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【短編】夏休みの恋 No.01


幼馴染

「ねぇ、貴史。あたしのこと本当に好きなの」

「当たり前だろ。大好きにきまってるじゃん、菜々子のことが」

「でもさぁ、私たちもう大学四年生だよ。就職面接も終わってさ、お互いに仕事も決まったじゃん。決まってないのはあたし達の未来だけだよ」

「あぁ、解ってはいるけどさ。俺だって色々と考えているんだよ」

 貴史と菜々子は小学校からずっと一緒で高校に入ってから付き合うようになった。何となく、二人とも将来は結婚するのかなぁと漠然と思いながら、学生生活を楽しんでいた。しかし、大学生活も最後の年になったというのに貴史は何も話してくれない。菜々子はその不安を突きつけたのだった。せめてプロポーズくらいして安心させてほしいなといつも心の中で思っていたのである。

「もう、何が解ってるっていうのよ。考えているなら話してくれてもいいじゃない。適当に言ってるんじゃないの。もう、いいわ、今年の夏休みは別行動よ。私はちょっと遠くのあなたの知らない知り合いのところに泊まりに行くから」

「えっ、夏休みは全然会えないってこと。僕の部屋にも来ないの」

「そうよ。夏休みはあなたには会えませんから〜」

 こうして大学四年生の最後の夏休みは、ちょっとした意地の張り合いから二人は別々で過ごすことになってしまった。実は貴史は、就職先が内定していたものの、卒業する前に学生のまま起業することを密かに計画していたのだった。ただ、まだ資金や起業する仲間が確定していなかったので菜々子には言えないでいたのだった。そんなフラフラした状態でプロポーズもできないと思っていたのである。本当は打ち明けたいと思っていたのだが、菜々子と一緒になることを考えるとしっかりした計画にしてから菜々子に話をしたいと考えていたのだった。それに菜々子はやってみたい仕事も持っている様だったので、事前に話をすると菜々子は自分の夢をあきらめて手伝うと言ってくる気がしていたのだ。貴史なりの優しさの結果だったが、菜々子には煮え切らない態度にしか映っていなかった様だ。何とも男女間の心の動きとは難しいものである。

 そうしている間に、夏休みはやってきた。菜々子のいくところは、実はそんなに遠いところでは無かった。電車に乗って一時間もかからない親戚のところだった。そこには菜々子のおばさんが住んでいる。おばさんは菜々子の母のお姉さんである。いろんな悩み相談に乗ってくれる優しいおばさんだった。菜々子はおばさんの家にほぼ一月間お世話になろうと考えていた。それに、おばさんの家は海のそばなので、夏の花火大会も楽しめるかなと考えていた。本当は貴史と一緒に花火大会を見たかったけど少し冷静になって考えるために今年の夏休みは一人で過ごすことにしたのだった。たまには貴史に縛られない時間もいいかなとある程度開き直って自分を解放したいと思った菜々子だった。そう思うと何故か心もウキウキ気分に置き換わっていたようである。

 キャリーケースに必要最低限の荷物を押し込んで、日焼け防止用の鍔の広い帽子を斜めに被り、涼しそうな綿の白いワンピースを着て母親に暫しのさようならを告げた。貴史にはあえて連絡をしなかった。いや、意地を張っていたのでできなかったと言ったほうが正しいかもしれない。

「お母さん、行ってきます。学生最後の夏休み。おばさんのところで綺麗な空気を吸って羽を伸ばしてくるわ」

「姉さんには私からも電話しておくけど、あんまり勝手な行動して困らせないようにね」

「わかってるわよ」

 そういって、白いパンプスに爪先からスルリと滑らせて足を入れ、気持ちも足取りも軽く自宅を後にした。


つづく


第一弾のお話はこちらです。


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