【SS】 コスモス #シロクマ文芸部
秋が好きな君が愛した花はコスモスだった。特に好きだったのはピンクのコスモス、花言葉は「乙女の純潔」だ。思い出すたびに涙が溢れてしまう。自分でも、男のくせにと思ってはみるが、心に男女は関係ないようだ。気持ちが込み上げてくれば涙が自然に溢れてしまうものだ。
君が大好きだったコスモス畑が満開になる季節が、僕はいまだに好きになれない。君を連れ去った季節としか思えないから。でも、もし君がいたら優しく微笑んで僕に言ってくれるんだろうね。
「ねぇ、コスモスの季節だよ。一緒に見にいこう。一面に咲いて秋風に揺れるコスモスの海を」
そんな君の言葉が僕の頭の中で、終わることなく繰り返される季節。結局、僕は君の言葉に負けて、一人でも見に行ってしまう。一面に咲いたコスモスを。そして、その前で毎年涙を流してしまう。自分でも情けないと思うよ。
今年も、またコスモスの季節がやってきた。きっと君は夢の中で、僕を誘うんだろうな。
「ねぇ、コスモスの季節だよ。一緒に見にいこう。一面に咲いて秋風に揺れるコスモスの海を」
そしてまた、僕は一人でバイクに跨り、コスモス畑を目指してしまう。まるで同じビデオを巻き戻して見るように同じことを毎年繰り返している。
五年前の秋の日。君はいつものように僕のバイクの後ろに乗ってヘルメットの中で楽しそうに笑っていた。でも、脇道から急に飛び出してきた車が僕のバイクの後ろに直撃して、君は宙を舞った。僕のバイクはぶつかった衝撃で思いっきり回転してしまい、君とは全く違う方向に僕は投げ出された。そう、僕は歩道に君は車道に。後ろからは車が来ていた。気づいた時は、僕は病院だった。病院で目が覚めた時、確かに目の前に君がいた気がした。そしてはっきり聞こえたんだ、君の声が。
「ねぇ、コスモスの季節だよ。一緒に見にいこう。一面に咲いて秋風に揺れるコスモスの海を」
君はそう言ってから、消えてしまった。そして僕はまた眠った。全てはぶつかった車の過失ということで交通事故は処理された。僕は左足の膝を人工関節にしなければならなくなっていたし、君はすでに帰らぬ人となっていた。君の両親も僕に文句の一つも言いたいのだろうと思ってベッドの上で静かに待っていたけど、顔を見せてもらえることもなく街から引っ越されてしまった。僕の心には、とてつもなく大きな「後悔」という気持ちがその時に生まれてしまった。それから、毎年、君の声を聞くたびにコスモス畑を見にくるようになった。忘れたくても忘れられない思い出が毎年、秋によみがえる。
今年もコスモスを見にやって来た。いつものように一面コスモスの花だらけだ。目を凝らしてみると、コスモス畑の中に一人の女性が立ってこっちを見ているのがわかった。目が合ったと思ったら、その女性がいきなり小走りで近づいてきた。
「毎年、コスモスを見に来ていますよね。それも一人で。なんか訳ありかなって三年前から思ってたんですよ。私、赤いコスモスが好きなんです。でも大体、ピンクが多いんですよね〜。ここのコスモス畑」
驚いたような顔をしている僕に、その女性は驚く言葉で僕を誘ってくれた。
「ねぇ、コスモスの季節ですね。一緒に見にいきましょう。一面に咲いて秋風に揺れるコスモスの海を。。。この向こうに赤いコスモスが沢山咲いているところがあるから」
僕は返事をすることもできずに、驚いているとその女性はいきなり僕の手を取って歩き出してくれた。亡くなってしまった君のことをこの女性に話すと、ニコニコしながら聞いてくれた。それから、この不思議な出会いの女性との付き合いが始まった。
やっと、ピンクのコスモスが大好きだった君を忘れられそうな気がする。これからは赤いコスモスが好きになりそうだ。
了
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