5月31日 古材の日 【SS】木は生きている
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】-古材の日
愛媛県松山市に本社を置き、「古材流通の文化」を創造することを目指して、古材の再活用に向けた事業を展開する株式会社ヴィンテージアイモク(現:株式会社アステティックスジャパン)が制定。
日付は「こ(5)ざ(3)い(1)」(古材)と読む語呂合わせから。古材の魅力を伝え、その有効利用や再利用について理解と関心を深める日。記念日は一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。
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5月30日 古民家の日のSSの続きのお話になっています。
【SS】木は生きている
古民家を手に入れ、時空間を移動できるようになった新道繋は、未来と過去への旅行を楽しみつつ、古民家の内側のリフォームを自ら手掛け始めた。住むためには雨風を防がなければならないため、外側の部分は業者に依頼した。可能な限り再現するように依頼したが、屋根だけば茅葺をくり返すのはコスト高になってしまうため、今時の軽くて丈夫なガルバリウム鋼板に張り替えた。
茅葺から鋼板に変えた事で、時空間移動装置が誤作動しないか心配をしていたが、影響はなさそうだった。どうやら、茅葺というより古民家を支えている木材が重要な役割を果たしているのかもしれないと考えていた。そのため、外側の修復には、家の周りに山積みされている古材を利用するようにリフォーム業者に依頼し、サイディングなどは利用せずにリフォームしたのだ。そのせいか、屋根以外の外観はほとんど変わっていない。
古民家といえば寒くなった季節の隙間風が気になっていたのだが、リフォーム後は不思議なことに隙間風が入ってこない。まるでスウェーデンハウスのような機密性を感じられる。部屋の中で大きな声で話をしても扉を閉めていれば外に声が漏れることもない。使われている木はもしかしたら今も生きているのではないかと新道は考えた。それが、時空間移動の制御に関わっているのではないかと。
新道は部屋の内部のリフォームを自らの手で始めた。ここでも使う材料は古材のみだ。畳の部屋は全て古材にカンナをかけた床に変えた。その時に気がついた。玄関扉は三重になっていたのだが、実は床も少しの空間がある三重床になっていたのである。これなら空気の層が断熱材の代わりをしてくれるわけだ。よく見ると、窓は木枠ではあるが二重になっていて外側には雨戸がある。やはり三重だ。傷んでいる壁の内側の板を剥がしてみると、ここにも内側に板が張られていた。土壁ではない。やはり木材で三重になっている。どうやらこの古民家は全てが三重構造になっており機密性が保たれていたようだった。
唯一天井が三重になっていないことが気になった新道は、みずから屋根裏に入り古材の板を隙間がないように内側に貼っていった。元々屋根と天井はあったので、その下にもうひとつの天井を作るだけだった。追加の天井張りが完了して新道は一安心していた。
「これで、全てが三重になった。もともとは茅葺を含めて三重構造にしていたのかもしれない。その部分の代替として今回の追加天井は我ながらいいアイデアだった」
そう考えていたところに、村の古民家管理の古家が訪ねてきた。
「こんにちは。古民家管理担当の古家です。新道さん、いらっしゃいますか」
「はい、ご無沙汰しています。もうだいぶリフォームも終わりましたよ。これ申請すれば補助してもらえるんでしたっけ」
「ええ、そうです。今回は三軒分なので六百万まで支援可能です。ただ、条件があるのです」
「条件とはなんでしょうか」
「それぞれの家に住む人が実在すること。その人が住民登録をしてくれることなんです。今回は新道さんがお一人で購入されてしまったので、もしかしたら住む方はしらっしゃらないのかもしれないと思いまして訪ねてきた次第です」
「ああ、まぁ、考えてみれば当たり前ですね。じゃあ、二百万円だけの申請をさせていただきますよ。住むのは私一人だけなので」
「あ、やはりそうでしたか。でも、なぜお一人で三軒も」
「いやいや、この土地が好きなだけですよ。それ以外には何もありません。また、何かあればこちらから出向きますので、わざわざお越しいただかなくても結構ですよ」
「はぁ、そうですか。わかりました。ではまた何かあればご連絡ください」
村の管理者もちょっと気になっているようだった。しかし、新道はそんなことよりも今回手に入れた古民家の利用方法を整理するためにも、内装を自分でリフォームして快適にすることの方が重要なことだった。数ヶ月経過して住むための最小限のリフォームも終了した。電気を使う最新設備を入れないで昔ながらの再現を心がけた。しかしそれでは普段が不便なので、屋根の張り替えの際に、中央の古民家の後方に簡単な小屋を古材を使って建ててもらっていた。そこに、電気ガス水道を引き冷蔵庫や洗濯機などの家電をまとめて置いたのである。各古民家の中に電磁波を発生させるような家電は一切置くことを控えた。普段は、ブレーカーも落としてしまう徹底ぶりだ。
なんとか日々の生活ができるようになり、本来の目的を実施しようと新道は準備を始めた。新道は自称時空間の研究家という肩書きの使用を止めることにした。代わりに、過去と未来の小説家という肩書きを勝手につけた。彼は、過去に戻り記録にない歴史のことを調査し、小説として世の中に出し、未来に行ってはSFの小説として執筆した。そう、新道は時空間の自由な移動を小説の執筆に使うのが最終目的だったのだ。言い換えれば、実際に起こった事実や未来の事実を自分だけが直接見て確認できる特権を得たことをなんとかして残したかったのだ。
しかし、古民家は新道のそんな行いを受け入れはしなかった。当初は綺麗に復元してくれることに感謝していたが、新道のやりたいことを知り、古民家を形作っている古材たちは一致団結して、あることを計画した。
歴史に関する小説を一つ書き上げたあと、新道は未来へ行ってみることにした。悩んだ挙句、東側の古民家に行き、目的地を五百年先に設定して、スイッチをいれた。新道は東の古民家から姿を消した。そして、一日経っても二日たっても中央の古民家に戻ってくることはなかった。古民家の古材たちは、戻ってくるための時空の穴を閉ざしてしまったのだった。この後新道が現代に戻ってくることはなかった。そして古民家も秘密を知るものが居なくなり、ひっそりとなった。ただ、中央の古民家裏の小屋に秘密を記録したタブレットは置きっぱなしのままになっていて誰かに発見されるのを待っているようだった。
連絡がなかなか来ないことを気にした古民家管理担当の古家は、リフォーム申請がなかなか提出されないことに痺れを切らして様子を見にやってきた。果たしてこの後この古民家はどうなっていくのか気になるところである。
了
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