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【SS】 雪だるま (2423字)  #シロクマ文芸部

雪だるま、できたよー」

 小さな古い一軒家の裏庭から中学生になる涼太が、全身から湯気を立てながら部屋の中にいる母に知らせた。

「ありがとう、寒かったでしょう」
「そんなことないよ。みてこれ、全身ポカポカになっちゃった」

 真っ赤になったほっぺを母親に見せながら、作り笑いを浮かべた。

「じゃあ急ぎましょう。このままだと電車も止まってしまうかもしれないわ」
「うん。もう荷物はできてるから大丈夫だよ。母さんは大丈夫?」
「大丈夫よ。こうすれば、ね」

 話しながら、母親は首筋についた紫色のアザが見えないようにハイネックを着た上からマフラーをまいた。準備が整うと二人は急いで古い家を後にした。

 外はすでに暗くなり始め、雪が降りしきっている。天気予報通り、今夜から異常なくらいの大雪になりそうな気配だ。どこの家も厳重に戸締りをして暖をとっているようで、誰一人として歩いているものはいない。

 二人は駅に向かって歩き出した。徒歩三十分はかかる距離だが、大雪のせいでもっと時間がかかりそうだった。次第に前が見えないほどの雪になり、二人の足跡も新しい雪が覆い隠していた。

 駅に着いた時には、あたりは真っ暗になり、無人駅の明かりだけが恨めしそうに灯っていた。

「さぁ、もうすぐ電車が来るわ。急ぎましょう」
「うん」

 二人は急いで誰もいないホームに上り、降りしきる雪を掻き分けて近づいてくる一両編成の明かりを待った。

「お母さん、雪だるまどうなったかな」
「雪だるまも、この雪に埋もれちゃったかもね…」

 少し寂しそうな顔をした母親は、涼太を見ながら「ごめんなさい」と呟いた。母親は聞こえないくらいの声で言ったつもりだったが、涼太は返事をした。

「お母さん、謝らないで。僕たちは悪くないよ、絶対」

 その時、乗客が誰も乗っていない電車が到着して二人は乗り込んだ。

 一週間後、積もりに積もった豪雪もその勢いが止まり、太陽が顔を出すようになっていた。人々は被害を心配していた。あまりにもひどい雪が続いたため、見回りにも行けない日々だったからだ。近くの駐在所の警官も被害確認のため街の離れを中心に見てまわった。

 案の定、戦後に建てられた小さな木造の家は、積もった雪の重さに耐えかねて倒壊を免れることはできなかった。警官は誰も潰された家の下敷きになってないことを願いながら、声をかけて回った。

 同じような古い木造の家が十軒ほど建ち並ぶ場所に来て警官は呆然としていた。そのほとんどは横向きに崩れていたが、一軒だけが裏庭に向かって倒れていた。

「ここには確かまだ三家族が生活していたはずだったな…」
「誰かいますか〜。いたら返事をしてくださーい」

 思いっきり響き渡るような大きな声をかけて回ったが、返事はない。玄関に近づいていくと、老夫婦が住んでいたはずの二軒の家には貼り紙がしてあった。共に息子夫婦のところへ避難するという内容だった。警官はホッと胸を撫で下ろして、最後の一軒の確認に向かった。

「この家だけは特に弱くなっていたんだろうか。後ろ側に向かって倒壊しているな。まさかとは思うが裏庭に回ってみるか」

 そう言って家の裏側に回ってみた。

「あっ、人が押しつぶされているじゃないか。あれは、土田さんのご主人だろうか」

 警官は恐る恐る近づいた。そこには全身がびっしょりと濡れたままの男性が倒れていた。表の道路からは全く見えない場所だ。他の家と同じように横に倒れていたら、気づかなかったかもしれない。倒れた家の柱が男の頭に当たって食い込んでいるのが致命傷になったように見えた。

「これは間違いなく、土田さんだな。奥さんと子供は逃げたのだろうか。そうであればいいのだが…それにしても普段は威勢がよくてもこうなってしまってはおしまいだな。おかげで私は助かった。この人にはかなり困らせられていたからな」

 警官はあたりを見回して現場検証の邪魔になりそうな瓦礫などを一通り片付け、残りの家族がいないことを確認し、遺体には触らないようにして現場を離れた。

 その頃、母親と二人で電車に乗った涼太たちは、東京の狭いアパートに身を寄せて新しい生活をスタートさせていた。がらんとした部屋で仲良く夕食をとっている時、母親のスマホがなった。

「はい。もしもし、土田です」
「あ、土田さん、良かった、スマホは変更されてませんでしたね。駐在の井下です。ご無沙汰してます。色々と相談を受けていましたが力になれず申し訳ありませんでした」

 母親が夫の暴力がひどいことで相談をしていた地元の駐在さんからの電話だった。

「あ、井下さん、いいんです。私たちはもう、あの家を出ましたから…」
「ええ、それもわかってます。自宅や避難所を訪ねてもいらっしゃらなかったもので。ただ、今回お電話したのはご主人が亡くなって発見されたもので連絡しました」
「えっ」
「実は今回の大雪であなたたちが住んでいた家が潰れたんですよ。その下敷きになって旦那さんはなくなったようです。私が発見したので間違いありません。こんなことを言ってはなんですが、これで旦那さんの恐怖からは解放されましたね。それで、ご遺体の扱いについてご相談しようと思い、連絡した次第です。不思議なことにあの一帯の家は全部倒壊したのですが、土田さんの家だけが裏庭の方に向かって倒れていたんですよ。裏庭で何かしていたご主人は不運だったとしか言いようがありません」

 母親の脳裏に新たな恐怖が芽生えた瞬間だった。

「そうだったんですか…私たちはあの人も雪も怖くなって二人で飛び出してしまったんです。あの人が帰ってくる前に」
「ええ、そうでしょうとも。ひどい雪でしたからね。スコップとノコギリは隣の家の床下に入れておきましたから心配はいりませんよ」
「えっ、一体どういうことでしょうか」
「近々東京に行きますので会ってお話ししましょうか。ふふ」

 母親は震える手を抑えながら、涼太に言った。

「涼太、ごめんね。まだ終わりじゃないみたい…」


あとがき

 雪だるま→大雪→寒い地方→逃げ出したいという連想をしてホラーっぽいストーリーを作ってみました。含みを持たせた内容にして全てを説明しないようにして読者の想像に任せる内容になるようにしてみました。まだ続きがあるような終わり方を意図的に作ってみましたがいかがでしょうか?


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