10月10日 デジタルの日 【SS】遺言書
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- デジタルの日
日本の行政機関の一つであるデジタル庁が2021年(令和3年)に制定。英語表記は「Japan Digital Days」。
この日は「デジタルに触れ、使い方や楽しみ方を見つける日」となっている。年に一度のデジタルの記念日である。2021年の「デジタルの日」は10月10日と11日の二日間。テーマは「#デジタルを贈ろう」である。
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【SS】遺言書
証刑事と縁梨刑事は、手出須法律事務所で話を聞いていた。
「何が困ることになるのですか?」
「最新の遺言書は、それまでの内容を全て破棄する内容なんです。つまり、全く違うことが書かれているんです。現在有効である遺言書は、遺言を受ける方々に直接お話しするまでは、お見せする事はできませんが、下書きとして書いてある最新の遺言書は発行される事は無くなりましたので、お見せいたします。我々は最終的には紙に印刷して遺言者の署名捺印をもらうようにしていますが、下書きはデジタルで管理していますので、バージョンまで全て履歴が残っています。もちろん、有効となっている遺言書とそれ以前のものはデジタル上も閲覧できない仕組みで管理していますので、今お見せできるのは、現在の下書きのみです」
「なるほど、デジタル時代の中で古い習慣も上手に管理されているのですね。我々警察も見習わなければなりませんね。では、拝見させていただきます」
開いたタブレットにはクラウド上で管理されている吉永さんの遺言書ファイルの下書きが表示されている。その最初の一文は証刑事たちが期待していた内容とは違った。
『吉永金蔵の所有する全ての財産は、宮前美羽に相続させるものとする』
「手出須さん、この内容は我々が聞いた内容と異なるようです。それに、吉永さんには親類がいなかったと聞いていますが、この宮前さんとはどんな関係なのですか」
「ええ、最初は私も吉永さんの言葉でそう思っていました。それでも、念の為と思って、吉永さんの戸籍を追いかけてみたんです。吉永さんはそんな無駄なことしなくていいとずっと仰っていたのですが、往々にして血の繋がりがある人が見つかることもありますよと言って戸籍をしらべる費用と代理人としての承諾書をいただきました。吉永さんにはたったひとりの亡くなったお兄さんがいました。そしてそのお兄さんにはお子さんが一人いたのですが、その方もすでに亡くなっていたのです。それで吉永さんは親類は誰もいないと思われていました。亡くなったお兄さんの一人息子は結婚歴もなく亡くなっていたのですから」
「それじゃあ、やはり相続できる人はいないのではないですか」
「はい、私もそう思いました。しかし、お兄さんの一人息子は、一人の女性を愛し子供を設けていたのです。かなり反対されていたらしく結婚はしなかったのですが、その子を認知はされていました。その事実がわかったのです。それで、私は本人の宮前美羽さんにお会いしてきました。宮前さんは父のことは母から聞いていたと言われていました。美羽さんが小学校に上がる頃、父親は交通事故で亡くなったことも母親から聞かされていたようです。とても温和で優しい方だったんですが生活は厳しそうでした。今はまだ独身で三十歳。一人暮らしをされていて、意外と近くにお住まいでした。その事をお伝えすると、吉永さんは『じゃあ、きっと苦労したんだろうな』と言われ、遺言書を書き直す決心をされたのです。宮前さんは血縁関係の親類ではありますが、法定相続人からは外れますので、遺言書に残さないと相続させることはできないのです」
「なんと。そんな背景があったのですね。それが最近わかったということなのですね。人生は何があるか分かりませんね」
「ええ、私も驚きました。でも吉永さんの気持ちもわかります。九月中旬頃にお伝えした時、血の繋がりがある生きている人が見つかったという喜びで嬉しそうにしていましたから。会ったことも無い人なのですけどね」
「なるほど。吉永さんが遺言書を書いているとか書き直す予定だとかということは吉永さん以外で知っている人はいたのでしょうか」
「ええ、多分、吉永さんの性格では、財産を譲ろうと思っている人には話をしていたんじゃ無いかと思います。その後、宮前さんが見つかったということを私から聞いた時も、それじゃあみんなにも分かってもらわないといけないなぁと仰っていましたから」
「そうだったのですね。なんとも複雑な繋がりだったのですね。そうであれば、手出須さんの方で遺言書の開封のために相続予定の方々を集めていただけますか。法的には現在有効な遺言書に基づいて処理せざるを得ないわけですよね。その上で宮前さんの扱いも検討できればいいですね」
「ええ、しかし、法的にはかなり難しいと思います。ただ、吉永さんは最後に知ったことでその想いも変化していました。なので何とか力になりたいとは思ってはいるのですが、まだ兄弟か、せめてそのお子さんだったら法定相続人として権利を主張できるんですけどね。さらにその先の繋がりとなると」
「そうですよね。宮前さんのお父さんがご存命だったらまだ何とかなったのかもしれませんよね」
「そうなんです。もう少しというタイミングだっただけに悔しいです。嘆いていても始まらないので、遺言書に書いてある方々に案内状をお送りしたいと思います。吉永さんの自宅に集まるようにしても構いませんか」
「ええ、私たちも参加させていただきたいので、そのほうが助かります。思わぬ展開になるかも知れませんけれど」
そして、月が変わり十月二日になり、ニュースが流れた。しかし、司法解剖で判明した死因はまだマスコミには伏せられていた。
「九月三十日、資産家の吉永金蔵さん八十八歳が自宅で亡くなっているのが郵便配達員によって発見されました。吉永さんはアパートやマンションを所有されている資産家でしたが、一人暮らしだったため発見が遅れた模様です」
このニュースが流れる頃には、証刑事たちは関係者への聞き込みや吉永氏が生前利用されていた銀行口座や電話履歴などを調査を開始していた。さらに、マンションやアパートの住人に対する聞き込みも順番に実施していった。その中で、オーナーである吉永氏に直接家賃を持参していた人が数人いたため、順番に事情を聞いて回った。ただ、十月に入った時に、引っ越す人も多く、結局家賃を直接持参していたのは、一人暮らしの赤水という青年だけだと判明していた。そして、数日後、銀行口座の履歴からは新しい事実も判明した。
明日につづく
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