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8月16日 電子コミックの日 【SS】描いた未来

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 電子コミックの日

国内最大級の総合電子コミックサイト「コミックシーモア」。そのサイトを運営する大阪府大阪市中央区に本社を置くNTTグループのNTTソルマーレ株式会社が制定。

電子コミックサイトのサービス開始10周年を記念して記念日とし、日付はサービスを開始した2004年(平成16年)8月16日から。電子コミックを通じて日本を元気にすることが目的。記念日は一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。


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【SS】描いた未来

 一九八〇年代、まだ携帯もなくインターネットの影もなかった。パソコンは登場していたものの、ワープロ専用機が幅を利かせている時代だ。今とは比べようがないほどIT環境は見窄らしいものだったのだが、当時としてみれば、パソコンという存在が大きな影響力を持ち、ワープロ専用機を凌駕しようとしていた時だったため、若者はこぞって高額なパソコンを購入して楽しんでいた。また、同時期には、任天堂のファミコンが登場し、ゲーム業界の明るい未来を予測させるようなセンセーショナルなデビューを果たした。当時の子供たちは、一様に親にねだって買ってもらっていたようだ。学校に行けば、ゲームの話で盛り上がるので、ファミコンを持っていない子供は肩身が狭かったに違いない。

 まさに八〇年代は、IT業界が新たな発展に向けて走り始めた時代だったのかもしれない。人々はその可能性の大きさを認識し、様々な議論や愚痴、口論に至るまで、サラリーマンにとっては格好の酒の肴となっていたのはいうまでもない。急速に伸び始めたIT業界の求人は止まることを知らず、大企業による大規模な採用も起こり、それは中小企業の採用にも波及した時代だった。巷では、ITにまつわる書籍も多数出版されるようになり、大いに成長する業界としてIT分野は熱望され始めた時代だった。

 そんな環境の中に身を投じて数年が経過し、頭角を表しはじめた青年とその上司が街の酒場でジョッキを片手に仕事のことについて話をしている。拓未育成たくみ いくせいという青年と他力頼人たりき らいとという上司だ。

「拓未くん、君はなかなかいいセンスを持っているじゃないか。君が作ったシステムはお客様にも評判がよくて嬉しい限りだよ」

「ありがとうございます。他力さんに誘われて転職したおかげです。今の仕事もとてもやりがいがあって楽しくさせていただいています」

「いやー、そう言ってもらえると、声をかけた僕としても嬉しい限りだ。さぁ、今日はシステムも完成して安定稼働したから安心して飲もう。ただ、割り勘でな」

「はい、ありがとうございます。はは、他力さんの財布は奥様に握られていますからね。私の方はまだ独身貴族ですから、割り勘で問題ありませんよ」

「いや、面目ない」

 こうして、楽しい時間なのか上司の誘いを無下に断れなかったからなのかは分からないが、騒がしい居酒屋で過ぎゆく時間を楽しんでいた。一通り、つまみも出てきて胃袋も満足し始め、ビールから焼酎へとグラスを切り替えた時、他力が宙を見つめながら話し出した。

「なぁ、拓未くん。僕は、このIT需要は当分続き、成長していくと思っているんだ。ただ、コンピューターのハードウェアとしては、大型から分散、最後には個人利用が主流になるかもしれないな。その時には世の中のコンピューターが目に見えないネットワークでつながり始めると思うんだよ。今はそんな変化の出発点にいるような気がするんだ。君は、将来、どんなサービスがこの業界で生き残ると思う? そんなこと考えたことはあるかな」

「いやー、まだ、今は学習することだらけでそんな先のことまで考えるゆとりはありませんが、僕としては、人が学ぶということは不変だと思っているんです。だから、広い意味での教育分野というものは廃れることはないと思っています。今は、書店に行ってめぼしい専門書や小説や漫画本を買って知識にしたり、楽しんだりしていると思いますが、その形態は、我々が身を置いているIT環境によって、大きく変わるんじゃないかとも思っていますよ」

「ほお、面白い考え方だね。例えばどんなサービスが考えられるのかな」

「そうですね。今、ワープロ・ソフトが当たり前のように使われるようになりましたよね。同様にプレゼンテーション・ソフトも同じです。その先には、個人で本が作れる環境が出来始めているんじゃないかと思うんです。漫画だって、紙とペンの環境からマウスとか電子ペンとディスプレーみたいな環境にとって変われるんじゃないかと思います。そうなると、書籍というものは紙だけでなく電子媒体となって世の中に広がるんじゃないかと思うんですよね。出版という概念も変わり、誰でも自由に投稿できる場所というか空間という場所が登場するんじゃないでしょうか」

「なるほど。本が紙から電子媒体に移行するというわけだな。面白い。でも、それはまだまだ先だろうな。だれでも出版できる環境なんて想像できないよ」

 居酒屋でこんな話をしていた当時の上司と部下は、三十年が経過した時、当時の上司はすでに仕事を卒業し、拓未は、当時とは違う会社に転職していた。久しぶりに街でバッタリと出会い、他力は懐かしさのあまり、ビールでも飲んでいこうと半ば強引に拓未を誘い、居酒屋の暖簾をくぐった。

「そういえば、ずいぶん昔に拓未くんは、電子書籍の話をしていたことがあったな。僕はまだまだ先のことだろうと鷹をくくっていたけど、いやいや、拓未くんの先見性はすごかったな。その通りになったじゃないか」

「他力さん、いや、思うだけなら僕の他にたくさんいたってことですよ。だから、あの時のことがすでに実現したんですよ。僕は単なる利用者ですよ。行動した人たちに敬意を表します、本当に。まぁ、とりあえず、突然の再会に乾杯しましょう」

 拓未は、自らも執筆してビジネスの実用書や小説の電子書籍を出版しているということは、他力には告げなかった。もちろん、息抜きに電子コミックを楽しんでいることも。そして、居酒屋の勘定を拓未は黙って支払って他力と別れたのである。


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