8月19日 バイクの日 【SS】風を切る
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- バイクの日
総務庁交通対策本部が1989年(平成元年)に制定。
日付は「バ(8)イ(1)ク(9)」と読む語呂合わせから。バイクの安全を考え、バイクによる交通事故の増加を防止するための日。特に、若者に対するバイクの安全運転教育を積極的に展開する日とされている。
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【SS】風を切る
初めてバイクに跨った日を僕は覚えている。まだ小学生の時だ。近所のお兄さんがバイクを購入したのだ。今思えば、なんとも無骨なデザインで全く格好良くないバイクだったが、当時の僕にとっては、テレビの中のヒーローが乗っているバイクに見えた。お兄さんが跨った姿は正にヒーローそのもの。僕は一瞬で憧れてしまった。そして思った。「大きくなったらバイクに乗りたい」と。もっともその前に自転車に乗れるようになれとお兄さんに言われ、足が届かない大人用の自転車を借りて練習に励んだのを覚えている。
幼い時は、近所の年上の人の行動に憧れてしまうものかもしれない。なぜかとっても格好よく見えて、なんでも真似をしたくなっていた頃だったのかもしれない。そんなお兄さんが、声をかけてくれた。
「大介。後ろに乗ってみるか」
「えっ、いいの。乗りたい、乗りたい」
「よし、じゃあ、ちゃんとヘルメットを被って、しっかりとお兄ちゃんに掴まってるんだぞ」
「うん、わかった」
僕は嬉しさだけが先行してはしゃいでいた。お兄さんのバイクの後ろに乗り、思っていたよりも高い位置に驚きながらも、お兄さんに必死でしがみつき、コーナーで右に左にバイクが倒されるたびに恐怖も味わった。ひとしきり走った後、お兄さんはバイクを止めてアイスを買ってくれた。
「どうだ、大介。バイクは楽しいだろ、それともちょっと怖かったかな」
「お兄ちゃん、バイクって怖いけど楽しい。また乗りたい」
「そうか、じゃあ、また乗せてやるよ。もう少しあったかくなったら海まで行ってみるか」
「うん、行きたい、行きたい。約束だね」
そんな会話をしていたのは、小学校に上がったばかりの頃だった。近所のお兄さんの家には時々遊びに行っていたのだが、学校で友達と遊ぶのが楽しくなったこともあり、あんまりお兄さんの家に行かなくなっていた。そんなある日、学校から帰ってきたら、両親が黒い服を着ていたので驚いて訪ねた。
「お父さん、お母さん、どうしたの。真っ黒い服着て」
「大介。あのね。大介とよく遊んでくれてたお兄さんね。死んじゃったの。だからこれからお兄ちゃんの家に行ってお線香をあげにいくんだよ。大介も一緒に行こうね」
僕は両親とともに、近所のお兄さんのお葬式に行った。初めてのお葬式だった。そこにはみんな黒い服を着た大人がたくさん集まっていた。どうやらお兄さんのことを話しているようだった。
「徹也もバカだったよなぁ。バイクで事故って死ぬなんて」
「なんでも小さい子が飛び出してきたのを避けようとして正面から来たトラックに衝突したんだって。即死だったらしいよ」
「バイクになんて乗るからそんな目にあったんじゃないか」
「大して運転も上手くなかったのかもなぁ」
「全くだ。あんな危ない物に乗ってるからこんな事になったんだろうな」
何も知らない大人たちは勝手に話を盛り上げていた。僕はなんだか腹立たしくなり、泣いて母のところに戻った。
「お兄ちゃんね。運転上手だったよ。僕、後ろに乗せてもらったもん。また乗せてくれるって約束したんだもん。全然危なくなんてなかったよ」
どうやら、僕の声が聞こえたらしく、盛り上がっていた大人たちは一様に口を閉ざした。大人達が、なんとも罰が悪そうな顔になっていたのを未だに覚えている。
僕は大学生になり、二年間のバイトで貯めたお金を持って教習所に直行した。大型二輪の免許を取るためだ。車の免許の前にどうしてもバイクの免許が欲しかった。そして、幼い頃遊んでバイクの後ろに乗せてくれたお兄さんの思い出とともに海に行きたかった。僕は、苦労しながらも免許を取得し、中古のバイクを買った。クラシックスタイルのバイクだ。何となく昔のバイクの方がバイクらしくて僕は好きだったから。
湘南にあるバイク屋さんで購入した中古バイクで、そのまま湘南バイパスを通り、夕焼けに照らされた海へと風を切って走った。何となくお兄ちゃんが空の上から「ありがとう」と言っているような気がした。思わず夕焼けの空を見上げて呟いた。
「やっと僕もバイクに乗れるようになりました。お兄ちゃんが約束を守ってくれなかったから、今日は僕がお兄ちゃんを連れてきましたよ、海に」
二年分のバイト代を全て注ぎ込んで取得したバイクの免許と中古のバイクを彼女に見せた。幼い頃のお兄さんとの思い出も彼女とは共有していたから、とても喜んでくれた。
「良かったわね。念願の免許とバイク。それに、小さい頃遊んでくれたお兄ちゃんにも報告ができて。でも、これからは必ず私を後ろに乗せてね。そして安全運転でね」
「うん、わかってる。これから後ろのシートは静香の指定席だね」
風を切って走る爽快感は乗った人でなければ分からないだろう。決して危ない乗り物ではないし、とっても便利な乗り物だと思っている。まぁ、雨の日と雪が降るような寒い冬は避けた方が良いかもしれないけれど。僕のバイク人生は始まったばかりだ。お兄ちゃんの分までバイクを楽しもうと思っている。静香と共に。
了
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