空に解き放った心 - 第二話 急変する心
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急変する心
健二は、なんとなく里香と同じ時間を過ごしていることが心地よくなっていた。そして、完全に一方的に振られたことを話してスッキリしといた方がいいかなと思い始めたのである。男というものは単純な生き物なのである。健二は自ら、ポツポツと話し始めた。
「実はね、札幌に来る前、東京で付き合っていた子がいたんだ。コンサルの会社の子だったけど、専門は僕と同じプロジェクトマネージャという子だったんだけどね。クライアントの仕事の引き継ぎをきっかけで知り合ったんだよ。丁度彼女は元彼と別れたばっかりだったらしく、いいタイミングだったと思ったんだよなぁ。結構強引な女性だったけどなんとなく引かれて付き合い始めてしまったんだ」
「そうだったんですね。じゃあ、健二さんが札幌に来て長距離恋愛になってから、ちょっとすれ違いになっていったということなんですか」
「うーん、結構ストレートに突っ込んでくるね。まぁ、外れてはいないけどね」
「ごめんなさい。でも、愛する時の時間と距離はとっても重要ですよね。私だって、離れ離れになったら耐えられないと思います」
「やっぱり、そうなのかな。僕はそんなこと思ってもなかったんだけどなぁ」
「女性は、不安になるんですよ。そして、許容範囲を超えた時にはもう受け入れることさえできなくなってしまいます。そういえば、私の友達もそうでした。話をする時間が合わなくなってくるとか、会いたくてもすぐには会えない距離になると心も次第に離れていってしまうみたいです。特に女性の方は。私は経験したことないけど、きっとそうなります」
「うわー、そうなんだ。全くそのまま、その通りだよ。一人で札幌に来たのが失敗だったのかなぁ」
「それは違うと思います。健二さんは、札幌に来て大きな部門を引っ張る立場になり、会社の中でも一目置かれるようになったし、私もそれは嬉しいし」
「えっ、なんで里香さんが嬉しいの」
「もう、知らない。さぁ、もう一杯どうぞ。男山は美味しいでしょ」
「あぁ、ありがとう。美味しい日本酒だね。飲みすぎてしまいそうだよ」
里香の聞き上手なこととアルコールが入ったことで、健二は上機嫌になっていった。しおりからの別れのラインもそれほど気にならなくなってきていた。不思議と健二の周りの時間は心地よい流れに変わっている。里香は最後の確認をすべく畳みかけるように詰め寄った。
「健二さん、結局、彼女さんとはどうなったのですか」
「あぁ、別れることになったよ。僕の言い分は無しでね。一方的に別れのラインが来たんだよ。今日」
「えっ、ごめんなさい。ちょっと喧嘩した程度かなと思って何も考えずに聞いちゃいました。本当にごめんなさい。私って、デリカシーないですね」
「いやいや、そんなに気にしなくていいよ。まぁ、そこまでの関係だったってことなんだ」
「でも、彼女さんのこと、まだ好きなんでしょ」
「違うと言ったら嘘になるけど、里香さんといたら、心も落ち着いてきたし何となく遠い昔の出来事のように感じてきたよ。おやっ、最後のデザートが来たね」
「あっ、本当だ。私アイス大好きなんです。いただきまーす」
無邪気な振る舞いをしながらでも、健二のことを気遣ってくれる里香のことが急速に健二は気になり始めていた。どこか、しおりと似ていると思ったからかもしれない。それともアルコールに背中を押されたせいだろうか。今の心地よい時間が続くのなら、どちらでもいいと健二は内心思い始めた。会席料理のデザートも食べ終わり、もうすぐ九時に迫ろうとしていた。オーダーした男山の三合のボトルも順調に飲んで空になっていた。梨香は健二とまだ離れたくなかったので声をかけた。
「健二さん、まだ早いから、メインバーに行って美味しいお酒をもう少し飲みませんか。私もこのままだと消化不良な感じなんです。もう少し健二さんと同じ時間を過ごしたい」
「あぁ、そうだね。僕も話をして心がスッキリしたし、軽く飲みにいくか」
「やったー、行きましょう。今日は私が誘ったので私が奢りまーす」
「えー、それじゃあ男として面子が立たないぞー」
「今日だけはいいんですよ。これまでの恋にさよならするためにも私が払います」
そう言って、一足先に里香はレジに向かった。里香としてみれば、帰りづらくするための戦略だったのかもしれないが、健二にとっては、辛い時に出会った優しさだった。二人とも、預けておいたコートを手に持って、同じホテル内にあるバーに行った。バーには他に客は誰もいなかった。まるで貸切状態である。そのこともいいムードを醸し出していた。二人は、カウンターではなく、テーブル席に座った。里香の方が健二とゆっくり話をしたかったからだ。席に座ると里香は二人分のヘネシーをグラスで注文した。健二は驚いて聞いた。
「里香さんはブランデーも飲むんだね。すごいな」
「だって、ヘネシーは口当たりも良くて飲みやすいし。でもちょっぴり高いから特別な日だけ飲むんですよー」
「へぇー、実は僕も同じ。ヘネシーは大好きなんだ。でも高いから、普段は飲めないけどね。特別に自分にご褒美をあげたい時は、ショットバーに一人で行って飲んだりするんだ」
メインバーに来て、二人の共通点をお互いに認識して知らず知らずのうちに距離も縮まっていった。流石に鈍感な健二も急速に自分の心がしおりから里香に切り替わっていくのを感じていた。しかし、それを悟られまいと平常心を懸命に保とうと努力していた。ホテルのバーで、ビターチョコとピスタチオをつまみながらヘネシーを何杯かおかわりをして、ほろ酔いの気分以上になったところで、里香が健二に話した。
「もう、十一時近くになったわ。そろそろ出ましょうか」
「あぁ、でももう少し一緒にいたいな。こんな心地いい時間は久しぶりだ。明日は土曜だし。もう少しだけでいいんだけど、だめかな」
ついに健二から里香への誘いが口を突いて飛び出した。
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【小説】空に解き放った心
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