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9月30日 奥様の日 【SS】愛しすぎた人(7.繋がった謎)

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。

連載企画第二弾の最終話となります。最終話は長くなりました。ご了承ください。明日からは、十月ですね。また、新たな気持ちで取り組みます。


【今日は何の日】- 奥様の日

長野県小海町に本社を置き、葬祭事業として「メモリアルホールみつわ」、生花事業として「花工房みつわ」などを営む株式会社「みつわ」が2012年(平成24年)に制定。

日付は9月30日を「0930」として「お(0)く(9)さ(3)ま(0)」(奥様)と読む語呂合わせから。同社のある長野県は女性の就業率が全国的にも高く、中でも川上村・南牧村は長野県内1、2を争うほど農業に従事する「働く奥様」が多いことから、働く奥様に日頃の感謝の気持ちを込めて花を贈る日としたもの。


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【SS】愛しすぎた人(7.繋がった謎)

 翌日、関係者が常夏が住んでいた別荘に集合していた。すでに、鑑識の詳細な調査も終了している。近くに住んでいる別所、街の骨董屋の古絵、親切保険の保科、片付夫妻、それに発見者の久住の六人が集まっていた。

「まず、最初に皆さんにお伝えしたいことがあります。それは被害者である常夏氏の死因についてです。縁梨刑事、説明をお願いします」

「はい。被害者の常夏氏は、硬いテーブルの角の様なところで後頭部を強く打ち、出血するとともに気を失われたようです。しかし、そのまま森の中に運ばれ、気絶した状態のまま土の中に埋められました。そしてその後、上からかけられた土の圧迫により、窒息して死に至ったのです。もし、埋めずに病院に行っていたら命を取り留めたのかもしれませんでした」

 縁梨刑事の言葉を聞いて、集まっていた人々は一様に驚いた。親切保険の保科は脱力したかのようにその場にしゃがみ込み泣き崩れていた。別所と古絵は互いに顔を見合わせたあと、俯いてしまった。そして、第一発見者の久住は蒼白な顔色へと変わり、片付左右の方を伺っている。片付棚美は保科のところに駆け寄り背中から抱きしめている。土の中に埋めた時は死んでいなかったという事実を突きつけられ、その場は凍りついたような静けさに変わった。そして静かに、証刑事が話を続けた。

「亡くなられた常夏さんがいたこの別荘は、実は月を眺めるのには絶好の場所だったのですね。別所さんの住まいからは、少し斜めに見ることになる様です。それで、月見をするために常夏さんのところに集まったのですよね。そしてそれは恒例の月見の会だった」

 集まった全員が、俯いてしまった。証刑事はその後一人ずつ質問を投げかけた。

「保科さん、あなたは常夏さんを愛していたのでしょう。あなたに会った時、あまりにも平然と対応されたので逆に変だと感じたんです。どうして正直に今回のことを話してくれなかったのですか?」

「私は、怖くて口にできませんでした。だって、私にとっては遅い春をつかんだと思っていたんです。ただ、節約ができない人で後一歩を踏み出せない関係でした。でも生きたまま埋められたなんて。そんなこととは思ってもいませんでした」

「別所さん、あなたは正しく確定申告をするつもりがありますか? かなりの額を絵画の売却で手にしましたよね。常夏さんが骨董屋に売りに行きやすいように常夏さんが住んでいた別荘の物置に贋作をしまっていたのですよね」

「何のことだかよくわかりませんが。贋作を売ってしまったのは常夏の方ですよ」

「古絵さん、あなたは都内の古美術商に高値で別所さんから仕入れた絵画を販売しましたよね。そして何故かその代金の一部を常夏さんに送金したのです。常夏さんには贋作だからそれほどお金にはならないとか言っていたのではありませんか。実は、本物を別所さんから依頼されていたのですよね。そして贋作の方は今でも古絵さんのところか別所さんのところにあるものだと思いますがどうでしょうか」

「あっ、いや。うーん」

「片付左右さん、あなたはキャンプ場のオーナーの一人だったのですね。そして、あの清掃の日にもメンバーとして参加していた。担当はキャンプ場の後ろの森。久住さんと連携して遺体を見つけ、驚いたふりをしていた。遺体が傷んで腐敗する前に見つけて欲しかったからですよね。少なくともあなたの愛する奥様のお姉様が愛した人だったから」

「私は何も知りませんよ。刑事さんの憶測でしょう、全て」

「片村棚美さん、中秋の名月の夜、皆さんで集まったのですよね、みんなで月を眺めるために常夏さんの別荘に。そのためにあなたは、昼間、ワインやお酒を買い出しに街に出た。酒屋さんでその話をしたでしょう。酒屋のご主人が教えてくれました。毎年月見をされていることを。そして、夕方皆さんを順番に拾って常夏さんのところまで再度やってきた。そして、みんなで月見を楽しんだ。しばらくしたら、常夏さんはスリッパが滑ってテーブルの角に後頭部をぶつけたのではないですか。もしくは誰かが推して滑ったか。驚いた皆さんは、話し合って、死んでしまったと思った常夏さんを森まで運ぶための手伝いをした。もしかするとご主人のアイデアだったのかもしれませんね。何故なら、あなたの車を使う以外に運ぶ手段がなかったからです。監視カメラに映ることを想定してご主人は後部座席で横になっていたのではないですか」

「買い出しには行きましたが、それだけです。後のことは何も分かりません」

「奥にあるワイングラスは、ご自宅から持ってこられたものではありませんか」

「そ、それは、お貸ししただけだと思います」

「数が一つ足りませんよね。おそらく常夏さんが持っていたグラスは割れてしまったので片付けられたのでしょう」

 どうやら間違いなさそうである。片付家でみた不足していたワイングラスは月見のために持ってきて、そのままになっていた様である。

「久住さん、あなたは片付さんから促されて落ち葉が盛り上がっているところを清掃しようとしたのですよね。違いますか」

「は、はい、その通りです。半ば強制的な感じで命令されました。まさか、人が埋められているとは思いませんでしたから」

 たまりかねた保科が話し始めた。

「刑事さん、私は彼を愛していたんです。でもそれは秘密でした。あの日、中秋の名月の夜は、贋作を売り飛ばしたと別所さんから罵倒されて、言い合いになっていたんです。でも、常夏からは別所さんから好きにしていいと言われていると聞いていました」

「待て待て、私は好きにしていいと言ったのは別荘を使うことだけで、置いてあるものを売り飛ばしていいとは言っていない。それ以上変なことを言うな」

 次第に空気が変わり、保身に走ろうとしているものも現れ始めた。古絵は取引がばれているということを認識したので、自分が助かる道を模索しているようだった。

「絵を売る計画を作ったのは別所の考えだ。僕は知らない、何も知らないし何もしていない。月見のパーティには参加したけど、常夏は勝手に死んだんだ。刑事さんの言う通りだ」

 集まったみんなの心がバラバラになり、少しずつ本当のことが語られ始めた。最後の詰めを意識した証刑事は片付の方を向いて話を続けた。

「なるほど。私たちが得た情報ではもう一つ重要なことがありました。常夏さんは片付棚美さんに声をかけ始めていたということ。保科さん、申し訳ありません。常夏さんの心はあなたから離れようとしていたのではないですか。そして、それを知った片付左右さん、あなたは激怒した。友達を裏切る様なことだと感じたのでしょう。あなたにとっては事故で死んでくれたのでそれで良かったのでしょうが、綺麗好きなあなたは倒れた常夏さんを綺麗に片付けたい衝動に駆られた。そして森の中に埋める提案をしてみんなの同意を得た。おそらく、片付けるのは自分たちに任せろとか言ったのでしょう。その代わり、できるだけ早く見つかってきちんと弔いができる様にするからと保科さんには言ったのではないですか」

「はっはっはっ、馬鹿馬鹿しい。作り話にも程がある」

「あなたの大事なパソコンの管理アプリを見れば、埋めた場所と日時が記録されているのではありませんか。記録した日時は当然発見された日の明け方になっていることでしょう。それに加えて使い捨てスリッパの在庫も中秋の名月の日に人数分減っているのではないですか。この後、あなたのパソコンは押収され確認することになっていますから、その時にわかった後だと、偽証罪も追加されることになりますよ。あなたは、記録に残すことや整理整頓、清潔さの維持に異常なくらいこだわりがあるようです。合わせて学生の頃は動物の死骸を見つけるとその周りを綺麗にしてきちんと埋葬しないと気が済まなかったと同級生の方からも聞きました。今回の状況もそうだったのではありませんか」

「うっ、そんな。みんなの為だと思ってやったのに」

「いいえ、あなたは自分自身のために計画を咄嗟に思いついたのでしょう」

「すみません。夫は悪くないんです。それに私、常夏さんから言い寄られたりはしていません。いつも姉の目の前でからかっていただけなんです。ふぅ、あの時は、また冗談を言われたと思い、私は軽く押し返したんです。常夏さんを。そしたら履いていたスリッパがズルッとなって仰向けに倒れてしまったんです。ワイングラスを持ったまま。それで主人は私を助けるために後始末を買って出てくれました。それが真相です」

「片付左右さん、最後に伺います。どうしてあなたは常夏さんを埋める前に衣類と靴を燃やしたのですか」

「それは、、、衣類はワインと血で汚れてしまったし、靴だけ残してくるのもおかしいので一緒に持って行って燃やしてしまいました。それで灰になって土に戻れば綺麗になるじゃないですか。だから、綺麗にして埋めてあげようと思ったんです」

 こうして、事故から始まった一連の犯行は、最終的には片付左右の殺人という結末になり、妻の棚美は殺人幇助の罪となった。事故が起きた現場に居合わせた人は全員、助ける義務を怠ったと言うことで遺棄罪に問われるだろう。さらに、常夏は窃盗の罪を被疑者死亡のまま書類送検。古絵と別所は常夏に対する詐欺罪と計画的脱税未遂、ただし、立件は困難かもしれない。また、久住はいいように利用されただけなので立件にまでは行かないだろう。

 別所さんと古絵さんはお金を愛しすぎて、保科さんは常夏さんを愛しすぎた。そして片付左右さんは奥様の棚美さんを愛しすぎたために束縛し続けた。そして棚美さんは一体誰を愛しすぎたのだろうか。おそらく、自分自身だったのかもしれない。今回も夫の度を過ぎた綺麗好きが引き金ではなく、自分を助けようとしてくれたと弁明していた。証刑事は、夫が自分をこよなく愛した結果の行動だと周りに認めさせたかったのではないかと思っていた。

 余計なことは口にしないという性格と、目の前で汚れたものを見ると掃除をしなければ気が済まない片付左右の性格が折り重なって殺人事件に発展した事案だった。裁判官も同情の余地は認めるものの、埋められたあと死んでしまったと言う事実は重く受け止めるだろう。こうして不思議な事件は幕を閉じた。


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