8月24日 愛酒の日 【SS】日課
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 愛酒の日
この日は酒をこよなく愛した歌人・若山牧水(わかやま ぼくすい、1885~1928年)の誕生日。
牧水は北原白秋・土岐善麿と親交があり、旅と自然を愛し、豊かな情感と寂寥感とを歌い上げた歌風で知られている。「白玉の歯にしみとほる秋の夜の 酒はしづかに飲むべかりけり」と詠んだ。旅にあって各所で歌を詠み、日本各地に歌碑がある。
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【SS】日課
毎日は、楽しいこと、嬉しいこと、辛いこと、悲しいこと、怖いこと、痛いこと、そしてつまらないことが、繰り返し訪れるものだ。最も、そんな出来事を思い出して終わる一日はお気楽そのものなのかもしれないと思ったりもする。時には、思いっきり過去の幼い頃のことや若かりし日々の頃のことも、ふと思い出すことがある。何かキッカケがあるから思い出すのかも知れないが、記憶というアルバムの一ページに辿り着くのは、この上なく至極の時間なのかも知れない。
そういえば、昔の記憶で、時々思い出すことがある。コンピューターというものに初めて出会った時のことだ。パソコンではなく、私の身長よりも高い汎用コンピューターと呼ばれていたものだ。当時通っていた高校に専用の部屋が作られ、初めて導入され、公開される日を楽しみに待っていた。そして、コンピューターが先生たちの手によって安定稼働し始めた頃、見学できるようになったのだ。私は、コンピューターという存在をまじかで見た時の感動は今でも忘れていない。なんて事はない機械の箱だが、多くのスイッチや空調の音、回転するテープ装置などは、映画の世界を目の当たりにしているような感覚だったなと思い出すことがしばしばある。私自身が数年前まで、IT業界に身を投じていたからかも知れないと時々思っている。
最初に見たコンピューターは、学校にできたコンピューター室で友達の忠弘と一緒に見ることになった。今では、マシンルームという言い方が普通かも知れないが、当時は、コンピューター室と呼んでいた。先生は先にコンピューター室に入って、操作しているようだった。
「おい、悠太。ここがコンピューター室らしいぞ。今日は先生の許可をもらったから、中に入れるぞ、楽しみだなぁ」
「ああそうだな。いつもプログラミングする時は、小さなコンピューターしか使っていないからな。先生が言っていたけど、埃をコンピューター室に持ち込まないように気をつけろといっていたぞ。おい、見ろよ、忠弘。靴を脱いでスリッパに履き替えるみたいだぞ」
当時のコンピューター室は、二重扉になっていて靴を脱ぎスリッパに履き替えて、エアーシャワーで全身の埃を吹き飛ばしてから入室するという徹底ぶりだった。まるで半導体工場の無菌室のような対応だ。中に入ると、稼働中のコンピューターがものすごい存在感を醸し出していた。
「先生、失礼しまーす。見学しまーす」
「おお、二人とも来たか。触っちゃダメだぞ。見るだけだからな」
「はーい」
「おい、見てみろよ、悠太。紙テープの処理が、めちゃくちゃ早いぞ。俺たちが作ったプログラムなんてあっという間に読み込んでしまいそうだな。なんか凄いな、007の映画みたいだな」
「本当だ。すごいなぁ。流石にコンピューターは処理速度が段違いに早いな」
最初にコンピューターを見た時は、こんな感じで感激していた。当時は、紙テープにプログラミングしてコンピューターに読み込ませていたのだ。丁度ガムテープくらいの幅の紙テープの中心に、数ミリ程度の穴が等間隔で空いていてそれをガイドとして読み込ませる仕組みだ。中心の穴の両脇に開けられた穴が文字を表し、光のセンサーを通過することでコンピューターは文字と認識する仕組みだった。そんな光景を見て感動していたのだ。そして、紙テープが紙カードへと移行し、その後は直接ディスクに書き込むようになって行ったのだ。
今となっては、なんの役にも立たない、そんなことを思い起こしながら、一人懐かしく思いにふける。うーん、なんという至極の時間だと思い、一人でニヤッとしている。傍には、丸い氷が溶け始めたバカラのグラス。中には太陽の光を受けて揺れる琥珀色の水が美しい。思わず、無意識のうちにグラスに手を伸ばす。窓の外は綺麗な夕焼け空になっていた。面白いことに、業界に首までどっぷり浸かり、日々の仕事を忙しくこなしていた時のことより、何かに初めて出会った時のことは記憶にも鮮明に刻まれるのだろう。
思い出に浸りながら時を忘れて飲む酒はウィスキーが似合う。と私は勝手に思っている。普段、執筆に疲れた時は焼酎を飲んでいる。どちらかといえば、それが私の日課。ウィスキーに手を伸ばすのは時間を大切に過ごしたい時という感じだ。そう、特別な日の特別な時間を楽しむ特別なお酒だ。
今日は、”愛酒の日”という記念日らしい。こんな記念日まであるのかと思い、ついつい調子に乗って、二杯目のロックを作っている。まぁ、これも私のための記念日であり、日課だと思えば自分自身を納得させられるかなぁ。妻の目を少しだけ気にしながら、今日もグラス片手にパソコンに向かっている。
了
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