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【SS】 正月の挨拶 (1871字)  #シロクマ文芸部

 お正月にはあちこちで生活している家族が集まる。根城家も例に漏れず世界中から家族のみならず親戚が集まり、厳かな時間とは程遠い喧騒の時間を楽しむ習慣ができていた。

 今年の正月も例年通り、百人以上の親戚が集まり賑やかなパーティとなっている。主人あるじで会長の根城元一ねじろげんいちが静かに現れ大広間の壇上に上がった。

「根城親族の皆様、新年おめでとう。今年もこうしてみんなが、ここ日本に集まってくれたことに感謝すると共に、一緒に歳神様を迎えられることを嬉しく思う」
「会長、ここにも歳神様はやって来るんすかねー」

 会場がドッと笑いに包まれる。話を始めた根城会長も頬を緩め、ヤジを飛ばした親類の男の方に視線を向けた。

「おおよ。ここにもきっと来てくださるさ。何せ、この周りの神社には数えられんくらいの寄付をしてるからのう」

 会場から一斉に「おお」という驚きの声が上がった。同時に、あちこちで囁きも始まった。

「すごいな。神社まで丸め込んでるんだな」
「ああ、うちの会長は桁外れだ。司法も行政もみんな丸め込んでるらしいからな」
「じゃあ、俺たち親族は大船に乗ったつもりでいいんだな」
「ああ、その通りさ」

 にこやかに会場を見渡していた会長の表情が一変して険しくなった。

「お前ら、今の心地よさにあぐらをかいてんじゃねぇか。これまでお前たちを守ってきてやった、このワシに対する恩を忘れてるんじゃねぇだろうな」

 会場が一気に静まり返った。機嫌を損ねるとまずいと思ったのか、あちこちから声が上がった。

「会長。恩を忘れたことなんて一秒たりともありませんよ。会長のためならなんでもする覚悟なんですから」
「そうですよ。ここにいる親族一同、同じ気持ちですぜ。会長のためなら命だって投げ出しますよ」

 会長は再び頬を緩めて嬉しそうに話し出した。

「そうかそうか。まぁそうだとは信じていたんだけどな。もしかすると甘えてるだけなんじゃないかって思ったりもするもんなんだよ。年寄りになるとな」

 そう言ったかと思うと会長は両手を合わせて拝むように「パンパン」と広間中に響き渡る音をならした。その様子を見て会場に集まった親族もホッと胸を撫で下ろしていたその時、四方から怒涛の如く武装した警官隊が雪崩れ込んできた。

 広間に集まっていた親族は一瞬の出来事で逃げ場を失うと同時に、お互いがおしくらまんじゅうの状態となり抵抗することさえできず、瞬く間に全員が手錠をかけられていった。

「会長、会長、大丈夫ですか〜。逃げられましたか〜。会長さえ無事なら数日我慢すれば俺たちはまた戻って来れるさ、なぁ、兄弟」
「ああ、その通りだ。この家には逃げるための細工がたくさんあるからな。特に壇上にいた会長なら逃げられただろう」

 逮捕された親族たちが言った通り、会長は壇上の隠し通路から別の場所へと移動した後だった。狭い通路を潜り抜けたところに待ち受けていたのは、警察の上層部の面々だった。

「会長、ご苦労様でした。おかげさまで手筈通りに全員逮捕できましたよ。まぁ、短くても十年は出て来れないでしょう」
「そうか、そうか。ご苦労だったな。ワシもだいぶ年老いてしまったからな。まぁ、みんなのためにもこの方が良かったんじゃろう、なっ」
「ええ、世の中のためにこれで良かったんですよ、会長」
「ん、そうか、ワシも最後は人様のためになることをしたんだな。じゃあ、これから残った金を使って海外で静かに余生を過ごすとするかなぁ」

 会長は満面の笑みで警察上層部のメンバーに対し、握手をしようと右手を差し出した。その瞬間、差し出した右手に手錠がかけられた。

「根城元一、銃刀法違反並びに殺人教唆、犯人隠匿罪の疑い、そして騒乱罪の現行犯で逮捕する」
「えっ、おいおい。話が違うじゃねぇか。全員逮捕させたら、ワシだけは見逃すという約束だっただろうが。そのために大金をばら撒き続けたんだぞ。極道相手に悪い冗談はするもんじゃないぜ。あんたの家族も大切にしたほうがいいと思うぜ」
「根城さん、あなたのところの主要な組員は全員逮捕されたんですよ。もう、誰もあなたを守って盾になる者も鉄砲玉もいなくなったんです。それにあなたの財産は全て差し押さえられましたよ。あなたが抱き込んだと思っている裁判官たちによってね」
「なんだと、じゃあ、この国初の司法取引という話は…」
「この国にそんな法律はありません。罪を犯した人間は等しく裁かれるのですよ」

 根城元一は、騙されていたのは自分だったと悟り、後悔のせいか顔から血の気が引いて蒼白になったが全ては後の祭りだった。



あとがき

 温かい話にしたいなと思いつつ、逆転劇の方が面白いかもと悩みながら辿り着いたストーリーです。正月は家族が集まってお餅を食べるなぁと考えていた時、我が家の今年はなかなか全員が同じ時間に集まれなかったこともあり、予測してないことが起きるのが現実だよなと思っています。事実は小説より奇なり、その通りなんですよね。


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