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【SS】 ただ一度だけ会いたくて (654字)  #シロクマ文芸部

 月の花が咲き乱れると語り継がれる美しい渓谷。たった一晩限りの可憐な花の宴。誰しもがその光景を一度は夢見たが、誰も見たものはいなかった。時と共にその渓谷のことは忘れ去られ、過去の人が描いた夢に過ぎないのだろうと語られるようになっていった。


 活発で明るかった一人の女子高生が病魔に侵され、病院のベッドに横たわっていた。隣には愛してくれる母親の姿がある。ベッドの上で彼女は、一雫の涙と共にゆっくりと、そして静かに目を開けた。すでに命の炎が尽きることを察しているかのように。

「ママ、私、そろそろ行かないとダメみたい…」
「カレン、カレン、頑張って。ママより先に逝っちゃいやよ。あなたにも好きな人ができたんでしょ。頑張って生きてないと会えないじゃない」
「うん、そうだね。でも私…月の花になるの」
 そう言ってカレンは静かに目を閉じた。


 再びカレンは目を開けた。そこは病院のベッドではなく、月の花の蕾だらけの渓谷だった。自分の姿も蕾の一つになっていることに気づくと、月の花の妖精が静かに近づいて声をかけた。

「いらっしゃい、カレン。今年はあなたを招待したのよ。あなたの強い望みを感じたから、私たちができることで一つだけ叶えてあげるわ。さぁ、行ってらっしゃい」

 その日の夜は満月。星たちも光り輝いている。月に照らされた庭で、懸命に素振りをしている球児がいる。カレンの心の中にいた昌也だ。懸命に素振りをする昌也の全身から汗がほとばしり湯気が立ち上っている。

 その姿をそっと見つめるかのように庭の片隅に月下美人の可憐な花が開いた。


あとがき

 月の花を調べてみました。すると月下美人という花が出てきました。花言葉はなんだろうとみてみると「ただ一度だけ会いたくて」。なんとも切ない響き。イメージしたのは最後に一眼だけ会いたいシーンでした。今回は短めのお話でまとめてみました。確定申告をしなければならないので(笑

 表紙の画像はCHATGPTに作ってもらいました(便利になりましたよね)


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