#11│桃太郎「鬼が自分の9倍強いうえに9999匹いるんですが」
それは、純和風の城だった。
近づくと、その大きさがわかる。石垣だけでもビル三階分はありそうだ。その石垣の上に鎮座する天守は幾層も連なり、雲にも届きそうだ。
そんな城がそびえ立っていた。
「ずいぶん、大きいんやなぁ・・・・・・」
「大きさより、あいつらだ。門を見ろ」
猿飛が言うとおり門を見る。
城門の前には、二匹の鬼がいた。今まで会った鬼とは違う。
「十二神将・・・・・・」
歴史の教科書で見た、あれに似ていた。筋肉隆々だが、今までの鬼と違って不自然な発達ではない。均整の取れた肉体美を持ち、鎧を身に付けている。片方は斧、もう片方は矛を持っていた。
それぞれ、腰に鍵らしきものをつけている。おそらく、門の鍵だろう。
「くっそ、ここまで来たんに。あんな強そうなやつら、どうやって倒せっちゅーねん」
「城に入るには、この門しかないか?堀の様子はどうだ?」
猿飛に言われ、馬南が堀に近付く。
「うわっ、なんかいる!」
馬上から堀を覗きむと、鮫のような生き物がうようよと泳いでいるのが見えた。
「とりあえず、城の周りを一周してみたらどうですか?」
雉彦の言う通り一周してみる。が、わかったのは入り口が一ヵ所しかないということだけだった。
「ここで、わかったことを整理しよう」
猿飛が馬南かり降り、言った。
「城の周りは、堀で囲まれています」
「しかも、堀には不気味な生き物がいてはる」
「城には、橋がかかっているな。その先には、城門がある」
「城門を守るのは、強そうな鬼二匹。城門の鍵は、そいつらが持っている」
と、いうことは・・・・・・
「結論。鬼を倒すしかない」
猿飛は、吐き捨てるように言った。
くそう、やはりそうか。関孫六の柄に手を当てる。覚悟を決めようとしたとき、雉彦が口を開いた。
「ちょっと待ってください。私に作戦があります」
「目がいい動物は何か、ご存知ですか?」
ん?
急にどうしたんだ、雉彦。
「答えは鳥類です。空高くから、獲物を狙いますからね」
あぁ、なるほど。しかしそれが、どうしたんだ。
「目がいい私は気づきました。あいつら、盲目です。目が見えないんです」
そう、なのか?
「だから、――――ればいいのです」
たしかにそういう方法もある。だが、そんな簡単にいくか・・・・・・?
「どうせ正面切って戦っても勝てん。雉彦に任せてみよう」
猿飛がそう言うなら文句はない。頼む、うまくいってくれ。
雉彦は、バサバサと飛んでいく。城門を目指して飛んで行く。
作戦は、シンプル。城門を越え、中から閂を開ける。
その後、手ごろな石を堀に投げ込む。水音に反応した鬼の脇をすり抜ける、というものだ。
雉彦は、鬼に気づかれぬよう、鬼のはるか上空を飛んでいる。
よし、門を越える。
そう思った瞬間――
矛を持った鬼が、跳躍し、雉彦がいる位置に到達。
そして、雉彦は両断された。
「うそだろッ」
「なんやてッ」
「声を出すな!!」
猿飛が静止しても手遅れだった。声に気づいた鬼が、猛然と走ってくる。
「馬南急げ!」
「わかってる!」
馬南は鬼の方を向いていた。反転しようとするが、馬は急に静止した状態から瞬間的に方向転換できるわけではない。
「あの鬼、速いッ!」
重そうな斧をかついでいるくせに、陸上選手のように美しく走ってくる。
まずい。馬南が加速する前に追いつかれる。
「ちっ、食い止める!」
下馬し、抜刀する。
策があるわけではない。だが、確かめたいことがあるのだ。
鬼は走ったまま、斧を振りかぶる。大丈夫、大振りの一撃なら、横にかわせばいい。
しかし、鬼は、振りかぶった斧から手を離した。
(フェイント!?)
虚を突かれ、一瞬動きが止まる。
鬼は走った勢いのまま、左足を軸にし、跳ぶ。
そのまま、右足で跳び蹴りを――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
目を覚ますと、布団の中だった。
鬼の跳び蹴りで、やられたのか・・・・・・。
「桃太郎・・・・・・」
布団の周りで仲間たちが心配そうな顔をしていた。先に目を覚ましていたらしい。
馬南の姿が見えなかったが、外にいた。身体が大きいので、部屋の中に入るのは難しい。
今回、城門まで到達することができた。大きな進歩だ。
だが、鬼を倒せるように強くなったわけではない。たとえ城門を越えても、鬼の頭領を倒すことはできない。
「決めたッ」
布団を蹴り上げて立ち上がる。
「いったい、何を決めたんだ?」
質問したのは猿飛だが、みんなに向けて宣言した。
「強くなる。鬼を倒せるよう、修行する」
「きゅ、急にどうしたんや?」
楽丸は目をぱちくりさせている。
「たしかに、馬南の脚があればあの城まで戦わずして行ける。でも、そこからは真っ向勝負だろ?」
反論はない。
「仮に何らかの方法で城門を突破できたとしても、鬼の頭領がいる。そいつを倒さんことには、根本の解決にならない」
みんな押し黙る。
それに、負けっぱなしってのは絶対に嫌なんだ。口には出さなかったが、心底そう思う。
沈黙を破ったのは、猿飛だった。
「わたしも同じことを考えていた。逃げ回っていても、鬼には勝てん」
やはり、そうか。だが、問題は、どうやって強くなるか、だ。
「そういうことならワシも一肌脱ごうかの」
オバアサンが、隣の部屋からあらわれた。
「あかんあかん、オバアサンが脱いだって誰も喜ばんわ」
「『一肌脱ぐ』というのは、誰かのために本気で力を貸す、という意味だ」
「大仕事にとりかる際、着物の片方を脱いで肌を出す、ということからきているらしいですよ」
猿飛と雉彦にピシャリと言われ、楽丸が小さくなる。
「オバアサン、何かしてくれるのか?」
「関孫六を超える刀を作ってやるわい」
孫六を超える!?それは心強いぜ。
「ただし、ワシが鍛冶場におる間は絶対に覗くな。絶対に、じゃぞ」
別に覗く趣味はないけど・・・・・・。やたら念押ししてくるな。
オバアサンはくるっと反転し、部屋から出ていこうとする。
去り際にオバアサンが言った言葉を聞き洩らさなかった。
「七星剣を・・・・・・超えてみせる」
「オバアサン、気合が入っていましたね」
「あぁ、負けていられない」
握る拳に力が入る。
「でもなぁ、修行ったって、何かいい方法あるんか?」
楽丸の言葉が耳に痛い。
「私に考えがある。聞いてくれ」
さすが猿飛だ。
「お~い、オレにもあとでちゃんと教えてくれよ~」
馬南が屋外から大声で話しかけてきた。悪いな、あとでちゃんと説明するからな。
「馬南がいるからできる修行だ」
猿飛は不敵に笑い、自分の考えを話し始めた。
(つづく)

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