9月19日 九十九島の日 【SS】友達
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 九十九島の日
長崎県佐世保市が1999年(平成11年)に制定。
日付は「く(9)じゅうく(19)しま」(九十九島)と読む語呂合わせから。「世界で最も美しい湾クラブ」に加盟する九十九島は大小208の島々からなる風光明媚な景勝地。九十九島の魅力を国内のみならず海外に向けてその魅力を発信していくことが目的。
記念日は2019年(令和元年)に一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。この日を中心として、水族館・遊覧船・飲食店などの複合施設「九十九島パールシーリゾート」で「九十九島の祭典」が開催される。
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【SS】友達
遥か昔、太郎という一人の童がいた。太郎はいつも小高い丘に登り、じっと海を見つめて過ごすのが好きだった。時々、海に向かって独り言のように何かを呟いていた。太郎が見つめる先の海には、無数の小さな小島が浮かんでいる。あまりにも島が密集しているので、魚をとる小舟すら通らない。ときおり飛んでくるカモメくらいがお客様だった。そんな光景を太郎は毎日見るために小高い丘に登ってきていたのだ。
ある日、旅でこの地を訪れた旅人が海沿いの道を歩いていた。見上げると小高い丘が見える。そこに登れば海が一望できそうだと思い、村人に尋ねた。
「もし、少しお尋ねしたいのですが」
「へぇ、なんでしょう」
「あそこに見える小高い丘からの眺めが良さそうじゃと思うのですが、どこから登っていけばいいのでしょう」
「ん、あー、あの丘かのう。あそこは太郎丘とみんなで呼んどるところじゃ。道はないぞ」
「太郎丘ですか。人の名前みたいな丘ですね。しかも道は無いのですか」
「あー、そうじゃ。あそこは太郎という童が毎日登ってるだけで誰も登らん。景色も島が見えるだけでちっともおもしろうないからの。それに道が無いから、上まで行くには獣道を登らんといかん。しんどいだけじゃ。あんたも止めておきなされ」
「はぁ、そんなところなんですか。分かりました、ありがとうございました」
旅人は、村人に止められたが、どうしても登ってみたいという衝動を抑えられない。しばらく丘の周りを歩いて見ることにした。獣道とやらが見つかったら登ってみようと思ったのだ。村人が言っていた「太郎」という童のことも気になったし、丘の名前にその子の名前をつけて呼んでいるくらいだから、きっと変わった童なのだろうとも思い、興味が湧いてしまったのだ。
海側から丘を左手に見ながら歩いて回り裏手まで行くと、何やら細い道らしきものが見えた。旅人はきっとここに違いないと思いながら、覆い被さっている草を両手で分けながら、一歩踏み込んで登り出した。そこからが大変だった。途中にいくつもの分かれ道らしき場所があり、何度も間違えて歩いた。間違った道は十メートルほど進むと行き止まりになっているから、その度に引き返しながら進んだ。
「これは大変な獣道に踏み込んでしまったな。だが、ここまで来たんだからなんとしても海を見てやるぞ。それにしても、こんなに分かれ道が多い獣道を毎日来ているとはいえ、童が迷わずに登ってくるというのは凄いことだな。何となく数えていたけれど、すでに九十九回も分かれ道に遭遇してしまったぞ。ん、ここの分かれ道に数字が書いてあるな、えっと八十か。何のことかな、童が書いたのかな」
そんな独り言を呟きながら、一歩ずつ登っていくといきなり視界が開けた場所に着いた。どうやら丘の頂上のようだ。丘だと思って簡単に考えていたが、登山をしたような気持ちになっていた。
「おお、やっと頂上に着いた。いやー、結構時間がかかったな。おお、向こうのほうに行けば海の景色が見えるかな」
旅人は丘の頂上の端っこまで歩いていった。するとそこには、村人が言っていたと思われる童がちょこんと座って海の方を見つめていた。村人が言っていたように、見えるものは小島だらけだ。確かに海を見ている気にはならないかもしれないと感じた。旅人は太郎に声をかけた。
「太郎くんかな。君はどうして毎日この丘に登ってくるの」
「お友達に会いに来ているだけだよ」
「えっ、でも君一人しかいないようだけど」
「違うよ、お友達はあそこ」
太郎が指差した先は、無数に見える小島だった。
「え、あの島たちが太郎くんのお友達なのかい」
「そうだよ、九十九の島があるんだ。みんな友達だよ。よくお話をしてくれるんだ」
「えっ、島が話をしてくれるのかい」
「そうだよ、世界のいろんなところの話をしてくれるんだ。とっても面白いから毎日来てるんだよ。嵐の日以外はね。お話をしてくれる島さんは、一番前に出てきて話をしてくれるんだよ。今日はシベリアまで旅をしたっていう島がお話をしてくれた。シベリアっていうところはとっても寒いんだって。島に生えていた木もかなり枯れてしまったらしいんだ。今は元通りになったけどね」
「島が旅をしているっていうのかい」
旅人はこの童はどこか病を患っているのかもしれないと思い始め、登ってきたことを後悔し始めていた。
「おじさん、ここに登ってくるまでに分かれ道が沢山あったでしょ。いくつあったか数えていた?」
「ああ、沢山あったな。確か九十九箇所、えっ、島の数と同じってことかい」
「そうなんだ。分かれ道の数は島の数と同じで、最後の分かれ道のところで、今日お話ししてくれる島がどの島かわかるようになってるんだよ。気づかなかった?」
「あっ、あったあった、確か八十だ」
「そうだよ、今日は八十番目の島の八十助島さんのお話の番なんだ。僕は、八十助島さんのお話はもう三回くらい聞いてるよ。樺太というところに行った話、北極の近くに行った話、アラスカに行った話だったんだ。みんな寒いところばっかりだったんだって。誰も行きたがらないから仕方なく八十助島さんがみんなを代表して見に行ったんだよ。そのせいで島の木々たちはだいぶ傷んでしまったらしいんだ。かわいそうだよね」
旅人は、明日もこの小高い丘に登りたくなってしまった。何ともいえない運命みたいなものを感じてしまったのだ。旅人の仕事は日本中の昔話を発掘して多くの人に紹介するために本にすることだった。
「太郎くん、明日もここでおじさんと会ってくれるかい」
了
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