#03│桃太郎「鬼が自分の9倍強いうえに9999匹いるんですが」
「待ってくれ。敵じゃない」
両手を挙げて、敵意がないのを示す。
「ニンゲン、ダナ」
不明瞭な声だった。猿が無理矢理、人間の声を出しているという感じだ。
「何カ用カ?」
槍を突きつけたまま、腰についた刀を見ながら聞いてきた。しまった、刀は置いてくるべきだったか。
猿たちの後ろには、柵で仕切られた集落らしきものが見える。この一帯は木々が伐採され、土壌も整えられていた。
猿の集落に違いないだろう。この二匹は、門番なのかもしれない。
「鬼ヶ島に行く。鬼を倒すのに、戦力がほしい。仲間になってくれないか」
できるだけ端的に言った。
「帰レ。協力スル義理ハナイ」
「帰レ。猿タチハ、ニンゲンガキライダ」
即答で拒否、か。でも、ここで引くわけにいかない。
「まぁ、そう言わないでくれ。これをあげるから」
腰につけた巾着袋に手を突っ込む。形が崩れないよう気を付けながら、希火団子を二つ取り出し、猿たちに差し出した。
「クセェ!!」
「ハヤクシマエ!!」
「失礼な!おいしいんだぞ!」
なんなんだ?この団子は別に悪臭なんてしないぞ。鼻が利く楽丸もおいしそうに食べていた。しかし、猿たちがふんぞり帰って嫌がるので希火団子をひっこめた。
そうだよなぁ。団子だけで仲間になってくれるわけないか。昔話に出てくる猿がおかしいんだよ。
「どうかしたか?」
入口らしき門がいつの間にか開いていた。門前にいたのは、小さな猿だ。小学一年生くらいの大きさしかない。後ろに、武装した護衛らしき大猿を、五匹ほど連れていた。
「猿飛サマ!」
門番の大猿たちの声が揃った。小さな猿は、足元までやって来て、瞳をじっと見つめてきた。
「槍をおろせ。目を見ればわかる。悪い奴ではない」
大猿たちは、槍をおろした。さらに、小さな猿の後ろに周り、素早くひざまずく。
「ニンゲンガ、トテモ臭イ何カヲ持ッテヤッテ来マシタ」
おい、そこじゃねーよ。鬼のことを話してくれ。
「そうか。ご苦労だったな、白猿、黒猿」
小猿は、目を離さないで言った。
「わたしは、ここの長をしている、猿飛というものだ」
張りのある声だった。
「桃太郎と言います」
「そんな丁寧に話さなくていい。それよりすまなかったな。こいつらには、人間を警戒しろ、と言ってあるんでね」
長だけあって、話が通じるぞ。この猿にお願いしてみよう。
◇◇◇◇◇◇◇◇
猿飛は、話を聞き終えると、そっと目を閉じた。
沈黙が続く。
やはり断られるか。不安になってきたとき、猿飛は言った。
「いいだろう。私が行く」
「ほんとか!?」
見開かれた目には、気迫がこもっているように感じられる。
「オヤブン、行ク必要ナイ!」
「関ワラナイホウガイイ!」
大猿たちは、ひざまずいたまま顔を上げ、必死に訴える。
「一つだけ願いが叶う打出の小槌ってのは、魅力的だ。私はもっとみんなの暮らしを楽にしたい」
仲間のために戦う?
理解はできないが、その考えを否定するつもりもない。
「ありがとう。心強いぜ。ちなみに、そっちの強そうな二匹もついてきてくれるのか?」
「こいつらは駄目だ。門番がいなくなっては困る。山は、どこも外敵が多いから警備を手薄にはできないんだ。それに」
猿飛は自分の頭をチョンチョンと指し、
「鬼との戦いに必要なのは、武力より知力さ」
人間の飯を食ってみたい、という猿飛の希望により、家に帰ることにした。
◇◇◇◇◇◇
家で我々を迎えたのは、意外な者だった。
「お待ちしておりました」
玄関の戸を開けた瞬間、雉が羽をばぁっと広げて言った。
「お主がでかけたあと、入れ違いにやってきたのじゃ。ご丁寧に、手土産を持ってな」
オバアサンが、煎餅をバリバリとかじりながら教えてくれた。
探す手がかりのなかった雉が、まさか自分からやってくるとは。
「わたくしの名は、雉彦。桃太郎さんが、鬼を討伐するという噂を聞いてやってきました。ぜひ、仲間に入れてください」
雉彦は、身体全体を折り曲げてぺこりと一礼した。ずいぶんと単刀直入だ。
「もちろん、仲間になってくれるのはありがたいよ。ただ、どうして協力してくれるんだ?」
聞くと、雉彦は羽をそっと閉じた。
「あいつらには、借りがあるからです」
その目つきにゾっとする。
まるで獲物を狙う猛獣の表情に変わったからだ。
「なんやねん、その“借り”っていうのは。言うてみぃ」
口の周りについた煎餅を、前脚で取りながら楽丸が聞く。
「あなたには、関係ないことです」
「なんやて!?」
楽丸は、歯をむき出しにして威嚇した。
「やめておけ。戦う理由はそれぞれだ」
「あぁん?えらいかっこいいこと言うお猿さんやなぁ。どちらさんや?」
猿飛が前に出て言うと、楽丸は鼻にシワを寄せながら絡んできた。
「挑発するな!協力してくれることになった、猿飛だ。猿たちの長なんだぞ」
紹介すると、雉彦が驚く。
「あなたが猿飛殿ですか!人間から米作りを学び、猿の食料事情に革命を起こしたのはあなたですよね!」
たいしたことではない、と言って謙遜する猿飛に、楽丸がすっごいんやなぁと声をかけた。さきほどまでの怒りは、静まったらしい。
「楽丸はどうして一緒に戦ってくれるんだ?」
猿飛が楽丸に尋ねると、
「ワイは昔っから桃太郎はんと共に行動してきた。育ててくれた恩義のために、力を尽くしたいんや」
と返しながらこっちに近寄ってきた。
なんていいやつなんだ。抱きしめてやろう。
猿飛は、「そうか」とほほえんだ後、
「ところで、この家にはオジイサンがいるはずなんだが?」
と辺りを見回した。
「前は、おった。が、もうとっくに亡くなっとるわい」
オバアサンの答えに猿飛はまた「そうか」と言った。だが、さきほどのほほえみとは見違える暗い表情だった。
とにかく、これでおとぎ話に出てくる仲間はそろった。しかし、鬼に勝てるとはとても思えない。
考え込んでいると、オバアサンが腰を上げた。
「鬼は強いんじゃろう?ワシが今まで以上の刀を作ってやるわい」
(つづく)
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