【SS】 騙し合い #シロクマ文芸部(振り返る)
今週のお題を見た時に、ふと、いくつかの視点で振り返るという書き出しのショートショートが考えられそうだと思いつき、三人の視点で創ってみました。
1. 弟の告白
振り返る君の姿はとても悲しそうだった。窓越しの朝日を背中に浴びている君の肌は透き通るように綺麗なのに、君の表情は悲しそうに暗くて、僕は声すらかけることができなかった。ベッドから去っていく君をただ黙って僕は見送った。
今日は君の結婚式だね、僕も出席はするけど、まともに見れないかもしれないな。きっと綺麗なんだろうな。想像はするけれど、君が遠い存在になるのを悔しがっている僕がいるんだ。
君は僕の双子の兄と今日結婚式を挙げる。兄は父の後を継いで医師になったけど、僕は何度も国家試験に落ちていまだに医者にはなれていない。そろそろ諦めようかなとも思っている。兄とは一卵性の双子なのに、どうしてこんなに頭の出来が違うんだろうと恨めしく思ったこともあるんだ。君もそのことをわかってくれていたよね。
君が兄を訪ねて遊びに来た時、ちょうど両親は留守で兄も出かけている時だった。僕は兄のふりをして、君を抱きしめたんだ。だって君が好きだったから。しばらくして、兄ではないと君も気付いたけど、僕たちの関係はその時から今まで続いてしまった。兄には申し訳ないと思う反面、嬉しく思っている僕が心の中には確かにいたんだ。君はどうだったんだろう。気にはなるけど聞く勇気はない。
君のお腹の中には、確かに僕の分身が宿っているはずだ。君も気付いてはいると思うけど何も言わないね。きっと、兄のことを知らないんだろうね。兄は子供を作ることができない体なんだよ。両親すら知らない秘密なんだ。僕が知っていることは兄も知らない。たまたま兄が事故で運ばれて入院していた病院で、カルテが見えて僕は偶然知ってしまったんだ。
家系のことを大切にする兄は、自分では後継を作ることはできないから、受け入れてくれると思うよ。血液型でもDNAでも判別はできないだろうからと。だって選択肢はないからね。だから、君にも話せなかった。ごめん。直接謝れないけど、心の中では謝るよ。
今日の結婚式、僕は耐えられないから、途中で退席するつもりだ。幸せになってくれ。
2. 兄の告白
振り返る君は、一体誰を気にしているのか。もしかして弟なのかな。結婚式の当日ぐらいは僕のことだけを見つめていてほしいな。
君と弟が接近するようにお膳立てをしたのは実は僕なんだよ。あの日、弟と君が二人っきりになれるようにわざと出かけたんだ。弟も知らないはずだけどね。僕は君を愛しているけど、高校生の時に事故に遭って子供を作ることができない体になってしまったんだ。両親もそのことを知らない。でも両親は君を見て、僕と一緒になった後の子供を楽しみにしているから悩んだんだよ。だからどうしようかと迷ったあげく、健康で僕とそっくりな弟と関係を持って子供を作ってくれたら、その子供を僕は自分の子供として育てると決心したんだ。だから、君と弟の関係を責めるつもりは全くないんだ。どちらかといえば、自分自身が情けないと思っているくらいだから。
僕と弟は、幼い時に母親を亡くしているんだ。忙しい父親にはほとんど構ってもらうことなく成長した。だから、僕は家族というものを自分の命のあるかぎり大切にしたいと考えているんだ。長男としての責任も感じているしね。弟が医師免許を取れずにいるから、なんとしても僕が踏ん張らないといけないとも思っているし。本当は弟も医者になってくれれば、父親は安心するんだろうけど、弟にはもうやる気を感じられないから、きっと違う道を歩み出すのだろうと思っているよ。
今日の君はとても素敵だ。ウェディングドレスもよく似合っているし、みんなから祝福されて、ピンク色になっている頬も素敵だと思うよ。今日から君は僕の妻として人生を歩んでいくことになるんだね。だから、そろそろ弟のことは忘れて僕だけを見てほしいな。僕は親父の後を継いで病院を経営していくことになるから、君と赤ちゃんは僕が責任を持って幸せにしていけると思っているよ。
3. 新婦の告白
振り返る私を気遣う二人の男たち。一人は私の夫となった人。そしてもう一人は夫の弟。兄弟といっても一卵性双生児なので顔は瓜二つ。唯一の違いは、兄は子供を作ることができない体になってしまっているということ。兄弟はそのことを私が知らないと思っているみたいだけど、とっくに調査済み。でも口にはしない。そして、この子を無事出産してみせるわ。そして、いい母親になるのよ。二人の男の協力を得てね。
夫が高校生の時に事故に遭って入院した病院は、実は私のおじさんの病院。そこの娘は当時、夫の弟と付き合っていたみたいで、入院したのが弟だと勘違いしたみたい。当時、私はその子とは仲良くしていたので、慰めてあげたのよ。でも、実際には双子の兄弟の兄の方だったとわかってその子はほっとしていたのよ。そして成長とともに、夫の弟とは別れてしまったらしいの。でも、思い出話としては私との間で何度か話したことがあったのよ。たまたま、入院当時のカルテの話になって、兄は子供が作れない体になっているということをその子は知ってしまい、弟に話をしたことを後悔していたわ。私にとってはラッキーだったけど。
私の心の中の悪魔が囁いたのはその時なの。病院を継ぐのは長男である兄だからなんとか近づくことを考えたのよ。大学時代にチャンスはきたわ。そんなに時間はかからなかった。突然降り出した雨の日に駅前のスタバでラテを飲んでいたら、いきなりあなたが入ってきたのよね。あなたは、結構雨に濡れていたわね。私はそのチャンスを見逃さなかった。駆け寄ってタオルを差し出しながら、大学の話を持ちかけたわ。そして同じテーブルでしばらく一緒の時間を過ごし、私の傘であなたの家まで送ってあげたの。それから付き合いが始まった。そしてプロポーズを受け、あなたのお父さんにご挨拶をした。とんとん拍子だったわ。そして、今日の結婚式を迎えている。
あなたと付き合い始めた頃、あなたの弟は、私とあなたの関係を羨ましがっていたのよ。すぐに分かったわ。だから私は気づかないふりをして、弟に抱かれた。そして身籠った。予定通りだったわ。だってあなたの子供は望めないんだから。これで、あなたの病院を私のこの子が継ぐことができると思ったのよ。お父さんは言ったわ。「実は二人の息子はそんなに永くは生きられないと思うから、できるだけ早く子供を作ってくれると嬉しい」とね。私は驚いたけど心の中では喜んだの。ごめんなさい。
あなた達兄弟は、遺伝子に異常があるらしく四十歳まで命を繋ぐことは難しいそうよ。知らないでしょうけど。でも安心して。私とこの子があなた達の家系を守ってあげるから。
了
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