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10月11日 カミングアウトデー 【SS】美羽の秘密

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- カミングアウトデー

東京都新宿区納戸町に事務所を置き、大切な人へのカミングアウトを応援するNPO法人バブリングが制定。

LGBTなど社会的にマイノリティとされる人々をはじめとして、ありのままの自分を表現できずにもがいている全ての人が「大切な人と自分らしく生きていきたい」とカミングアウトするきっかけの日。記念日は2015年(平成27年)に一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。


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【SS】美羽の秘密

 吉永金蔵氏の死因は、青酸化合物による中毒死だったという連絡を証刑事が受けたのは、十月二日の朝だった。刑事課では、急遽殺人事件の可能性大ということで捜査方針が決められ、聞き込みを中心に吉永氏の身辺調査などが大々的に実施されることとなり、殺害の可能性を示すことになる死因の公開は、犯人を逃してしまうことになるかも知れないのでしばらく見送るという判断で落ち着いた。よって、資産家の老人が自宅で死亡しているところを発見されたというニュースのみ報道されたのだった。

 十月八日になり、証刑事たちの知らないところで、カミングアウトをしているカップルがいた。女性は宮前美羽、男性は大洞好一。マッチングアプリで知り合った二人だった。本来ならすれ違うことすら無いような関係だったが、高校を出て懸命に派遣社員として働いて頑張っている宮前の正直なところを大洞は気に入ってコンタクトしたようだった。お互いにマッチングアプリを利用するのは初めて同士だというところもお互いが気に入った点の一つでもあった。二人は、駅前のスタバに入り、楽しそうにたわいもない話をしていた。しばらく美羽が黙ったと思ったら、いきなり厳しい顔で好一に話だした。

「好一さん、いつかは分かることだから話しておきたい事があるの」

「ん、なんだい。改まって」

「私ね、シングルマザーの家庭で育てられたの。でもお父さんには愛されていたのよ。お母さんと籍を入れることにおじいさんからものすごく反対されて、結局、私のことを認知はしたけど戸籍は一緒にならなかったのよ。私は小さかったから事情はわからなかったけど、いつも側にお父さんもいたから普通の家と同じだと思ってたの。でも、そんなお父さんは交通事故で死んでしまって、その後高校に進学する時、お母さんから全部聞かされたの。その後、お母さんも働きすぎが祟って、十年前に亡くなってしまったわ。だから、私には親戚との付き合いが全くないのよ。というより、とても憎んだわ。それでね、私にとっては会ったことも無いけど父の父、つまりおじいさんには弟さんが居て、その弟さんがこの前ニュース報道されていた吉永金蔵という人だというのが分かったのよ。もうびっくり。私にとってのおじいさんはお父さんとお母さんの結婚に猛反対した人だったらしいので、私は大嫌いなの。だから、今は唯一頼れる存在はあなただけなのよ」

「そんなことがあったんだ。というか、え、あの吉永金蔵。資産家の老人の死亡報道だよね。僕もそのニュースをネットで見て友達の赤水ってやつと話していたよ。赤水が住んでいるマンションのオーナーがその人だったみたいで驚いていたよ。へー、世の中狭いなぁ。でも、僕は美羽さんがいるだけでいいから親戚なんて関係ないよ。全く気にしなくていいよ。でも話してくれてありがとう。余計に幸せにしたくなっちゃったな」

「ありがとう。これでもう秘密はないわ、あー、すっきりした。その亡くなった方は私の存在を知って財産を私に残そうと考えたらしいんだけど、その前に亡くなってしまったから私には回ってこないみたい。弁護士さんから連絡があったのよ」

「そうだったんだ。まぁ、遺産もらえないのはちょっと残念だけど、それで僕たちの関係がギクシャクするのも嫌だし、無くてもいいよね。僕もそう思うよ。いやー、いきなりのカミングアウトで男性はちょっとなんていう内容じゃなくてよかったよ」

 美羽のこれまで話さなかった過去のカミングアウトを笑いで受け飛ばしながら好一は『美羽と絶対に一緒になろう』と心に決めた。友達の赤水にも早く話しておいた方がいいなとも考えていた。それとちょっと自慢したい気持ちもあり早々に会いたいなと思ったようだ。大洞は美羽と別れた後、すぐに赤水にラインを入れた。

「久しぶりにスタバで会わないか。ちょっと報告がてら話したい事があるんだ」

 ラインを見て赤水は特に用事があるわけでもなかったので、大洞の待つスタバに向かった。

「おう、どうした。珍しいな、休日に大洞の方から呼び出すなんて」

「ああ、そうだな。ちょっと話しておこうかなって思ってさ。世の中は狭いなぁとも感じたんだよ」

「なんだよ。もったいぶらないで早く言えよ」

「実はさ、付き合ってる子ができたんだよ。とてもいい子でさ。結婚しようと思ってるんだ」

「えー、本当かよ。すごいじゃないか。羨ましいな。どんな子なんだ。その物好きな子は」

「相変わらず失礼なやつだな。それがさ、お前が住んでいるマンションのオーナーの遠縁に当たるみたいなんだよ。この前ニュースで死亡がアナウンスされた人のお兄さんの孫に当たるのかな、多分。なんだか、世の中狭いなぁって思ったんだよ。ついこの前ここで、その話をしたばっかりだったのに、それに縁がある人だったとはびっくりだよ。ただ、その亡くなった人は遺書を書き直そうとしていた矢先に亡くなったので、彼女には一円も回ってこないらしいんだ。まぁ、関係ないんだけどね」

「へぇー、そうだったんだ。そんな子と知り合ってたんだ。おめでとう」

「ははは、ありがとう。先週亡くなった人は親切にしてくれた人にお金を残すように遺書を作ってあるらしいとも言っていたから、お前にも回ってくるかもな」

 赤水は、驚いたが、大洞の手前驚くわけにもいかず、ポーカーフェイスに徹し、夜に用事が入っているからと早々に席を立って店を出てしまった。

 その頃、証刑事たちは、吉永の銀行口座の振り込み記録を確認していた。振り込み自体は投資信託の買い増しなどがほとんどだったが、定期的な現金引き出しが毎月発生しているのが気になった。銀行口座は賃貸料金の管理用として別口座も準備されていた。そして何よりも、縁梨刑事が書斎でみつた帳簿に興味深い記述が記載されていたのである。現金出納帳に近い内容なのだが、赤水、瀬羽、日々と項目が分かれていて、お願いした買い物と渡した現金、日付が克明に記録されていたのだ。中でも赤水に対する記録は、家賃として八万円受領した後、現金で五万円も戻しているような記録になっている。吉永としてはいちばんのお気に入りの青年だったのかも知れない。証刑事は、もしかして吉永に結婚歴がなかったのは女性を好きになれない人だったのかも知れないと証は考えていた。しかし、すでに死亡してしまった今となっては、そうだったとしてもカミングアウトすることはない。証刑事は余計な邪推を振り払うように首を左右に振った。

明日に続く


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