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【SS】僕は待ち続けた (1988字)  #シロクマ文芸部

 待ち合わせをしている人たちがたくさん集まっている。場所が移動しても待ち合わせのメッカとなっている渋谷ハチ公前、地下にも関わらず新宿副都心に向かう入り口にある新宿の目、改札の内側にある東京駅地下の銀の鈴などを筆頭に複雑で人が多すぎるくらい溢れている東京には待ち合わせスポットが多い。

 そういう僕も今、新宿の目のそばの交番の近くで一人の女性を待っている。夕方に会おうねという曖昧な時間の待ち合わせ。僕の感覚では夕方は太陽が沈む時間の一時間前だ。この季節なら午後四時過ぎあたりからが僕にとっての夕方。気象庁の定義だと午後三時あたりから午後六時で季節によって変動しないらしい。僕の感覚とはちょっとズレてるかな。まぁ、人それぞれ。気にしない人だっているはずだから。

 もうすぐ日の入りの時間。時計は午後五時を回ろうとしている。周りを見ると、待ち合わせている多くの人は片手をあげたり両手を振ったりして、友達や恋人たちとその場から離れていく。そしてまた新しく待ち合わせのためにやってくる人がいる。新宿の目の周りはスマホをいじりながら一人で立っている人ばかりだ。その前を忙しそうに通り過ぎていくサラリーマンの姿は対象的だ。

 もう一時間以上交番の近くで待っている。けれども僕と待ち合わせている女性はまだ姿を現してくれない。この季節は日が沈むと同時に冷え込んでくる。僕はネックウォーマーの端っこをつまんで鼻の上までずり上げた。気分的に暖かくなった。でも手袋を忘れたのでスマホを持つ手は冷たい。

 時折、交番のお巡りさんと目が合ってしまう。僕は気まずいのですぐに視線を外すけどお巡りさんはしばらく見つめたまま。もしかすると、不審人物ではないかと疑っているのかもしれない。僕はスマホに視線を落とす。特に何かを見ているわけでもないけど、他に視線を持っていく場所がなかった。

 完全に日が落ちてしまった。道路の街灯が点灯しお店も照明で明るくなった。太陽が上にある時よりも明るくなっているようにも感じる。人々は忙しく行き交っている。まるで同じところを回遊しているのではないかと思うくらい、人の列は減らない。それに待ち合わせの人も減らない。

 僕が立っている柱にも待ち合わせで立っている人がいる。丸い柱を囲むように背中を柱に持たれかけ何人かが立っているけど、すでに全員が入れ替わって違う人になっている。いや、すでに何回も入れ替わっている、きっと。交番の真正面に立っている僕だけが取り残されたように女性の到着を待ち侘びているみたいだ。

 交番には時々見知らぬ人が吸い込まれている。どうやら目的への道を聞くために入っているようだ。大きなバッグを抱えている旅行者のような人や外国人もいる。お巡りさんはその度に親切に説明しているように見える。

 僕が待っている女性はまだ現れない。彼女にとって夕方とは何時くらいなんだろうか。考えたこともなかった。でもまだここに来ないということはきっと彼女にとって夕方というのはもう少し後なのかもしれない。僕は時計を見た。午後六時半になろうとしていた。

 会社が終わり飲みにいくサラリーマンの集団が増えてきた。数人で話しながら歩いている。「今日は東口の居酒屋でいいかな」とか「電車で移動するのは面倒だし、南口にでも行くか」などと比較的若いサラリーマンの集団の話が聞こえてきた。もしかすると同期入社なのかもしれない。

 気がつくと待ち合わせらしい人影が減っている。そうなるとずっと同じところに立っている僕はまるで不審者だ。交番のお巡りさんが気にし始めているようにも感じた。でもここで場所を変えると余計に不審に思われそうだ。仕方なくスマホの何も変わらない画面に視線を落としたまま立っていた。だいぶ冷え始めてきた。ダウンを着てきて良かったと思った。

 足元には誰かがおいた小さな花束があった。ずっと立っていたのに全く気づかなかった。黄色く小さな花が悲しそうだった。時計を確認するとすでに午後八時を回っていた。流石に待ち合わせの人は少なくなり、急ぎ足で駅の中に吸い込まれていく人が増えた。タクシー乗り場にも列ができ始めている。

 一人のおばさんが近づいて来て手を合わせた。そして、足元にある小さな花束を新しい花束と交換した。僕は邪魔になるだろうなと思い「すみません、僕邪魔ですよね」と声をかけた。おばさんは僕を見上げてにっこりと笑顔を作り優しい声で話しかけてくれた。

「いいのよ。この花はあなたのために毎日持ってきてるんだから。もう、この場所で待ってくれなくてもいいわ。私、こんなに歳をとっておばさんになってしまったんだもの。そろそろ、さようならしましょう」

 僕の頬をつたって一雫の涙が小さな花束に落ちた。そして去っていくおばさんに対し、交番のお巡りさんはいつものように優しい視線を投げかけ軽いお辞儀をしていた。



あとがき

 待ち合わせで思い浮かんだのが、ハチ公前(移転前)、新宿の目、銀の鈴でした。その中でも西新宿は会社があった場所でもあり、毎日のように通っていた場所だったので、思い出しながら綴ってみました。ちなみに文字数は1988字、私が新宿にあった会社に入社したのは1988年。おお、でも単なる偶然です(笑

 表紙の画像はCHATGPTに作ってもらいました(ショートショート内容と誤差があるのはご愛嬌)


下記企画への応募作品です。

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