見出し画像

8月30日 国際失踪者デー 【SS】身代わり

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 国際失踪者デー

国際人権NGOのアムネスティ・インターナショナル、赤十字国際委員会、国際連合人権高等弁務官事務所などが実施。英語表記は「International Day of the Disappeared」。

失踪しどこかに監禁されている人々の境遇への関心を引くための日。

2006年(平成18年)12月20日に国連総会で「強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約」(強制失踪防止条約)が採択された。2014年(平成26年)8月30日時点で、日本を含む93ヵ国が署名、43ヵ国が批准となっている。


🌿過去投稿分の一覧はこちら👉 【今日は何の日SS】一覧目次

【SS】身代わり

 世界のどこかでは、突然人が失踪する事件が後を経たない。誘拐だったり拉致されたりと事件性が高いのが多くあるのだが、時には、忽然と消えてしまうことも起こっている。日本では、昔から神隠しなどと呼ばれ、突然人がいなくなることが起きていた。鬼の仕業だったり、神様の仕業だったりと人の推測は限りなく広がったが、事実はわからずじまいが多かった。まぁ、それだから神隠しと言ったのだろうが。

 昔々、小さな村に幼い赤ん坊を亡くして途方に暮れている夫婦がいた。冬の寒い時期、両親が外の畑で仕事をしている時に、赤ん坊は部屋の中で一人で寝ていた。家の中を温めておこうと、夫婦は囲炉裏の火をつけたままで仕事に出かけていた。いつしか囲炉裏の火が消えてしまい、夕方になっていた。気温は下がりかなり冷え込んできたので、夫婦は急いで道具を片付けて、冷たい水を我慢して手足を洗い、家の中に入った。日当たりの悪い家の中はすでに暗くなっていた。

「あら、お前さん、家の中が凍るように冷たいよ。火を点けて出かけたつもりだったけどね」

「本当だ。こいつぁ、いけねえな。坊は大丈夫かい」

「あんた、あんた、坊が、坊が。這い出してきてしまったみたいだよ〜」

「えー、カゴの中にいたんじゃねぇのかい」

「うわー、息してないよー。ぼうー、私のぼう、息をしておくれよー」

 坊は、寝ていた時に、上からかけられていた半纏の中から這い出して、冷たい床で体温を奪われ、凍死してしまったようだった。夫婦は、泣き崩れた。子供を置いたまま仕事に出かけたことを後悔してもしきれなかった。

 打ちひしがれている亭主の心の中で悪魔が囁きかけていた。

『おい、亭主。隣村に同い年の男の子がいるぞ。その子と交換してやろうか』

 亭主は、悲しみに暮れる女房を見ていられなくて、坊を強引に女房から奪い取り、一言言い残して家を出た。

「俺がなんとかしてくる。まだ体は完全に冷たくはなってねぇ。急いでお医者様に見せれば何とかなるかもしれん。お前は家の中を暖かくして待っていてくれ」

「あんた〜。お願いだよ〜。坊がいなくなったら、あたしゃ、狂ってしまいそうだよ」
 すでに息をしていない坊を半纏に包んで亭主は家を飛び出した。誰にも見つからないように隣村につながる道を走り出した。隣村は山を二つ隔てた場所にある。一つ目の山の山頂あたりで、少し道から逸れて亭主は目を瞑った。

『おい、亭主。心は決まったかい。早くしねぇと交換できなくなってしまうぞ』

「わ、わかった。頼む。この子と交換してきてくれ」

 こうして、亭主は悪魔と取引をしてしまった。子供を交換してくれる条件を確認もせずに依頼をしてしまったのだ。そして、亭主はうなだれたまま、山頂の暗闇で時が過ぎるのを待った。真夜中を過ぎて月もない夜、熊笹に覆われた場所で寒さに耐えながら亭主はひたすら待った。そして一陣の風が吹いたと思った時、悪魔が戻ってきた。その懐には動いている赤ん坊の姿があった。包んでいた半纏もそのままだった。亭主は、急いで坊を抱きとった。悪魔は静かに言った。

『私は約束を果たしたぞ。次はお前が私の要求を果たす番だな』

「は、はい。私は何をすればいいのでしょうか。何でもご要望通りにいたします」

『そうか。それはいい心がけだ。では要求を言おう。この子の十八歳の誕生日にこの子を迎えに来るからそのつもりでいろ』

「ちょっと待ってください。それはどういうことでしょうか。まさか、この子は十八の誕生日までしか生きられないということでしょうか」

 悪魔は、それには答えることなく、旋風を起こして消えてしまった。亭主は呆然としたが、まだまだ先の話だから、その時までにいい手を考えれば何とかなるかもしれないと思い直し、今は家で心配している女房を安心させようと急いで山を駆け降りて行った。うっすらと日が昇る時間になったようだ。勢いよく家の玄関を開け、囲炉裏のそばにいる女房のところに駆け寄り、坊を渡した。

「坊、坊なのかい。あっ、息をしてる。生きてる。よかったぁ。あんた、ありがとう」

「ああ、何とか間に合ったよ」

 後ろめたい気持ちを隠しに隠して、亭主は女房とともに喜んだ。しかし、その時のショックが元で、女房は寝込むことが多くなり、次の子供ができることはなかった。月日は過ぎて子供も成長し、十八の誕生日を迎える月になった。女房は、だんだん体調を悪化させ、遂に息を引き取る瞬間となった。女房は、最後の力を振り絞って亭主に伝えた。

「あなた、今まで私を騙してくれてありがとう。あの子は本当の両親に返してあげたほうがいいわ。お願いね」

「えっ、そんな。お前は知っていたのか」

 女房はそのまま息を引き取り、簡単に葬儀を済ませた。息子は、早過ぎる母親の死を前にして、悲しみに打ちひしがれている。父親として、こんな時に息子に真実を告げることなどできなかった。だが、誕生日はどんどん近づいてくる。父親は焦った。女房を失った上、息子まで取られてしまっては、何のために生きてきたのかわからない。父親を絶望が襲った。そして、真実を綴った手紙を残し、息子の誕生日の前日、父親は崖から飛び降りて自害した。

 悪魔は、不気味に笑いながら、その光景を闇の中から見ながら呟いた。

『ふふふ。お前たち夫婦のエゴが招いた結果だ。子供を奪った相手の家族のことを少しでも考えていたなら、私の提案には乗ってこなかっただろう。しかし、それにすがったお前たちの負けだ。お前たち二人の命をもらったから、息子は助けてやろう』

 世の中には不思議なことが多く起こるものだ。他人事ではなく、あなたの周りでも可能性があるということを覚えておいて損はない。


🙇🏻‍♂️お知らせ
中編以上の小説執筆に注力するため、コメントへのリプライや皆様のnoteへの訪問活動を抑制しています。また、ショートショート以外の投稿も当面の間は抑制しています。申し訳ありません。


🌿【照葉の小説】今日は何の日SS集  ← 記念日からの創作SSマガジン

↓↓↓ 文書で一覧になっている目次はこちらです ↓↓↓

ひとつ前のお話はこちら


いつも読んでいただきありがとうございます。
「てりは」のnoteへ初めての方は、こちらのホテルへもお越しください。
🌿サイトマップ-異次元ホテル照葉


#ショートショート #創作 #小説 #フィクション #今日は何の日ショートショート #今日は何の日 #掌編小説 #超短編小説 #毎日ショートショート

いいなと思ったら応援しよう!

松浦 照葉 (てりは) よろしければチップによるご支援をお願いします。皆さんに提供できるものは「経験」と「創造」のみですが、小説やエッセイにしてあなたにお届けしたいと思っています。いただいたチップは創作活動費用として使わせていただきます。