ。ただ、館を出た人の成長が確認できないのが気がかりではある。私は今日、家族写真をスマホで撮った。これまで考えたことも無かったのだが、今日はふと脳裏に浮かんだのだ。これで、私のスマホのアルバムに一枚の家族写真が入ったはずだった。家族写真の部屋を出てスマホを確認してみると、なぜか壁紙の写真だけが写っていた。
了
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