空に解き放った心 - 第四話 PM人財の確保
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PM人財の確保
水島コンサルティング・サービスという会社が六本木にある。社長は水島昇、翔の父親だ。一代で築いた会社であり、すでに日本国内に、札幌、仙台、東京、横浜、静岡、名古屋、大阪、神戸、広島、福岡、那覇と十一ヶ所の拠点を展開している国内有数のコンサルティング会社として成長している。コンサルティング領域のみであり、そこから産み出されるシステム開発の仕事は提携している開発会社がクライアントと直接契約して実施がしているのが現状だ。クラウド時代に本格的に突入した現代において、コンピュータを自ら保守するリスクを取る必要がなくなったので、なんとかしてシステム開発分野に進出して世界規模での開発体制を作りたいと翔は考え、父親である社長と何度も極秘の会議を重ねていた。札幌、仙台、広島、那覇の拠点は、海外に先駆けて国内での開発拠点を考えて決めた拠点だった。こんな話を進める時は親子の信頼関係は秘密を守るために好都合だった。何事にも挑戦することが好きな父親と計画したことに対し用意周到になってから本格的に動き出す翔とのコンビネーションも失敗しないためにお互いを牽制できていた。父親は、世界中で開発するための基盤であるクラウドセンターをどこと契約すべきかということを日々悩み資料を集めていた。一方、翔はシステム開発部門を立ち上げるためには、プロジェクト管理に長けた人材で経営の知識を持っている信頼できるパートナーが必要だと考えていた。そして、自分と父親の関係同様に、家族になることが好ましいとも思っていた。そうすると対照は女性ということになる。実現できれば経営層のダイバーシティ対策にもなり社会的に宣伝効果も高くなる。そんなことを考えながら、ことあるごとに、翔は女性の優秀なPMで経営的センスのある女性を探し始めていた。何人か候補には上がるものの、既婚者であったり、経験が乏しかったりして、翔がアプローチしたいと思う人材には巡り合っていなかった。
それでも翔は人脈を使って可能性のある女性がいないかを探し続けていた。ある時、独立系の小さな開発会社のPMが女性でかなり優秀だという情報が入ってきた。これまでは大きな会社に勤務している女性を探していたので、対象から外れていたようだった。なんでも、MBAも取得していながら、プロジェクト管理を極めるためにPMを担当しているらしいのだ。もちろん語学も堪能だということなので条件としてはパーフェクトだった。後は実際に会って見るしかないと翔は考えた。この情報は、翔の大学時代の同級生の一也からの情報だった。そんなに優秀なのになぜ小さな開発会社に入っているのかという疑問は脳裏をかすめたが、友達の言葉を信じてみようという気になっていた。翔の同級生は、現在製造メーカーに勤務しておりユーザーとしてその開発会社にシステム開発を依頼したようだった。規模的には五億円程度のプロジェクトだったらしく、金額的にはびっくりするほど大きくはないが、プロジェクト期間が半年だったということを聞いて驚いた。少なくとも三十人以上のメンバーと共に仕事をしていたと想定されるので、なかなかのやり手だということは直感した。それに、半年では無理ですと数社に断られていた案件だったものを、いとも簡単に請け負ったらしいのだ。その時に担当したPMが半端なく優秀だったということらしい。そして、現在は前回の続きのプロジェクトが立ち上がってその女性が再度PMとして担当しているということで、翔はすぐに一也に連絡して紹介してもらう場のセッティングを依頼した。
一週間後、一也と翔と女性PMは六本木瀬里奈で待ち合わせた。雪が舞ってもおかしくないくらい冷たい空気を感じる一月のことだった。もちろん、瀬里奈は翔が予約しておいたのである。個室ではないがそれほどうるさくはなくいい感じでくつろげると思ったのだ。それに翔の会社からも近かった。翔は、この時初めて一也一押しの女性PMと対面したのだ。
「初めまして、水島翔と申します。コンサルティング会社に勤務しているものです。今日は寒い中ご足労いただき、ありがとうございます」
「初めてお目にかかります。立神しおりでございます。ただいま、鍵山様の会社の開発プロジェクトを担当させていただいています。よろしくお願いいたします」
「さぁ、まずは初対面の挨拶は済んだことだし、少し食べようか。翔と会うのも久しぶりだしな」
「あぁ、そうだな一也と会うのは久しぶりだな。少なくとも去年は会ってないような気がする。しかし活躍しているようで何よりだよ。ひどい学生だったからな」
「バカ言うなよ。俺は真面目だったぞ。たまに授業をサボる以外はな。しおりさんは、大学は海外だったのかな」
「鍵山様、申し訳ありませんが、この場の目的がまだ理解できていないのですが」
「あ、申し訳ない。急遽誘っただけでしたね。実は、翔と僕は大学の同級生で、、、」
「あ、それは流れで理解しました。目的を先に伺ってもいいですか」
「あぁ、失礼しました。じゃ、翔、お前が説明しろよ」
「了解。ではあまり遠回しに行っても仕方ないので、単刀直入に申しあげます。実は優秀なPMの方をずっと探し続けているのです。我々のコンサルティング会社と提携してコンサルの後の開発を任せられる人を見つけたいというのが目的です。それで、一也からあなたのことを伺ってぜひお会いしたいとお願いしたのです」
「なるほどそういうことだったのですね。しかし、私はそんなに優秀でもなければ大会社に勤務しているわけでもないので、ご希望には程遠いかと思います。小さな開発会社なので人数も限られており、大規模プロジェクトに必要な人員も集めることはできないと思います。こんな高級な場所でご馳走していただく前に申し上げておきます」
「流石ですね。私が一言説明しただけでビジネスに必要な要素を考えて言葉を選ばれている。やはりあなたはすごいPMです。間違いありません。ちなみに、あなたにとってプロジェクト管理は何が魅力ですか」
「はい、無理な状況下にあるプロジェクトをどうすればできるかということを考えて自分なりの道を作りメンバーと共に走り抜けて、結果お客さまの笑顔が見られるのが好きなのです。誰がやっても問題なくできるようなプロジェクトは他社さんにお任せしていただいても結果が変わらないので、私どものような小さな開発会社では価格的に対抗できません。どちらかと言えば他社さんがリスクが高く断られるような案件を大切にして実施しているのです。そのことはプロジェクメンバー全員が同じ気持ちにならないと成し遂げることはできません。そんな醍醐味が好きなのです」
「確かに、前回お願いしたプロジェクトは他社には断られた案件でしたね。あまりにも納期が短すぎるということで。翔、この人はやはりすごいよ」
「立神さん、苗字は呼びづらいのでしおりさんとお呼びしてもいいでしょうか」
「どうぞ、よく言われるんですよね。馬の立髪と発音が一緒なので呼ばれててもちょっと恥ずかしい時があります。しおりで構いません。海外では常にそう呼ばれていたので」
「では改めて、しおりさん、やはりあなたは頭の回転が尋常でないくらい早い人です。是非我々の会社との提携を検討していただけませんか。失礼かもしれませんが、現在の会社に入社されたきっかけを教えていただくことはできますか」
「はい、構いませんよ。実は、父の後輩が立ち上げた会社なのです。私は今の会社でPMを育て上げれば役目が終了なのです。父に言われて入社して立ち上がり支援をしているという感じです」
「それは、いい情報です。今しおりさんが勤めている会社で後任のPMさんができたら、しおりさんはフリーで活躍できそうですね。その時は現在の会社と弊社が提携してお互いが支え合うことも考えられそうです」
「なるほど、そうですね。そうであれば今の会社ももう少し安定した事業になれるかもしれませんし、私としても父としても喜ばしいことですね」
「ですよね。では、今後のお互いの会社の発展のための今日の食事会に乾杯しましょう」
「カンパーイ」
こうして、翔としおりは出会った。もちろん、この食事会をきっかけとしてプロジェクトの合間の可能な時間を利用して翔としおりは会うようになった。お互いのビジネスに対する考え方に共感したということと、お互いにないものを持っているので相乗効果が期待できると二人とも考えたのだった。もちろん、一也の役割は終わったのだが、一也と翔は継続して情報交換するようになった。翔は、後々の会社のことを考え一也とのパイプは維持すべきと判断していたのだ。抜かりのない性格だった。
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【小説】空に解き放った心
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