【短編】夏休みの恋 No.02
夏休みの始まり
「おばさーん、来たよ。一ヶ月お世話になりまーす」
菜々子は大学最後の夏休みをおばさんの家で過ごすために、海辺の街に住むおばさんの家にやってきた。大学生になってからきたことがなかったので数年ぶりである。もっとも、それまではよく来ていたので本人は至って自然に尋ねてきたようだ。なんでも話せるおばさんであり、菜々子は心のどこかで頼りにしている節があった。
「あらー、菜々子、久しぶりね、まぁ、大人になったわねー。すっかり美人になっちゃって。待ってたわよ。自分の家だと思ってのんびりしていっていいからね。お母さんからも電話があったわ。あんまり甘やかさないでって」
「えー、なにそれ。姉妹で可愛い私をいじめないでよ〜。さてと、とりあえず久しぶりに港にでも行ってみようかな」
「相変わらずじっとしていられない子だね〜。来た日くらいゆっくりしたらいいのに。まぁ言っても聞く子じゃないけどね、あなたは」
「だって、今日は今日しかないんだよ。勿体無いじゃん、ダラーっとしてるの。夕方には戻ってくるから、美味しいご飯お願いしまーす」
「全く遠慮がない子だわね。いいわよ。あなたが大好きなすき焼きでも準備しておくわ。エアコンつけて食べれば暑く無いでしょうから。気をつけていってらっしゃい」
「やったー。さすがおばさん。夏のすき焼き、スタミナつきそう。もちろんいいお肉よね。行ってきまーす」
久しぶりにおばさんのところに来て、菜々子は開放的な気分になっていた。ノースリーブの白いワンピースに着替え、ビーチサンダルを履き、日傘をさして港まで歩いていってみた。まだ日は高く暑い日差しが射してくるので日傘をクルクル回しながら歩いた。菜々子は港の風や雰囲気がとても好きだった。普段、都会の喧騒の中で生活しているので、静かな雰囲気に浸るとホッとするのだった。電車に乗ってほんの少し移動してきただけなのにこんなにも違うんだと来る度に思っていた。まだまだ昔の情景が色濃く残る場所だった。最近では、海を求めて都会から若いカップルが押し寄せてくる様になったらしいが、まだまだ雰囲気は壊されてはいなかった。
ふと港の防波堤の先を見ると、Tシャツに短パンで日に焼けた男の子が釣りをしているのが目に入った。なぜかその姿が眩しく感じた。多分このあたりに住んでいる高校生だろうと思い、近づいていってみた。男の子は釣り糸を垂らしてはいるもののラジオで音楽を聴いている様だった。何となく興味をそそられた菜々子は声をかけてみた。
「ねぇ、なにが釣れるの」
男の子は誰もいないと思っていたので、声をかけられたことに驚き振り返った。そこには日傘をさして眩しいくらいの笑顔で覗き込んでいる菜々子がいた。男の子は慌ててラジオを止めて、横にあるバケツを指差しながら言った。
「アジが釣れます。今日は結構回ってきていたので、たくさん釣れました」
「ん、回ってきていたってどういうこと」
「あ、アジって回遊する魚なんです。鯖とかも同じですけど。一箇所にいるわけではなくて潮に乗っていろんなところに行くんですよ。で、最近はこの港にも入ってくるんです。朝と夕方に来るんですけど、今日は暇だったから、朝からずっと釣りしてたんです。そしたら、こんなに釣れました」
バケツの中は釣り上げたアジで一杯になっていて、数えることもできないくらいだった。
「へーっ、すごいね。君、魚釣りがうまいんだね」
「えっ、いえ。普通です。あ、僕、タカシっていうんです。お姉さんは」
「あら、タカシくんって言うんだ。わたしは菜々子よ。菜の花の菜々子。タカシ君はどんな字を書くの」
「西郷隆盛のタカの字です。自分でも気に入ってます。お姉さんはこの辺りの人じやないですよね。こんな綺麗な人見たことないから」
「あら、口が上手いのね。私はそんなに綺麗じゃないわよ。今夏休みでおばさんのところに遊びに来てるのよ。私は普通の大学生で、私の友達にタカシっていう男性がいるけどあなたの方が魅力的かもよ」
「え、僕とおんなじ名前の友達がいるんですか。なんだかライバルみたいな気がするな。僕も来年は大学に行くんですけど時々こうして釣りをして気晴らしをしてるんです」
「あら、そうだったのね。高校三年生なんだ。いいなぁ、大学を目指しているときかー。私にもそんな時があったなー」
つづく
第一弾のお話はこちらです。
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