見出し画像

空に解き放った心 - 第四話 失踪と再会

↓ 以下のマガジンにて、有料公開しています。

kindleでも販売中



失踪と再会

 このまま順調にゴールインできるかと思っていた矢先に、社長からの呼び出しがあり、クラウドセンターの契約のために一年間の極秘渡米となってしまったのだった。社内的には失踪のように処理されるだろうから、しおりは騙されたと思うだろうなと翔は思った。しかし、マンションを寮扱いにして会社負担にしていたことが保険がわりになるだろうとも考えていた。計算高いしおりのことだから、会社を辞めるというリスクを選択することはないだろうと思っていたのである。心配だったのは、プロポーズしたことも嘘だったと思われることだった。しかし、おそらくしおりはそう考えてしまうだろうと少しは覚悟していた。そして僅かな望みとして、翔が帰国するまで誰とも付き合うことなく仕事に没頭していてくれることだけを願って出国したのだった。残念ながら、その願いは裏切られ、新たな巻き返し策を考えざるを得なくなった。絶対にしおりと別れたくはなかったのだ。

 翔としては、しおりに会う前にしおりが今付き合っている男と綺麗に縁を切ってくれることが望ましかった。翔はしおりの立場になって考えた。もし、自分がしおりだったら何を言われたらもう一度自分のところに戻ってくるだろうか。翔は、一番やるべきでないパターンは、言い訳だけを伝えることだと結論づけた。会社の極秘プロジェクトで海外を回っていたことは伝えるとして、その後はしおりが最も反応する内容にしないといけない。そしてその内容は、結婚と共同経営だということを確信した。しおりは何よりも自分自身の生活基盤を気にするタイプだし、そのためのパートナーとしての存在を再認識させることができればきっと一年前に戻れると思った。そして深呼吸した後、しおりに電話をかけた。この作戦は成功だった。電話で重要なことを伝え、しおりの心を戻し、そしてマンションに向かう。マンションに到着するのを夕方以降になるように調整する。すぐにでも飛んでいきたい気持ちを抑えて計画した。その間に、しおりは現在の身辺整理をするはずだ。PMとして経営者としてリスクを回避する行動を取るだろう。そう考えると一方的に別れる連絡を何らかの形で実施するはずだと翔は考えていた。弱みを持ったまま関係の修復はないと考えるのがしおりの思考回路だと確信していたのである。果たしてこの読みは当たった。翔はここまでしおりの心を読めるようになっていたのである。しかし、一方で少年のように心弾ませている自分を翔は認識していた。「やっぱり、ビジネスの相手として重要だけど、それ以上に好きになってしまったんだな。どんなことがあっても別れないようにしよう」と、心の中で自分を見つめていた。純粋な心が現れた瞬間だった。

 しおりも翔が嫌いになったわけではなく、裏切られてしまったと思っていたので、そうではなかったということを知り、一気に心は戻っていった。結果的には翔が帰ってきたことを喜ぶ結果となり翔を再び受け入れた。というより、そうなることを心のどこかで望んでいたに違いない。もちろん、付き合っていた彼とは別れてくれていた。正確には一方的に別れたようではあるが。翔は、その彼のことを詮索することもなく渡米前のしおりに戻ったことを素直に喜び、これからの二人の未来を見つめていた。しおりのマンションに到着し、一年の空白がなかったかのように久しぶりに一つのベッドで一夜を過ごし最高の朝を迎えることになった。この上ない幸せな時間を二人は過ごせたのである。

 翔としおりが出会ってからすでに二年になろうとしていた。寒い一月に出会い、その年の秋には渡米してしまったので二人で年末を迎えることはなかった。そして今二回目の年末が目前に迫っている。翔の父親は翔がいない間に、豊洲にマンションを準備していてくれた。しおりが今住んでいるお台場から豊洲のマンションに早々に引っ越しをして新しい生活を始める拠点にできた。父親も、いつまでも親と同居では息が詰まるだろうと配慮して事前に準備しておいてくれたのだった。親心なのか親バカなのかはわからないが、二人にとってはすぐに引っ越しが可能となり、ありがたい対応だった。

 二人で過ごすクリスマスはじめてということになる。しかも再会したあとなので今年のクリスマスは格別なものになるだろう。六本木のイルミネーションの中を二人で歩いて食事をした後、同じマンションに帰るという幸せな時間を想像している。そして来年には、新しい部門として開発専門部署を立ち上げ、水島コンサルティング・サービスをさらに成長させる第一歩を踏み出すことができるようになるだろう。翔は、明るい未来を想像してちょっとにやけ顔になった。考えてみると寄り道はあったが、遠回りをしたせいでしおりとの生活は前倒しできたのかもしれない。翔が描いていた計画の第一歩が現実のものとなった瞬間だった。大切な女性とも一緒になれる。これからは予期しない問題も発生はするだろうが、二人で取り組めば何でも解決できるような気がしていた。父親への紹介の日程も気にしながらビジネス計画を詳細化していかなければならない。全ての困難が楽しくさえ感じられていた。

 翔は、世界中を駆け回っていた一年間の空白で起きたしおりに関する嫌な出来事を妬む自分の心を空に解き放ってさよならした。そして、これからもしおりのことを一途に思うことを誓ったのである。


エピローグヘ

☆ ☆ ☆
いつも読んでいただきありがとうございます。
「てりは」のnoteへ初めての方は、以下もどうぞ。

#小説 #恋愛小説 #創作 #中編小説 #IT業界

ここから先は

0字
愛を得るための策略や心の動きを綴りました。あなたの経験と重ねてお楽しみください。

仕事で活躍する2組の男女の恋愛を描きました。それぞれが相手を得るために策略を実施します。それを登場人物4人の目線で異なる短編として書き上げ…

Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

よろしければチップによるご支援をお願いします。皆さんに提供できるものは「経験」と「創造」のみですが、小説やエッセイにしてあなたにお届けしたいと思っています。いただいたチップは創作活動費用として使わせていただきます。