【SS】 愛犬 #シロクマ文芸部
愛は犬が教えてくれたのかもしれない。そう思うことが時々ある。犬は愛され方が上手いと思うのだ。我が家には十六歳を過ぎた老犬がいるが、まだまだ至って元気である。むしろ、我々夫婦の方が年老いて感じるように感じる時を多く感じる。
人は少し恥ずかしがりながら、行動に移すことがあるが、犬の場合はそんなことはない。どちらかといえば、人間と違い、警戒心をあらわにすることの方が多いだろう。我が家の犬もそうだ。
何かされると感じるとさっさと逃げてしまう。我が家の犬は何故かブラッシングが嫌いだ。なのでブラシを持って近づくと、狭い部屋を我々が通れないような場所を選んで逃げ回る。そして、本人、いや犬としては遊んでいるつもりになるのかもしれない。シッポが勢いよく振られ始めるから。次第に、その愛くるしさに追いかけている我々の方が根負けしてしまう。そんな時、妻は上手に少しだけ食べ物を持って誘い出し、嫌がるブラッシングをこなしてしまう。そして、綺麗になった毛並みをカーペットに擦り付け手足をクネクネとする。まぁ、それがまた愛くるしい。
ご飯の時間になると、ペットフードをあげるのだが、どうも我々の食事が気になるようで、妻が料理をしている最中からワンワンと吠える。小さい時から、ちょっとだけならいいかと与えていたのがいけない習慣を作ってしまった。今でも、食事の時はワンワンと吠え続ける。おかげで、食事の間は、テレビの音も聞こえないし会話もままならない。老犬とは思えないほど、力強く耳に響くようにワンワンと吠える声が食事のBGMにいつしかなってしまった。これだけは、今でも慣れることはないが、本人は、至って真剣に「僕にもくれよ」と言っているのだろう。そう、我が家の老犬は男の子である。食事の時ばかりは「静かにしろ」と怒りたくもなるのだが、反面ちょっとかわいそうにもなってしまう。毎食同じペットフードを食べることしか選択肢がないのだから。そんな時、大好きなシラスや豆腐をお皿に入れると飛び上がらんばかりに喜んで食べる。いや、実際飛び上がっている。そして、上目遣いにこっちを見る。まるで「もっと食べられるよ。だから、もっと頂戴」と言っているみたいだ。
食事が終わって、ソファに座り直すと即座に横にやってきて体をペッタリと寄り添わせて、安心して寝息を立てながら眠り始める。絶対の信頼を感じる時である。無防備に全てを委ねられるということこそ、「愛」が形として現れているようにも感じるのである。もちろん、警戒心が強い動物なので、私が立ちあがろうとすればすぐに起き上がるのだが、私が動かなければ動くことはない。まぁ、暑くなって離れることはあるのだが、決して見えないところには行かない。見えているということでも安心するのだろう。
ありのままの行動で相手を信頼し、全てを委ねられる関係は人の愛も同じかも知れないのだが、人の場合は「言葉」と「お金」が時として邪魔をする存在に早変わりすることもあるなぁと思ったりもする。その両方ともペットと人との関係にはないものだ。だから余計に、ペットを素直に愛することができるのかも知れないし、ペットはそれに答えてくれているのかも知れない。
了
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