#12│桃太郎「鬼が自分の9倍強いうえに9999匹いるんですが」
雉彦が赤鬼の目をつつきにかかる。赤鬼は
嫌がって両腕で払いのけようとする。
「いけッ」
猿飛の指示がとぶ。鬼の両腕が上がった今、攻撃される恐れは、ない。
刀で鬼の右足首を斬りつける。
オバアサン渾身(こんしん)の一刀である『一期一腰”は、鬼の肉に阻まれることなく振り抜けた。
(いける!)
一期一腰は、関孫六以上に鋭い。
反対側の足首に楽丸が噛みつく。
鬼の意識が足首に移るやいなや、雉彦は再び目を狙う。目つぶしは成功しないが、鬼の意識は分散できていた。
「効いてるぞッ!それを繰り返せッ」
鬼にも痛覚があるらしい。鬼の表情は歪んでいた。
執拗に、執拗に、足首を狙う。
だんだんと腕が重くなる。構えた刀の切っ先が、どんどん下がっていった。
呼吸も荒くなる。
心臓が爆発しそうだ。
(止まるな!!!!!)
自分に言い聞かせた。
(心臓が破裂してでも斬り続けろ!!)
ガクッと鬼が片膝をつく。足への集中砲火が功を奏したか!?
「顔だ!顔を狙え!」
片膝をつく鬼の顔面が、ちょうど目の前にある。憎き顔面だ。
「ぁああ――ああぁぁッ!」
雄たけびを上げながら斬りつける。
縦、左薙ぎ、袈裟、右薙ぎ、逆袈裟、縦、縦、袈裟。
斬りつけ、斬りつけ、鬼の顔が原型をとどめなくなると、鬼はバタリ、と前のめりに倒れ込んだ。
馬南が思いっきり振りかぶり、蹄で後頭部を踏みつぶす。何度も何度も踏みつぶす。
鬼はぴくりとも動かなくなった。
「よッしゃあぁぁぁぁ!」
猿飛の作戦は、こうだった。
馬南に乗って鬼ヶ島を駆け回り、一匹で行動する鬼を見つける。見つかったら全員で襲う。
「鬼が一匹、という状況に持ち込むのが大事だ。今までは、鬼が複数いて勝負にならなかったからな」
さらに、つけ加えた。
「こちらは、全員で総攻撃を仕掛ける。まずは、『鬼を倒せた』という事実と自信がほしい」
そして、こっちを見た。
配慮して言葉には出さなかったのだろうが、猿飛には気づかれてた。
恐怖に縛られて鬼の前で実力を出せないでいたことを――。
「猿飛、もう大丈夫だ」
「わかった。安心したぞ」
他の仲間は、きょとんとしていた。
鬼は強い。人間相手の古武道の格闘術は通じない(つまり、ほとんどの技だ・・・・・・)
が、剣術と戦いの経験は活きている。“一期一腰”の切れ味も申し分ない。
自信を持って臨んだ次の戦いは、7秒でこちらが全滅した。
鬼にも強さや大きさに個体差があることがわかった。
復活し、振り返り、戦う。
それを繰り返した。
初戦こそうまくいったが、世の中思い通りにいかない。
10連敗したこともあったし、途中で増援があらわれ全滅したこともあった。
そのたびに言い聞かせた。
(恐怖に負け、小便を漏らしたことを思い出せ)
(村人を守るために身体を張る桃騎を思い出せ)
自分の自尊心と桃騎への憧れで、気持ちを奮い立たせた。
◇◇◇◇◇
「200回目の復活だ」
猿飛が柱に傷をつける。並んだ「正」の字は四十になった。
「惜しかったなー桃太郎はん。さすがに一対五は厳しかったか?」
「それでもすごいものですよ。三匹は倒せたんですから。大進歩です」
気づけば、一人で複数の鬼と戦えるようにまでなっていた。一対一なら、まず負けない。
何回か戦って、鬼の攻撃は大ぶりで単調だということに気がついた。掴みかかってこようとするか、大きく腕を引いてパンチを繰り出そうとするか、のどちらかだ。肩の動きに注目していれば問題ない。
巨大な身体も、的がでかいから狙いやすいだけだ。
「“一期一腰”の存在も大きいな」
猿飛が"一期一腰"を撫でながら言った。小太刀だった関孫六と違い、一期一腰は野太刀だ。刀身の長さは約90センチもある。鬼と距離を保ちながら戦うことができた。
「そろそろ、門番と戦うか?」
ここらで挑戦するのもいいだろう。あの時とは、違う。
やってやるぜ。
(つづく)

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