9月21日 クレイジーソルトの日 【SS】二十年間の我慢
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- クレイジーソルトの日
東京都渋谷区桜丘町に本社を置き、アメリカで誕生した「クレイジーソルト」を1980年(昭和55年)より日本で発売している日本緑茶センター株式会社が制定。
日付は長年にわたりアメリカから「クレイジーソルト」を輸入している同社が、在日アメリカ合衆国大使館からその功績を讃えられ表彰された2017年(平成29年)9月21日にちなんで。
どんな食材でもひと振りで美味しくなると人気のロングセラー調味料として、幅広い広い世代に愛され続けている「クレイジーソルト」。これからもさらに多くの人にファンになってもらうのが目的。記念日は2021年(令和3年)に一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。
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【SS】二十年間の我慢
「誠に残念ですが、ここに搬送された時には、ご主人はくも膜下出血のため、すでにお亡くなりでした。申し訳ありませんが、私たちにできることはありませんでした。おそらくヒートショックが原因だろうと思われます」
「そんな。主人はもう死んでしまったのですか」
悲痛な鳴き声が病室の中で響き渡った。夫の食通一生と妻の潮味は、寝室を別にしている。夫は一階、妻は二階の部屋で毎日休んでいるのだ。夜トイレに起きる回数が多くなった夫に起こされるのが嫌で、随分前から寝室を別々にしていたのだ。ある日、朝になっても起きてこない夫を変におもい、妻の潮味は夫の寝室を覗いてみたがいない。もしかしてと思いトイレを覗いたら前屈みで動かなくなっている夫を見つけたのだった。慌てて、救急車を呼んだ。まるでロダンの考える人のような格好に見えていた。
その後救急車が到着し、一生は救急車に乗せられて病院に向かった。もちろん潮味も救急車に乗り込み病院へと同行した。そして、夫の死を医者から宣告されたのだった。
いつまでも何もしないわけにはいかない。後処理としてまず潮味は、自宅に戻ると保険会社に連絡を入れた。生命保険に入っていたのだ。それも、二十年前から入っている死亡保険である。死亡時の保険金は二億円。現在では生きるための保険が主流となっているので、高額の死亡保険は珍しい。保険会社も幾度となく保険内容の変更のお知らせを送ってはいたが、潮味はその保険をそのまま契約し続けていたのだ。
保険会社は、警察とは別に独自の調査を開始した。もちろん、必要であれば警察に協力をするのだが、事実を集めることに保険会社の担当は動き始めた。今回の調査にあたったのは、真実向素直というまだ二十八歳の独身男性社員だった。素直は消防署へ行き救急隊員へのヒアリングから初めていた。
「すみません。食通さんを搬送された救急隊員の方ですよね。私は保険会社の真実向と申します。少しお話を聞かせてください。食通さんを見られた時に何か感じられたことはありましたか」
「ああ、特に違和感は感じませんでしたね。ただ、ご主人はトイレの中でうずくまるようにして亡くなられていたので、おそらくは部屋の暖かさとトイレの冷蔵庫のような寒さの温度差でショックを起こされたのではないかと思います。一軒家ではありますが、トイレがあまりにも冷えていましたので」
保険会社の真実向は、そのまま保健の受取人である食通潮味さんに会いに行った。比較的元気そうに見える潮味の顔を見て、話をしても大丈夫そうだなと考え、潮味に一生を見つけた時のことを訪ねた。
「大変申し訳ありません。保険の手続き上必要な調査なのでご協力をお願いします」
「はい。わかりました。何でもお聞きください」
「ご主人を発見されてからどのくらい経ってから救急車を呼ばれましたか。大体で結構です」
「あー、朝方、トイレに行った主人が戻らないのでおかしいと思い、トイレに行ってみたんです。扉を開けて見つけた時はびっくりしましたが、様子が変だったのですぐに救急車を手配しました。あんな時は一秒が大切だと思っていましたので」
「素晴らしいですね。それで、救急車はどのくらいで到着しましたか」
「消防署は我が家の近くにありますので、二、三分で到着したと思います」
「そうでしたか。では、その時にはすでにご主人は亡くなられていたということなんですね」
「いまだに信じられませんが、多分そういうことだと思います。かなりの高血圧にもかかわらずグルメの本を出すために毎日のように外食していたのが祟ったんだと思っています。塩分が大好きな人で自宅では、クレイジーソルトをこよなく愛して使っている人でしたから」
真実向は、時折笑みを見せながら話す潮味の言葉の節々に違和感を感じ、警察に向かった。そこで証刑事に捜査の依頼をしたのだった。保険金目当ての殺人容疑に切り替えられ、証は潮味の身辺を洗い直した。聞き込みにより、夫婦仲は相当に冷え切っていたという情報も得た。それならば、夫の死に直面して取り乱さないというのもおかしくはないと感じ始めていた。
一生は職業柄、多くの美味しいものを食べ歩いていた。そんな生活が十年も続くと体は肥満になり、血管は詰まりやすくなっていた。話を聞いた証刑事は、一生と潮味が結婚した二十年前に遡って調査し始めた。どうやら当時、潮味には将来を誓った彼氏がいたようだった。しかし、一生の計略で離され、潮味は病弱の両親を助けるために一生との結婚を決意したということがわかった。結婚してからも一生の遊び癖は収まらず、潮味は陰で涙を流していた。両親の仕事がうまくいかず一生の父親から、かなりの支援をしてもらっていたから、潮味は反抗すらできないで過ごしていたということも分かった。
「奥様は、結婚する時から復讐心を密かに抱いていたのではないだろうか。そして二十年の歳月をかけて愛していない夫を殺害する計画を実施していたのではないだろうか」
証刑事はそんなことを考えてみたが、何の証拠も出てこない。今回の件は死因に不審な点はないということで、警察内ではヒートショックによる単なる事故死ということで片付けられてしまった。保険会社の真実向と話をした証刑事はすっきりしなかったが、この件の追及は諦めざるを得なくなっていた。証刑事は真実向が救急隊員から聞いた「トイレはあまりにも冷えていた」という報告が気になって仕方がなかったのだが。
そんな時、保健請求など全ての手続きを終えた潮味は、鼻歌を歌いながら一階のトイレの外で何かを片付けていた。それはドライアイス製造機だった。どうやら外の物置に片付けてしまうようだ。残念ながら、その光景を誰も見ているものはいなかった。一通り片付けを終えると、家の中に入り自分の寝室がある二階にワインを持って行き、暖房の効いた部屋で大好きなクラシックを聴きながらワインを楽しんでいた。
了
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