【SS】当選キャンペーン (1548字) #シロクマ文芸部
レシートに明細が印刷されていない。代わりに大きな『当選』という文字が印字されていた。セルフレジで精算をしていた良一は驚いた。
「えっ、なにこれ?」
思わず大きな声を出してしまったので、周囲の買い物客から数奇な目で見られた。その時、店員が慌てて駆け寄ってきて声をかけた。
「もしかして、当たりがでたんですか?」
「えっ、ええ。そうです。こんなこと初めてなので驚いちゃって。すみません」
「いいえ、とんでもありません。おめでとうございます。ここだと周りの人の目が気になるでしょう。奥の部屋までお越しください。さっ、どうぞ」
「ありがとうございます。でも、これって一体なんですか?」
「気になりますよね。当然です。宣伝も何もしてないキャンペーンですから」
「キャンペーン?」
それ以上は店員も話をせず、急かすように良一を店の奥へとエスコートした。
「さ、お客様。こちらの部屋へどうぞ」
案内されて部屋に入った良一は、本能で「おかしい」と感じた。窓のない部屋で床も天井も壁も真っ黒だった。手で壁を触ると柔らかな感触が伝わってくる。良一は「防音壁だ」と確信した。不思議そうに部屋中を見渡しているとバフンという重い空気が抜けるような音が良一の後ろから聞こえた。扉がしまったのだ。
「えっ、ちょっと…」
漆黒の闇に良一は包まれた。前後どころか上下すらわからない。不思議な感覚が良一を襲った。バクバクする自分の心臓の音だけがやたらと感じられる。自分を見失ってしまったかのように静かに時間だけが流れた。
「だ、誰かいますか。どういうことか説明してください」
大きな声で叫んでみたが返事はない。どれだけ時間が経ったのかもわからない。
「あ、スマホ…」
スマホで連絡ができるはずだと気づいてポケットを探った。漆黒の闇の中でスマホの画面が光る。良一は少しだけホッとしたが、画面を見て唖然としてしまった。
「圏外…そんな…こんなところに入らなければよかった。モバイルバッテリーなんてどこにでも売ってたのに、なんでこんな店に入っちゃったんだろう。うわっ、バッテリーもほとんど残ってない…うう」
闇の中でスマホの明かりが消えることは恐怖だった。心臓のバクバクが止まらない。元々バッテリーが心許なくなったのでモバイルバッテリーを買うために入った店だったのだ。
「あっ、そうだ。今日買ったバッテリーは充電されてるのかな。とりあえずスマホに繋いで明かりを確保できれば…」
背負っていたリュックから買ったばかりのモバイルバッテリーを取り出そうとした瞬間。バッテリーが床に転げ落ちた。暗闇の中で良一は焦った。
「うわっ、どこにいったんだ、バッテリー…そうか、ライトだ。頼むからバッテリー切れにならないでくれよ」
スマホのライトに照らし出されたバッテリーが見え、ホッとしながら箱から出してスマホに接続した。その瞬間、眩しいくらいの光が良一を照らした。そして、バフンという音と共に扉が開いた。良一の心臓は高鳴った。
「おめでとうございます。賞金三十万円獲得となります」
「えっ、えっ、何、一体何なんですか」
動転する良一に対し、数名の店員はにこやかに笑いクラッカーを鳴らした。その後ろから店長らしき人物が現れ、説明し始めた。良一は怒りを感じた。
「お客様、申し訳ございませんでした。何も伝えなかったのはお客様の反応を見るためでした。あっ、ご覧の通り、安全には配慮しておりますので。いやぁ、流石はお客様。落ち着いた対応をされた方だと思います。素晴らしいです。今回は、制限時間六十分に対し、三十分を残されましたので賞金を差し上げます。キャンペーンの詳細としましては…」
怒りが収まらない良一は、さらに笑顔で説明を続けようとする店長に近づき、何も言わずに右ストレートを出した。
了
あとがき
最近は電子マネーで支払うことが多くなりました。以前は利用できないところの方が多かったような気がしますが、今は完全に逆転ですね。現金が利用できない店もちらほらですから。
我が家の近くにあるパン屋さんは現金かAUペイのみというちょっと変わったお店。なのでいつもニコニコ現金払いをしています(笑
レシートにQRコードが印字されアンケートに誘うレシートは時折見かけますが、さすがに拉致されるような当選レシートは見たことがありません。
表紙の画像はCHATGPTに作ってもらいました(内容と誤差があるのはご愛嬌)
下記企画への応募作品です。
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