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10月27日 文字・活字文化の日 【SS】踊る文字

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 文字・活字文化の日

2005年(平成17年)7月に成立した「文字・活字文化振興法」により制定。

日付は「読書週間」(10月27日~11月9日)の一日目の日にちなむ。文字・活字文化が人類の知識および知恵の継承や、豊かな人間性の涵養(かんよう:水が自然に染み込むように、無理をしないでゆっくりと養い育てること)、健全な民主主義の発達に欠くことができないものであり、国民の間に広く文字・活字文化についての関心と理解を深めることが目的。また、知的で心豊かな国民生活の実現に寄与する日として、出版活動への支援などが行われる。


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【SS】踊る文字

 いつの頃からか、本を読むことよりも文章を綴る方が面白くなった。学生だった頃は、本屋に足繁く通い、いろんな本を手に取った。それが就職した頃からは、ビジネスの本しか目にしなくなってしまった。そして長い年月が過ぎた。随分と本屋にも行っていない自分と向き合ってみると、本を読みたいのではなく、文章を綴りたいのだという声が自分の中から聞こえてきたのだ。

『そうは言っても、文章を綴るなんて、仕事上のレポートや論文ならまだしも、それ以外は書いたこともないなぁ。なぜ、そんなことを思ったんだろう』

 そんな自分の中の思いの葛藤がしばらく続いた後、私は会社を卒業した。同時に仕事の繋がりを断ち切るために新しい場所に住まいを移した。静かに流れる時間の中に身を委ねる生活が始まった。朝陽が昇る毎日を見れることが新鮮でもあり怖くもある時間が流れる。ふと思った。生きていることを感じる時間だと。

『そうか。せっかく今まで生きて来たんだから、何か生きて来た証みたいなものを残せればもっと楽しくなりそうだな』

 そんなことを自分に言い聞かせ、なんとか文章を綴るための「自分を納得させる理由」をこじ付けてみる。おそらくは文章の綴り方など、一切勉強したこともないことが不安だったのだろう。しかも、何かを作ったら誰かに見てもらいたいと思う性格なものだから、余計に始末が悪い。自分でも分かってはいるのだ。ならば、自分が納得する理由を掲げてしまえばいいだけだった。こうして、私は自分が今後過ごしていく時間を文章という表現で残すための時間に当てることを選択した。そしてそれは全てフィクションという文章に転換することになった。そうすることで発想することに壁を作らずに済むからだ。

 面白いことに、文章を綴り始めるとキーボードを打つのが追いつかないスピードで次の文章が出てくる時と、キーボードに乗せた両手の指がピタッと止まる時を経験することになった。止まる時というのは得てして綴っている話が、次の展開に移る瞬間の時が多い。つまり、選択肢が複数存在するから、一旦指が止まるのだ。

『そうか。頭が真っ白になって指が止まるのが普通かと思ったが、分かれ道が多すぎる時も止まるもんなんだな』

 そう思うと、一旦指が止まった時間を楽しむようにもなっていった。得てして、そんな時は背伸びをしたりコーヒーを飲んだりすることで、選択するアイデアを選別する時間になる。元々がせっかちな性格でもあるのか、次の展開に目処がつかないと安心できないのである。そして、選択すべきアイデアが決まったら、そのイメージが脳内にある間に文章に変換する。するとなぜだか文字が喜んで、踊っているように感じてしまう。文字自体は、ディスプレイに映し出されるただの明朝体の文字なのだが、なんとなく楽しげに見えてしまうのだ。そんな時は、なぜかどんどんキーボードを打ち込んでいる。もっとも、誤字脱字もどんどん打ち込んではいるのだが。

 文章を綴りながら、時々思い起こすことがある。文字は不思議な力を持っているコミュニケーションツールだと。並んだ文字を読んでいくだけで、色のついた情景を思い浮かべさせることもできるし、暗く沈んだ心の中を表現することだってできる。そうかと思えば、目に見える家やビルの特徴を記述して正確な道順を書き示すことだってできてしまう。文字自体には一切色はついていない。しかし、色を表す多くの言葉を組み合わせることで、目で見ている多くの曖昧な色も表現できるのである。なんと素晴らしいことなのだろう。例えば、淡いピンクのコスモスと書けば、青空と対比して桜色と書かなくても同じような色の花を想像させることもできる。「まるで春の桜のように」と付け加えることだってできる。

 今の私にとって、文章は格好の遊び道具になっているようだ。日々頭の中から溢れてくる言葉たちは、私自身が満足するために踊ってくれる。なんて素敵な毎日なのだろうと思える。

 そんな素敵な文字たちのはずなのに、テクノロジーの進化は私に対し、ある能力を奪い取ってしまったことに気付かされた。鉛筆を手に取ってメモ用紙に書こうとすると漢字が出てこない。キーボードでかな文字を打って漢字に変換することはできても、直接書くことができない文字がなんと多いことか。その時は愕然とはするものの、「まぁ、仕方ない。スマホで調べれば済むことだ」と自分に言い聞かせ、現状を受け入れている。もう一度紙と鉛筆を持って書く訓練をしようとは思わないのは責めないでもらいたい。それでいいと思ってしまっているのだから。

 私に取って、踊ってくれる文字はディスプレイの中にしかいないのかもしれない。もちろん、紙にかいた手書きの字は別の意味で踊りまくっているのかもしれないが。

 今日も美しい朝陽が昇っている。一日の始まりは一文字を打つことから始まる毎日。朝のコーヒーと共に完全にルーティン化した文字を綴る時間を大切にして、今日も生きていることを実感している。


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