見出し画像

10月26日 ズブロッカの日 【SS】冷凍庫の酒

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- ズブロッカの日

東京都港区南青山に本社を置き、食品や酒類の流通業、飲食店経営などを手がけるリードオフジャパン株式会社が制定。

ポーランドの代表的なウォッカブランド「ズブロッカ」の魅力的な味わい、楽しみ方を広めることが目的。日付は現地の発音「ジュ(10)ブ(2)ロッ(6)カ」と読む語呂合わせから。記念日は2018年(平成30年)に一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。制定記念にズブロッカのスペシャルカクテルなどを試飲できる体験型イベントが開催される。


🌿過去投稿分の一覧はこちら👉 【今日は何の日SS】一覧目次

【SS】冷凍庫の酒

「おーい、トライ。俺たちもやっと二十歳だな。まぁ、親に隠れて多少はアルコール飲んでたけど、今日からは正々堂々と飲めるな」

「タケ、よく言うよ。お前なんて大学に入ってから毎日のように飲んでるんじゃなかったっけ。たまには勉強もしろよな」

 大学生の仲のいい友達同士の会話である。一人は、「来人」と書いて「ライト」と言う名前なので、語順を入れ替えて「トライ」というあだ名で呼ばれている。もう一人は「武治」なので「タケ」と呼ばれているのだ。この二人は、小学生の時からの友達同士で、悪いことをする時にはいつも連んでいるような関係だった。

「なぁ、トライ。渋谷にさぁ、テラスでも飲めるいいところがあるんだけど行ってみないか。バイト代入っただろ。俺も入ったし」

「外で飲むのか。ちょっと肌寒くなってきたけど、面白そうだな。渋谷のネオンを見下ろしながら飲めるのかな。だったら、気持ち良さそう」

 二人は、バイト代を握りしめながら渋谷駅からそれほど遠くない雑居ビルに入って行った。エレベータに乗り込み六階のボタンを押した。二人を乗せたエレベータは途中で誰も載せることなく六階まで上がって行った。扉が開くとそこはバーの入り口。時間はまだ午後六時で陽が落ちる寸前。まだ客もいない時間だ。タケは何度か来たことがあるようで、まるで常連という顔をして店に入って行った。

「マスター、こんにちは。今日はダチを連れてきたよ。テラス席に行ってもいいかな」

「おお、タケちゃん、いらっしゃい。テラス使って問題ないよ。ただ、寒いから、悪いけど出入り口は閉めておいてくれよ。スコッチでいいのかい」

「ああ、ボーモアをロックで二杯、お願いしまーす」

 そういうと、まるで我が家かというようにツカツカと店の奥に進み、ガラス戸を開けてテラスにでた。トライは訳もわからずただついて行った。テラスに出た時に飛び込んできたのは、都会に沈む綺麗な夕陽だった。あっという間にいずんでしまったが、茜色にそまる都会の空は見事な景色だった。数分の間のドラマを楽しんだあとは、ほんのりとテラス席をライトが照らし出した。マスターが運んでくれたスコッチのロックが入ったグラスを合わせてトライとタケは静かに口に運んだ。飲みやすいスコッチでほんのりとほろ酔い気分になった。つまみのナッツを齧りながら、他愛もない会話を楽しんでいた。

「やっぱさぁ、彼女欲しいよなぁ。トライって付き合ってる子いたっけ」

「ああ、いたんだけどね、別れたよ。二ヶ月前に。だから今は寂しい一人ぼっちさ。じゃなきゃ、タケと二人きりでなんか飲みに来るかよ」

「そりゃそうだ。話題が悪かったな、ワハハ」

 そんな時、テラスへの出入り口のガラス戸が開く音がした。マスターが何やらボトルを持って現れた。

「今日は、まだ客も入ってこないから、二人にこれをプレゼントするよ。飲んだことあるかい。今、冷凍庫から出したばっかりの酒だ、ズブロッカ」

「えっ、冷凍庫から。ズブロッカってもしかしてウォッカですかー。なんか入ってますよ、草みたいなのが」

「うん。バイソングラスっていう草が入ってるのが特徴なんだよ。まぁ、ハーブみたいなものでいい香りがするものだと思ってくれればいいよ。この酒は冷凍庫で水分を凍らせることでとろっとした甘い味わいを楽しめるようになるんだ。アルコール度数が高いから凍ってしまうことはない。よく冷えてるからウォッカ特有の喉がカッとなるような感覚もなくなるんだ。この小さなウォッカグラスに注いでクッと飲むとたまらないよ」

 二人とも不思議な顔をしてグラスに注がれるズブロッカを見ている。確かにトロッとした液体がボトルから少し飛び出したバイソングラスを伝ってグラスに流れ込んでいる。不思議な光景だ。

「さぁ、キンキンに冷えているうちに飲んでみて」

 そう言われて、二人は、クッとグラスを飲み干した。

「うわっ、何これ。初めて飲んだよ。トロッとして喉越しひんやりでおもしろーい」

「おお、確かに。ウォッカって感じがしないね」

「そうでしょう。でもアルコール度数は三十七度以上あるからチェイサーの水も飲んだ方がいいよ」

 マスターに促され、チェイサーの水も飲んだのだが、その前に数杯のズブロッカを飲んでしまっていた。二人とも周りの景色が回り始めるのを感じ始めていた。元々がアルコールに強いわけではない上に、ナッツしか食べていないところにズブロッカを流し込んだものだから、酔いが回るのは早かった。二時間ほどで店は出たのだが、ズブロッカを一本飲み干していたようだ。

 どうやって帰ったのかは定かではないが、ズブロッカという酒を知ったことは二人にとって大きな収穫だった。翌日、大学に行った二人は、お目当ての女の子に声をかけた。

「ねぇ、クルミ。ズブロッカっていうお酒知ってる。バイソングラスという細い葉っぱがお酒の中に入ってるんだよ。とっても冷たくて飲みやすいんだ。よかったら、僕たちと今晩飲みに行かない?」

「あー、トライにタケだ。そんな強いお酒を女の子に進めてどうしようと思ってるの」

「え、あちゃー。ズブロッカ、知ってたのかー」

「知ってるも何も、私の部屋の冷蔵庫に常備してるわよ」

「ゲゲゲ、声をかける相手を間違えてしまった」

 こうして二十歳になった二人は、少しずつ、アルコールの知識を増やしていったようだ。


🙇🏻‍♂️お知らせ
中編以上の小説執筆に注力するため、コメントへのリプライや皆様のnoteへの訪問活動を抑制しています。また、ショートショート以外の投稿も当面の間は抑制しています。申し訳ありません。


🌿【照葉の小説】今日は何の日SS集  ← 記念日からの創作SSマガジン

↓↓↓ 文書で一覧になっている目次はこちらです ↓↓↓

一日前の記念日SS


いつも読んでいただきありがとうございます。
「てりは」のnoteへ初めての方は、こちらのホテルへもお越しください。
🌿サイトマップ-異次元ホテル照葉


#ショートショート #創作 #小説 #フィクション #今日は何の日ショートショート #ショートストーリー #今日は何の日 #掌編小説 #超短編小説 #毎日ショートショート

いいなと思ったら応援しよう!

松浦 照葉 (てりは) よろしければチップによるご支援をお願いします。皆さんに提供できるものは「経験」と「創造」のみですが、小説やエッセイにしてあなたにお届けしたいと思っています。いただいたチップは創作活動費用として使わせていただきます。