【SS】 また明日… (685字) #シロクマ文芸部
「また明日」
そう言ってベッドを離れようとした男を女は呼び止めた。
「ちょっと待って。まだ帰らないで。もう少しそばにいてほしい…」
「えっ、でももう帰らないとまずいよ」
「わかってるわ。奥様が怖いんでしょ。でも、今日は私たちが初めて出会った日なのよ。もう少しだけ、あなたの温もりを感じていたいの」
ここは、女が住んでいるマンションだ。男はちょっと困惑気味に時計を見た。すでに次の日になろうとしている時刻だった。もう終電には間に合わない。そう思った男は女を抱き寄せた。
「しょうがないなぁ、じゃあ、後三十分だけこうしていよう。また明日も会えるんだから、わがまま言わないでくれよ」
「うん、わかった。ありがとう」
女は満足そうに笑みを浮かべ優しく唇を重ねてきた。男は口の中に何か入ってくる違和感を少しだけ感じたが、そのまま受け入れた。これまでもたまにそういうことはあったからだ。そして眠りについてしまった。
時は流れ、一年が過ぎた。女は甲斐甲斐しく記念日を祝うための準備をしている。ケーキも買ってワインと料理も準備した。女はエプロンを外すと、クローゼットの方に向かって行った。大きく深呼吸をした後クローゼットの扉を開いた。
「もう、一年経ったわね。私だけのあなた。でもあなたの温もりはもう感じられないのね。それだけが残念だけど、あなたを失った奥様も同じだから後悔はしてないわ。それにあなたは、ずっとここにいてくれるんだから。奥様のそばじゃなくて私のそばにね。ふふふ、そろそろ防腐剤を追加しないとダメかな」
一通り記念日を祝った女は、静かにクローゼットの扉を閉めながら呟いた。
「また明日」
了
あとがき
別なストーリーで書き始めたのですが、終わらなくなってしまったので、心機一転、書き直したショートショートはホラー仕立てになっちゃいました。ばけばけもやってることだし、最後は怪談で年越しです。
年末も押し迫り、今年最後の投稿です。
小牧幸助さん、今年一年ありがとうございました。
みなさん、良いお年を〜
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