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9月8日 スペインワインの日 【SS】愛した人(後始末)

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。

本日から五日間は、連載に仕立ててみます。五日間の記念日で連想する内容で一つのミステリーに仕立ててみるということに挑戦です!


【今日は何の日】- スペインワインの日

スペインワインの素晴らしさを広めるために活動しているスペインワイン協会が制定。

日付はスペインの現在のワイン原産地呼称統制法の基となる「ワイン法(Estatuto del Vino)」が1932年(昭和7年)9月8日に現地で政令として承認されたことから。スペインワインの魅力を伝え、その認知度の向上が目的。記念日は一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。毎年9月8日前後の日曜日に「スペインワイン祭り」を開催し、スペインワインのPRを行う。


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【SS】愛した人(後始末)

「愛子、本当に奴でいいのか? あんなに嫌っていたのに」

「いいの。今では翔太を愛せるようになったから。ごめんね、芳雄。寂しかった私にかまってくれていたのに。私、決めたんだ、強く生きようって。だから、芳雄のことも忘れるわ。芳雄も私のことを忘れて」

「そうか、わかった。じゃあ、今度の木曜日、翔太を入れて三人でスペイン料理を食べに行くんだな。俺は、直接お店に向かうよ。お店の名前、コンティーゴだったよな。確か」

「うん、お願いね。私は翔太と一緒に行くから」

 以前、翔太がしつこく愛子に言い寄っていた時、実は、愛子は芳雄と付き合っていた。ただ、芳雄と付き合ったのは、それまでの彼にフラれてしまい、寂しさのどん底にいた時であり、寂しさに耐えかねて芳雄に身を任せてしまったというのが始まりだった。しかし、以前から愛子を慕っていた芳雄の友達で翔太は心穏やかではなかった。翔太と芳雄は愛子のことで仲違いするようになり、距離を置いていたのだが、どういうわけか、突然、愛子のほうから翔太に声をかけたのだ。それまでは、しつこい翔太のことが嫌でたまらないと芳雄には話をしていたのに。結果として、芳雄はフラれる形となり愛子は翔太を選んだ。ちょっと複雑な関係の三人だった。その三人が一緒に食事をすることになったのだった。

「では、悔しいけど愛子と翔太の結婚に乾杯しようか。これまでは翔太との関係もよくなかったけどこれからは、元のように仲良くしよう」

「ありがとう、芳雄。結局、愛子とは俺の方が一緒になることになったけど、悪く思わないでくれ。精一杯愛するから」

「ああ、解ってるよ。もう、過ぎたことだ。気にはしてないよ。お前んちは金持ちだしな」

「芳雄。今変なこと思ったでしょ。言っとくけど、私、お金目当てじゃないからね」

「そんなこと思ってないよ。バカだなぁ」

「マスター、お祝いなのでワインを一本お願いします。銘柄は分からないからお任せするわ。ちょっとお高めで美味しいワインをお願いします。それとパエリアにチョリソもお願いしまーす。男性には赤を私は白が好きだから私だけ白をお願い」

「かしこまりました。以前仕入れたまま店では出していなかったワインで珍しいものがあります。ちょっとスペインでは珍しいボルドースタイルを取り入れて作られた赤ワインでアリオンという商品です。すでに市場からは姿を消しているかもしれません。皆さんへの祝福ということで、私の方からプレゼントさせていただきますよ」

 この店のマスターは掘りが深くて背が高く、少し日本人離れした整った顔の持ち主である。おそらく、イケメン好きの愛子がお店を見つけて通うようになったのだろう。芳雄も付き合っているときに何度か連れてこられた記憶がある。それにしても、そんなところには気が利かない女性だよなと内心芳雄は思ってみたが、そんなところが逆に気を使わなくて良かったのかもしれないなと思いながら、目の前の二人の顔を交互に見つめた。

 しばらくして、赤ワインのアリオンとグラスワインの白が運ばれてきた。すでに栓が抜かれている赤ワインを翔太と芳雄の前に置かれた少し丸みがあるワイングラスに注がれた。翔太が柄にもなくテイスティングをしてから再度ワインが注がれ、揃ったところで乾杯をした。チョリソによく合う赤ワインで、二人ともよく飲んだ。結局ボトルを空けてしまった後もハウスワインを何杯もおかわりをしてしまった。ワインはパエリアとも相性が良く、いつの間にか食べ尽くしていた。お店に入ってまだ一時間ちょっとしか経過していないが、愛子が促してきた。

「あー、お腹いっぱい。ねぇ、そろそろお店出ようか。明日もまだ用事があるしね」

「えー、もう出るのか。まぁ、お腹はいっぱいになったけど、ちょっと飲み足りないなぁ」

「そうだけど、翔太。なんだか、俺とっても気持ちよくてフワフワな気分になっちゃったよ。もう、帰って寝たいわ。帰ろうよ」

 こうして、三人はお店を出て、芳雄は二人とは別の方向に歩き出した。妙に気持ちよくなっているのが自分でも感じていた。

『そんなに飲んだかなぁ。こんなに気持ちよくなるのは初めてのような気がする。世の中がゆっくりと回っているみたいだ。歩道橋を渡って駅に行くかな』

 夜になると人が少なくなり、誰も歩道橋を渡ってはいない。ただ、車は歩道橋の下を激しく行き交っている。フラフラしながら歩道橋を渡っていると、足音もなく影が近づいてくる。芳雄が何気なく振り返った瞬間、芳雄は足元の重力を感じなくなり、フワリと宙に浮いた感覚になった。まるでラグビーのタックルをされたようだ。そして、そのまま、歩道橋から転落してしまった。いつの間にか影は消えていた。

 一方、愛子と翔太は芳雄とは逆方向の繁華街の方に向かって歩いていた。翔太が車道側を歩き愛子が歩道側に寄り添った形で歩いている。車道は正面からひっきりなしに車が飛ばして過ぎ去っている。夜も遅い上、大きな通りなので、トラックだけでなくタクシーも多く走り去っていく。愛子は翔太に声を掛けた。

「翔太、婚姻届を先に出してくれてありがとう。おかげでご両親に反対されずに済んだわ」

「ん、ああ、そんなことか。当たり前のことをしたまでさ。それにしても、今日は気分がいいなぁ。まるで薬でも飲んでるみたいだ」

「もう、足元、フラフラよ。大丈夫?」と言って、翔太を少し押した。

 そう言ったかと思うと、翔太の左足がカクッとなり、車道側に倒れ込みそうになった。愛子は慌てて翔太の右手を引っ張ろうとしたが、翔太の右手は宙を掴んだだけで、左側の車道に倒れ込んでいってしまった。運悪く、正面からトラックが突っ込んできた。急ブレーキの音はしたが、間に合うはずもなく翔太を撥ねた後のブレーキ音だった。愛子はどうすることもできず、その場に座り込むだけだった。周りには、歩いていた人が遠巻きにして見ていた。

 愛子は大声をあげていたが、その目に涙はなかった。

明日に続く

※ 記念日同士で連載にしてみました


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