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8月31日 空き家整理の日 【SS】家霊

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 空き家整理の日

東京都世田谷区松原に本社を置き、関東圏で空き家や遺品整理の事業を行う株式会社ワンズライフが制定。

日付は「あきや(8)せ(3)い(1)り」(空き家整理)と読む語呂合わせと、夏の終わりに空き家の整理を考えてもらいたいとの思いから。住む人がいなくなり増え続ける空き家は、防災上・衛生上・景観上など、地域社会にとって大きな問題になっていることから、空き家やその家財の整理に関心を持ってもらうことが目的。記念日は2016年(平成28年)に一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。


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【SS】家霊

 今や日本の空き家状況は毎年酷くなるばかりだ。子供たちは都会にでてしまい、親が亡くなった途端、田舎の家を放棄するケースが後を絶たない。そのうちに持ち主不明の家となり、長年放置されることになる。家は、愛情を持って誰かが住んでいる間は健康状態を保ち続ける。しかし、住人がいなくなった途端に朽ち始めていくのだ。だが、その家に住んでいた人たちが多ければ多いほど、家の年齢が高ければ高いほど、家は魂を宿してしまう。数百年経っても、倒壊しない家はその魂たちが家を守っているのかもしれない。

 三十年ほど前に、村から都会に出て行ってしまった時守誠治と時守香代子という名前の若い夫婦がいた。田舎の家は、山の上で不便だったため、当時は年老いた両親だけが残って住んでいた。栄えていた頃は数百件の家があった村だが、最後まで残っていたのは、時守家だけだった。しかし、それも二十年前で終わりを告げた。強い雨の日の夜、畑の様子を見に行った両親は、不幸にも鉄砲水の土砂崩れに巻き込まれて亡くなってしまったのだ。その後、簡単に葬儀を済ませると時守家は空き家になったまま放置され忘れられてしまった。都会に出ていた時守夫婦も田舎に戻ることはなく、都会の忙しさで実家の存在すら忘れそうになっていた。当然、家のメンテナンスをすることもなく、次第に朽ちていった。村中の家の老朽化が進み、倒壊の危険があるということで、市役所から家の持ち主宛に、取り壊しをするように依頼する手紙が一斉に出された。しかし、その大半は配達先不明で戻ってきていたのだった。時守夫婦は受け取っていた。しかし、裕福なわけではないので、取り壊し費用を捻出できそうになかったため、放置し続けていた。

 しばらく経って、強制的に市の費用で取り壊しを実施することが決定され、工事業者が村に入ってきた。流石に、村を出て行った時守夫婦だったが、自分たちの負担が無いと解り、最後の実家の姿を見るために村の近くのホテルを予約して来ていた。取り壊される現場を確認しようとしたのだ。工事業者が作業を始めた。老朽化が激しい数件先の家から取り壊しが始まった。見学に来ていた時守夫婦の実家も跡形もなく取り壊されてしまった。あっけないほど簡単に取り壊されてしまったのだ。夫婦は手を合わせ、麓の街のホテルに戻った。翌日、最後にもう一度確認しようと村に戻った。しかし、そこにはありえない光景が待っていた。

「昨日取り壊されたはずの実家が、元通りに建っているぞ。どういうことだ」

「あなた、どうして。昨日壊されるのを私は見たわ」

 呆然と立ち尽くす夫婦の横で、作業確認にやってきた工事関係者の一人が口走った。

「家に霊が取り憑いているに違いない。この家だけ元に戻るなんて。これは家霊の仕業だ。祟りに違いない。きっと、家が大切にされていなかったせいだ」

 そう叫ぶと手を合わせながら足早に去って行ってしまった。時守夫婦は目を見合わせて後悔していた。

「俺たちがほったらかしていたから両親が怒って取り憑いているのだろうか」

「あなた、私、怖いわ。どうするの」

「とりあえず、供養するしかないだろう。住職を呼んでくるよ」

 そういうと、突然空が真っ黒い雲で覆われ、激しい雨が降り始めた。夫婦は咄嗟に実家の玄関を開け中に入り雨を凌ぐことにした。すると暗い部屋の奥に、白く光るもやが見えた。ちょうど仏壇が置いてあった部屋だ。二人とも、ごくりと唾を飲み込んで、凝視していた。

『誠治。お前のことだからほったらかすだろうとは思っていたが、一晩も泊まりに来ないとは思っていなかったよ。お前の思い出の品物がほんの少しだけ残ってるぞ。別に恨んではいないから、思い出の品物だけ持って帰りなさい』

「えっ、親父なのか。ごめん。何にもしてあげられなくて。言い訳はしないよ。周りの家も同じような状況になってたから、ほっといてもいいかなって思ってしまったんだよ」

 誠治は、家の中に上がり白いもやの近くにある箪笥の引き出しを見た。ほんの少しだけ引き出されている箇所がある。そのまま引っ張ってみると、小さなカンの箱が入っていた。それは、誠治が小さい頃に宝物箱として使っていたものだった。蓋を開けてみると、けん玉やビー玉、コマ、父親から買ってもらった本などが無造作に入っている。そして一枚の写真。両親と一緒に写っている写真だった。誠治は思わず、昔のことを思い出し涙を流した。傍で、妻の香代子も涙している。

「お義父さん、お義母さん。申し訳ありません。忙しさを言い訳にしていました。本当に申し訳ありません」

『いいんだよ。佳代子さん、別に気にはしていない。生きている者の方が大切だからな。この家も取り壊してくれて構わないよ。最後にこうして会えたことでやっとホッとした。なぁ、母さん』

『はい。そうですね。お父さん、これで安心ですね。香代子さん、誠治をよろしくね』

 白いもやは消え、外はあれだけすごい雨だったにも関わらず、真っ青な空が広がり、綺麗な虹が架かっていた。二人は玄関を出て空を見上げた。手には宝箱を抱え、なんとなく心のモヤモヤが晴れているような気がしていた。

 家霊の仕業だと言って山を降りて行った工事担当者が仲間たちを連れて戻ってきた。時守夫妻のところまで来て、またしても驚いた。

「あ、あ、あれ〜。確かにこの家だけが元通りになっていたんですよ。ネッ、そこのお二人も見ましたよね」

 時守夫妻は振り返って、取り壊された実家を見つめながら、静かに言った。

「いいえ、私の実家は昨日、あなたたちが取り壊してくれたじゃないですか。私たちは、今日はその確認に来ただけですよ。それでは、我々は失礼しますね」


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