9月9日 救急の日 【SS】愛した人(搬送)
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 救急の日
厚生省(現:厚生労働省)と消防庁が1982年(昭和57年)に制定。
日付は「きゅう(9)きゅう(9)」(救急)と読む語呂合わせから。救急業務や救急医療について一般の人々の正しい理解と認識を深め、救急医療関係者の意識高揚を図ることが目的。この日を含む一週間を「救急医療週間」として、救急車の正しい利用方法や応急手当の知識などをPRしている。
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昨日のお話からの続きです。
【SS】愛した人(搬送)
けたたましい音と共に、パトカーと救急車がやって来たのは、翔太がトラックに撥ねられてから五分後だった。完全に車線規制が実施され、呆然としているトラックの運転手を安全な場所に警官が誘導し、野次馬を下がらせていた。トラックの後ろにはピクリともしない翔太が真っ赤な血溜まりの中にうつ伏せになったままだった。警官は救急車を側につけ、ブルーシートで翔太の周りを囲って見えないようにしていた。救急隊員は手際よく動かない翔太をストレッチャーに乗せ、救急車の中に運んだ。警察官が愛子のところにやって来た。
「お嬢さん、お連れの方ですよね。目の前で酷い光景に出会ったと思いますが、救急車に乗って同行されますか? そうであれば、病院でお話をお伺いすることにしますが」
「あの、翔太は、大杉翔太は生きているんでしょうか」
「それは、私どもでは何とも言えません。医者が判断をすることですから」
「はぁ。でしたら、私も病院について行きます」
ガックリと肩を落とした愛子は、警察官に支えられるようにして救急車に乗り込んだ。だが、血まみれで無惨な姿になってしまった翔太を直視することはできず、終始下を向いていた。何やら救急隊員が忙しなく対応をしているが、全く耳に入って来ていない。ほどなくして、病院に着き手術室に運ばれていったが、ものの五分としないうちに、手術室から先生が現れた。
「誠に残念ですが、即死の状態だったようです。我々にできることは何ひとつありませんでした。ご冥福をお祈りします」
「そ、そんな。私たち結婚したばっかりだったんです。どうにもならないんですか」
側にいた、警察官が思い余って遮ってくれた。
「お嬢さん、落ち着いてください。ご両親とか連絡される方はいらっしゃいますか。悲しいでしょうが、今はやるべきことをやりましょう」
翔太が轢かれた事故現場では、トラックの運転手に事情聴取が始まっていた。
「事故が起きた時の状況を説明してください」
「はい。いきなり車道の方に人が倒れ込んできたので、びっくりしました。ライトに照らされて人だと確認できた時にはもう、ブレーキも間に合いませんでした。まさか、人が車の前にいきなり倒れ込んでくるなんて思ってませんでしたから」
「ほう、男性が車道に倒れ込んできたということですね。隣に女性がいたはずですが気が付きましたか」
「えー、誰か側にいたような気がします。あとで車を降りた時、うずくまっている女性がいましたので、連れの女性かなと思いましたが、驚きでそれどころではありませんでした」
「女性が、あなたの方に駆け寄ってくることはなかったのですね」
「女性ですか? ええ、うずくまったままでした。怖かったんじゃないでしょうか」
「ところで、スピードは出過ぎていませんでしたか」
「うっ、この道路はみんなスピードを出して通過するので、それに合わせていました」
「なるほど、ということは七十キロ以上は出ていたんですかね」
「・・・」
「後ほど、ドライブレコーダーのデータを回収させていただきますね」
このあと運転手は、スピード違反の疑いと、前方不注意、業務上過失致死傷の疑いで逮捕された。最もスピード違反については立証が困難であるため、注意にとどまるだろう。
その頃病院では、少し落ち着いた愛子が警察の質問を受けていた。
「お嬢さん、事故に遭われた時の状況を説明してもらえますか。辛いでしょうがお願いします」
「はい。私たちは結婚したので、そのお祝いの食事会を友達を入れて三人でしたんです。その帰り道のことでした。私と翔太は並んで歩いていたのですが、飲みすぎていたのか、翔太がよろけたんです。それも車道側の方に。慌てて引っ張ろうと思い手を差し出したのですが、翔太は縁石につまづいたのか私の手に捕まることなく、車道側に転げていったんです。そしたら、そしたら、そこにトラックが」
「なるほど。状況はよくわかりました。ところで、ご主人はどのくらいのお酒を飲まれたかわかりますか」
「ええ、友達の男性と二人で、ワインを一本空けた後、グラスワインを数杯おかわりしていたと思います」
「お酒は強い方だったのでしょうか」
「そんなに酒豪という訳ではありませんでした。普通だと思います」
「で、そのお友達のお名前も教えていただけますか」
「はい。一之関芳雄という主人とは同級生の方です。店を出た後すぐ別れました」
「ありがとうございます。また、何かあればご協力をお願いいたします。それで、今後のことに関しましては、色々と確認をしてから、別の担当から連絡が入ると思いますので、今日のところはお引き取りください」
そこに、証刑事がやって来た。事情聴取した警察官と状況確認した後、愛子のところにやって来た。ほっとした顔の愛子に再び緊張が走った。
「この度は、ご愁傷様です。今、警察官から事情を伺いました。今回は不慮の事故ということになりそうですが、気をしっかり持って対応してくださいね。辛いとは思いますが」
そこに、連絡を受けた翔太の両親がやって来た。そして、いきなり愛子のところに駆け寄り、罵るような言葉をかけはじめた。
「あなた、あの子に一体何をしたの。酔って車に撥ねられたって聞いたけど、そんなに酔ったことはこれまで一度だってなかったわよ。あなたが何かしたんでしょ」
「おい、お前。止めろ。取り乱すんじゃない」一緒に来た父親が諌めていた。
「だって、悔しいじゃないのよ。籍を入れたばっかりだっていうのに」
「お義父さん、お義母さん申し訳ありません。私、一緒にいたのに何もできませんでした。あっという間の出来事で」
「あのー、すみません。私、刑事の証と申します。少しだけお話よろしいでしょうか」
「えっ、刑事さんなんですか。じゃあ、やっぱり翔太は誰かに殺されたんですか」
「いえ、そうではありません。色々と確認をしているだけです。一つだけ確認させてください。先ほどお義母様は息子さんがそんなに酔ったことはないとおっしゃっていましたが、息子さんはお酒が強かったのですか」
「ええ、お酒は大好きでしたから。毎日飲むのはやめなさいっていつも言っていたくらいです。ワイン程度なら何本か飲んでもケロッとしてましたわ」
「そうだったんですか。わかりました。貴重な情報をありがとうございます」
後ろから愛子が恨めしそうに義母と刑事のやりとりを見つめていた。
明日に続く
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