10月15日 助け合いの日 【SS】動かぬ証拠
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
ミステリー小説として連載してきた「誘惑」の最終話となります。
【今日は何の日】- 助け合いの日
東京都千代田区霞が関に事務局を置く社会福祉法人・全国社会福祉協議会(略称:全社協)が1965年(昭和40年)に制定。
日常生活での助け合いや、地域社会でのボランティア活動を積極的に呼びかける日。
全社協は、各市区町村、都道府県・指定都市に設置・運営されている社会福祉協議会(略称:社協)の全国組織として、各地の社協とのネットワークにより、福祉サービスの利用者や社会福祉関係者との連絡調整や活動支援、制度改善に取り組んでいる。
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【SS】動かぬ証拠
証刑事は、最後の詰めに入った。事前に聞き込みした内容では、新たな証拠物件を入手しており、赤水は明らかに偽証していると確信していたのである。
「赤水さん、貴方はまだ隠していることがありませんか」
「えっ、どういうことですか。私は全てを正直に話しているつもりですが」
「今日引っ越しの準備をすることになっている様ですが、急な転勤だと貴方はおっしゃっていましたね。私たちが確認したところ、貴方は突然退職願を会社に提出されています。なぜ、そんな嘘を着く必要があるのですか」
「そ、それは、ちょっとバツが悪いじゃないですか。だからですよ」
大洞がこれに反応した。全く聞かされていなかったようだ。
「えっ、赤水、会社辞めたのか。何も言ってなかったじゃないか」
「引っ越した後で連絡しようと思っていただけだよ。特に意味はないよ」
瀬羽と日々も一様に驚いていた。どうやら知らなかったようだ。引っ越しの話も今日聞いたのだろう。証刑事が続けた。
「それで、どちらへ引っ越しをされる予定なのですか」
「九州です。なので、鉄道貨物を手配する関係もあり、今日の午後には引っ越し業者から手配してもらう必要があるんです。最も、鉄道コンテナ一台分も荷物は無いので、あまり問題になることはないと思っています。吉永さんを中心に助け合いの様な活動をしていましたが、それも不要になってしまいましたので」
「そうですか。ちなみに、お使いのパソコンなどはご自身で運ばれるのですか」
「えっ、パソコンですか。それはそうです。壊れたら困りますから自分で持って新幹線に乗ります」
「なるほど。ところで急に退職を決意されたのは何か理由があったのでしょうか」
「いや、会社に使われるのはもう懲り懲りなので、自分で起業したいと考えただけです」
「そうでしたか。実は、今、赤水さんのパソコンを調べさせていただいていました。もちろん令状はとってありますよ。それで新しい事実がわかりました。瀬羽さんや日々さん、それに赤水さん、貴方本人宛のメールの内容が貴方のパソコンのメールの送信履歴から確認されました。貴方は、吉永金蔵さんになりすましてメールを作成し送信しましたね。吉永さんのパソコンには送信した記録がなかったんですよ。どうしてこんな手の込んだことをされたのですか」
赤水の顔から血の気が引き、俯き加減になっている。予期せぬことで返事にも困っている。
「えっ、いや、僕は何も知りません。一体なんのことですか」
「九月二十九日の夜、貴方は吉永さんと揉めていましたよね。吉永さんの遺産のことで」
「いえ、先ほども言いましたが、僕が行った時にはすでに倒れられてましたので、お話はしていません」
更に赤水の顔が変わり、緊張がピークに達しているのか、首筋に一筋の汗が流れ始めている。縁梨刑事はそれを見逃さず赤水に話しかけた。
「赤水さん、汗かいてますよ。それほど暑くもないのに。全てを正直に話さないと罪を重ねるだけですよ。実は貴方と吉永さんの言い合いしている内容は吉永さんのパソコンに録音されていたんです。吉永さんは結構用心深い人だった様ですね」
「えっ、そんなものはあるわけがない」
録音されていた会話が流された。遺言を書き換えるという話を聞いて逆上している赤水の怒号や、強引に薬を飲まされる吉永の呻き声の後に、おそらく洗面所に移動しているのであろう足音とともに録音は終わっている。慌てて入れ歯を口の中に入れたのであろう。そんな録音を聞かされ、明らかに自分の声だとわかると流石に赤水も観念して俯いてしまった。しばらく重くどんよりした空気が流れ、時計の針が時間を刻む音だけが部屋でこだましていた。大きく深呼吸をして全てを諦めたように赤水は話し始めた。
「仕方なかったんです。遺産で借金も返してやり直せると思っていたから。そしたら、遺書を書き直す話を進めているということを聞かされ、ごめんねと言われました。でも、それを当てにしていた僕には選択の余地がなかったんです。万が一のために持っていった青酸カリを強引に吉永さんに飲ませてしまいました。その時、吉永さんは最後に一言『ごめんな』と言って倒れました。それを見て、自分がやったことの重大さを理解しました。同時になんとかしなければ人生は終わってしまうとも思いました。すでに遺言書は弁護士に渡してあると知っていたので、なんとかそれを有効にしなければと思ったんです。でも、吉永さんの方が一枚上手だったということですね。その後のメールも僕が仕組みました。引っ越したら消そうと思っていましたが、間に合いませんでしたね。それから、入れ歯の洗浄容器と歯ブラシは吉永さんが倒れる際に掴んで床に落ちてしまったので、咄嗟に拾って処分しました。特に深い意味を持ったわけではなく、反射的に拾ってしまったので、捨てた方がいいと勝手に思ったんです。触ってしまったし」
結局、赤水は思い描いていた起業のために引っ越しをすることも新幹線で移動することもなく、証刑事たちに連行されることとなった。この後、最新の遺言書は検認されたが赤水は相続権を失うこととなり、赤水のために準備されていたネット口座の預金は宮前に相続権が移された。しかし、宮前は分不相応な相続であると思い、大洞と話し合った結果、シングルマザーの人たちのために役立てる基金を立ち上げることに使うことを決心したのである。もちろん、弁護士の手助須も手伝ってくれた。全ての手続きを終え、縁梨刑事と証刑事が会話していた。
「今回の事件は悲しい結末でしたね。吉永さんは大きな資産を築いたのに、心の中では過去の行いに対する後悔ばかりだったんですね。そのこともあって、親切にされると喜んでいたのでしょう。犯人となった赤水も最初は本当に親切心でいろんなことを助けていたのかもしれません。それがいつしか、お金という誘惑がのしかかってきて自分で制御できなくなってしまったのかもしれないと思うと切ないですね。最初は純粋な助け合いだったのかもしれないと思うと辛いなぁ」
「そうですね。吉永さんの若い頃はがむしゃらに突っ走ってお金を貯めていたのかもしれませんね。私には無縁ですけどね。私は縁梨さんと一緒に悪いことをした人を検挙するだけです。それも立派な助け合いでしょう」
「まぁ、お金には私も一生縁が無いようなので理解はできませんが、少し悲しくなりましたけど、言われる通り、明石刑事と私は助け合いですね。でも、証刑事はまだ前途洋々ですけど、私はもう終わってますからね」
「いやいや、縁梨刑事もまだまだですよ。フフ。それにしてもお金というものは無意識のうちに人を誘惑してしまうものかもしれません。助け合っているつもりでも、その中心にお金が居座ってしまうと助け合いではなくなってしまうのかもしれません。それはそれで気をつけていないといけませんね」
「フフッてどういう意味の笑ですか、証刑事。まぁ、いいですけど。お金の誘惑か〜。弱いかもなぁ、目の前にドンと見せられたりしたら、フラフラ〜ってなるかもしれませんね」
「ダメですよ。我々は警察官なんですから」
多すぎる資産は時として大きな誘惑となり、お互いに助け合っていた周りの人の心を掻き乱してしまうのかもしれない。何事もほどほどがいいようだ。
了
ちょっと強引に記念日を繋いだ感はありますが、連載終了です。お付き合いありがとうございました。
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