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【SS】 走馬灯 #シロクマ文芸部(最後の日)

 最後の日はあまりにも突然だった。こんな年の瀬に別れが来るなんて、思ってもいなかったし、新しい年を一緒に迎えられることを信じて疑わなかったよ。二人の思い出が走馬灯のように思い出されて仕方がない。二人で行った場所、二人で過ごした時間、二人で食べた食事、二人で見た景色、二人で作ったカップ、二人で買ったマンション、二人で飼ったペット、どの思い出も昨日のことのように思い出してしまう。

 だいぶ前だけど二人でキャンプにも行ったね。慣れないテントで過ごした夜も楽しかったなぁ。

 誕生日には近くのイタリアンでランチも食べたよね。窓の外のヨットハーバーの波の光が眩しかったっけ。

 陶器づくり体験にも行って、お揃いのコーヒーカップも作ったね。色付けが二人とも薄過ぎて、ぼーっとした絵になってしまったけどいい思い出だった。

 近くにマンションが建設されて、一緒にモデルルームを見に行って二人とも気に入って購入、手続きが大変だったけど頑張った甲斐があって新築の綺麗なマンションでの生活が始まったよね。

 生活が落ち着いた頃、たまたま見に行ったペットショップで見た子犬が可愛くて、何回か通った挙句、結局飼ってしまったね。新しい家族が増えた瞬間を今でも覚えているよ。でも今となっては、全ては、暗闇の中。取り返しもつかないなぁ。

 途方に暮れるばかりの僕は、現実から目を逸らしたくて窓の外を眺めた。どこまでも続く冬の凛とした青空が広がっている。しばし時間を忘れる。寒さすら感じない。でも、それも束の間、現実に引き戻される。暗闇になってしまった思い出。どうしたらいいのだろう。突然失うことになるなんて考えてもいなかったから、心の準備などできているわけもない。誰も助けてもくれないし。これからどうすればいいのかわからなくなってしまった。

 そんな時、僕はハッと気づいたんだ。そうか、全てのバックアップはクラウドに切り替えていたんだ。大切な思い出は全てクラウドの中に保存されているじゃないか。なんとなく諦めがついた。もちろん、記憶に無いデータもあるかもしれないけど、記憶に無いくらいだから、断捨離だと思って諦めればいいことだ。

 僕は、バックアップ用として使っていた外付けハードディスクに別れを告げそのことを妻にも話した。

「おーい。バックアップに使っていたハードディスクが壊れちゃったみたいだよ」

「あら、大変じゃない。大切なデータはどうなってしまうの」

「それがさ、クラウドにもバックアップしてたから大丈夫だってわかったんだよ」

「なーんだ。じゃあ、大丈夫なのね、二人の思い出の写真も。さぁ、ご飯にしますよ、今日は寒いからしゃぶしゃぶよ」

 いつもの平和な時間が戻ってきた。これまでのさりげないバックアップに感謝をしてハードディスクを廃棄することにしよう。


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