10月12日 ネット銀行の日 【SS】死の準備
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- ネット銀行の日
東京都新宿区西新宿に本社を置く株式会社ジャパンネット銀行(JNB)が制定。
日付は、同社が2000年(平成12年)10月12日に日本初の「インターネット専業銀行」として営業を開始したことから。ネット銀行をより多くの人に知ってもらうことを目的。記念日は2013年(平成25年)に一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。
この日、ジャパンネット銀行は「戦後初の普通銀行免許取得」「新たな形態の銀行の第一号」「日本初のインターネット専業銀行」というチャレンジングな銀行としてスタートを切った。
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【SS】死の準備
九月中旬過ぎ、生前の吉永氏は、ネット銀行をいくつか開設していた。それまでネット銀行は使った形跡がなかったが、縁梨刑事が調査したところ、四つの口座が九月二十日から二十二日の間に集中して開設されていた。そして、全てキャッシュカードは作成されず、三つの口座には一千万円ずつ振り込まれ、残りの一つには二千万円が振り込まれていることが分かった。そして、口座関連を調査しているうちに、吉永氏は私書箱を使っていたことも判明した。どうやら不動産投資業として五十年ほど前に個人事業主登録をした時から利用していたらしい。
最寄りの郵便局に私書箱を設定していた吉永氏は郵便局長とも懇意の間柄でもあり、配達員の日々も所属している郵便局でもあったため、吉永氏の死亡は局内でも十月に入った途端に知れわたった。同時に私書箱の存在も認識されていた。局長の独断で、身寄りがないと聞かされていたが、万一親族の方が現れ来られるかも知れないということで、一週間だけ様子をみようと判断し、そのまま一週間放置された。しかし、誰も訪問する方もいないため、私書箱は開けられ、中身が確認された。そこには、一通の封書が届いていた。消印を確認すると九月二十七日。差出人は手出須法律事務所となっている。速やかに、差出人への返送処理が開始された。不思議なのは、消印は私書箱がある郵便局だったことである。ただ、郵便局においては、吉永氏が依頼している弁護士だとは知る由もないので、何も違和感を感じることなく、粛々と長い間利用されていた私書箱を閉じるための処理を実施していったのである。
その封書が手出須法律事務所に返送されてきたのは、十月十日の夕方だった。その日手出須は外出していて受け取れなかったため、翌日の朝、事務員から、返送されてきましたという言葉と共に封書を渡された手出須は、全てが手書きであることに違和感を持った。それに吉永氏が私書箱を使っていることを知らなかったため、もしかしたら吉永氏が何かを残そうと思ったのかも知れないと直感し、スマホを手に取った。
「もしもし、証刑事ですか? 例の遺言書発表を明後日に控えて準備をしているのですが、不思議な郵便物が届いたんです。まだ開封していないので、立ち会っていただきたいと思い、電話しました。私の事務所に来てもらうことは可能ですか?」
「ええ、午後一番にお伺いできます。不思議な郵便物とはなんですか」
「はい、郵便局から返送されてきたんですが、それが吉永氏の私書箱に届いていた封書なんです」
「何が不思議なのでしょう」
「あっ、そうでしたね。実は私は吉永氏が私書箱を持っていたことを知らないんです。だから私が吉永氏の私書箱宛に封書を出すことはありえないんです」
「おお、なるほど、それは不思議ですね。わかりました、続きは事務所でお伺いします」
「はい、お待ちしています」
手出須は、封書をデスクの上に置いて、いったい何の書類が入っているのだろうと思案していた。吉永氏が出したとしたならば、元々自分の私書箱なのだから、誰にも届かない書類ということになる。ただ、私書箱の利用者が死亡した場合には、その中に入っている郵便物は差出人に返送される。色々と頭の中で考えていると証刑事と縁梨刑事が事務所に到着した。
「証刑事、縁梨刑事、わざわざありがとうございます。明後日の遺言書の開封の件は関係者に連絡済みであり、全員参加の返事をもらっております。そんな時に、これが届いたんですよ。これは、どう見ても吉永氏の筆跡なんです。もしかしたら、自分の身に何かあった場合に私に届くように準備していたのではないかと思われて仕方ないんです。この消印を見てください。九月二十七日なんです。私が、宮前さんの存在をお知らせした後なんです」
「なるほど、では開封しましょうか。私と縁梨が開封の証人になります」
「それでは、開けます。どうやら二通の封書が中に入っているようです。一通は私宛ですね。もう一通は、あっ」
「どうしました」
「自筆遺言書です。私の方で準備していた公正証書の遺言書ではなく、吉永氏が自ら書き起こして封をしたものです。もしかしたら、新しい遺言は間に合わないと感じたのでしょうかね」
「そうすると、遺言の内容はどうなりますか」
「ちょっと面倒ですが、この新しい遺言書を検認をしてもらうために裁判所に申請し判断してもらう必要があります。それで、現在私の手元にある遺言書と食い違うところがあれば、新しい日付の方が有効になるのです。ただ」
「ただ、なんですか」
「検認する時には、相続人全員の立ち合いのもと、封を開けることが必要になるので、その対象者が誰になるのか私にはわかりません」
「なるほど。それはそうですよね。現在の遺言書の内容が覆される可能性もあるのですから。では、その遺言書は検認の手続きを進めてもらうことにして、もう一通の手出須さん宛の手紙を確認してもらえますか。一応、親展のようなので、手出須さんが読み終えてから、可能なら私どもに公開してください」
「わかりました。それでは開封して読んでみます」
手出須は、慎重に手紙を開封し便箋を取り出した。複数枚に分けて書いてあるようだ。便箋をひろげた手出須の顔色が変わった。手出須が預かっていた遺言書の内容に関係するものだろうと推測しながら、証刑事たちは固唾を飲んで手出須が読み終えるのを待った。
「吉永氏の死亡の動機が書かれています。どちらかというと遺書のように感じます。そして、もう一つの同封されている遺言書の内容が要約されて書かれています。対象者は私が保持している相続人に一人追加されています。最後の便箋には、新しく開設したネット銀行の口座に関する説明が記載されています」
そういうと、手出須は便箋を一枚ずつ証刑事に手渡した。証刑事と縁梨刑事は便箋に目を通し、二人とも驚いたような顔となり、一瞬言葉を失っていた。
明日に続く
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