#13│桃太郎「鬼が自分の9倍強いうえに9999匹いるんですが」
決戦の時が来た。今日、いよいよ城門の門番に攻撃を仕掛ける。
門番に勝てるか?
いや、勝てるはずだ。それだけ、場数を踏んできた。
城の中は、どうなっているのだろう?鬼があふれんばかりにいるかもしれない。
鬼の頭領は、どんなツラをしていやがる・・・・・・?
上陸すると、五匹の鬼が囲もうと近づいてきた。
「行くぞ!」
猿飛の号令と共に馬南がヒヒヒィ~ンといななき、けたたましく地面を蹴った。強くなったとはいえ、ここで消耗するわけにはいかない。逃げるが勝ちだ。
鬼の包囲網を突破し、作戦どおり城を目指して直進した。
◇◇◇◇◇
城門の手前に着く。十二神将のような鬼は、前回と変わらずじっと動かない。それぞれが持つ矛と斧が、嫌でも目に入る。
猿飛は馬南から降り、正面に立った。
そして、一人一人の目を見て言った。
「作戦に変更はない。各自、予定どおりで頼む」
大丈夫だ、十分強くなった。自分に言い聞かせたが、緊張が表情に出ていたらしい。馬南が声をかけてきた。
「なーに、もしやられても希火団子の力で復活できる。肩の力を抜いていこうぜ。まっ、馬の肩ってどこなのかわからんけどな」
ガハハハと笑う馬南のおかげで、少しリラックスできた。
門番が正面に来る位置につけ、百メートルほどの距離を保つ。
「行くぞ!」
馬南は弾かれたように飛び出す。
門番たちは武器を構えた。しかし、馬南は速度を落とさない。突風のように突き進む。
鬼の長い矛の射程距離に入る寸前、矛を持った鬼に向かって跳ぶ。同時に、目を狙って刀を投げる。短くて扱いやすい、関孫六だ。
鬼は頭だけを動かし、かわす。
(想定内なんだよッ)
同時に上へ飛んでいった雉彦が門を越えようとする。
(いけッ、いけッ。)
矛の鬼は、雉彦を行かすまいと跳躍した。
落下する者と上昇する者。交差する瞬間を狙って一期一腰で横薙ぎに払う。重い野太刀の一太刀で、鎧ごと両断した。
着地し、さきほど投げた関孫六を拾う。
「中に入っています!」
雉彦の声が門の上から聞こえた。もし中から門を開く方法があれば、開いてもらう算段だ。
一期一腰を構え、斧の鬼と向き合う。体当たりを試みた馬南が、斧で斬り伏せられていた。あれは助からないだろう・・・・・・。
盲目なのに門番を任せられているのだ。弱いはずがない。おそらく、聴覚が優れているのだろ。
恐怖と怒りが混ざった感情が、マグマのように燃え上がる。あとで復活できるとはいえ、仲間がやられるのは心苦しい。
あんなでかい斧と切り結ぶのは危険だ。名刀とはいえ、折れてしまう。
一期一腰の刀身は1メートル弱。
さらに距離をとって観察する。目が見えないあいつは、自分から攻めてくることはないはずだ。
大きく右脚を踏み込む。踏み込んだ右の脚の膝を大きく曲げ、沈み込むようにして腰を落とし、鬼の脛を狙う。
「出たッ、脛斬りッ」
【※】
脛斬り(すねぎり)
岡田惣右門が創始した流派、[柳剛流]の剣術。
上半身を主に狙う事の多い日本剣術は下半身への攻撃に弱い。
その弱点を突いた技である。
遠い間合いから斬りつける脛斬りは、対鬼戦で最も使った技だ。間合いの外から攻撃でき、かつ鬼の体勢を崩すことができる。
脛斬りで膝をつかせ、低い位置にきた顔面を狙うのが常套手段だった。
ただ、脛斬りの弱点は、斬ったあとの体勢が不安定なこと――。
脛を斬られた鬼が斧を振り上げる。
(よしッ)
倒れるように左に回転する。
(てめーは、ずっと右手で斧を持ってた。右利きだってのは知ってんだよ)
袈裟斬りのような鬼の一振りをかわす。鬼の懐に入り、一期一腰で鬼の横に薙ぎ払う。
横断された上半身が地面に落ちる。
「よぉぉぉぉぉし!!」
「やったな、桃太郎!」
「ほんまに強くなったなぁ!」
ねぎらいの言葉を聞くと、全身が汗だくになっていることに気が付いた。真夏の炎天下、極度の緊張の中で戦っていたから無理もない。
楽丸が、両断された鬼の残骸をクンクンと嗅いでいた。
「うわっ!やめろよ!きもちわるっ」
「ワイかて、こんなことしたないわ!ただ、確かめたいことがあるんや」
確かめたいこと?
だが、それより・・・・・・。
「雉彦ぉぉ!門は中から開きそうかぁぁ?!」
返事がない。どうした?
次の瞬間、目の前が一瞬で日陰になる。
上空を見上げると――。
得体のしれない塊が、落下している。
この場所にいてはいけない。
直感的に悟り、地面を蹴る。
今までに見たことのない鬼だった。
下半身は、武士の鎧具足を身に付けているのに、上半身は裸である。まるで上だけ鎧を破壊されたようだ。
露出した上半身は、引き締まった筋肉を有している。
(美しい)
敵なのに、そう思ってしまった。牛頭の鬼よりずいぶん小さいが、それでも、そこらの人間より二回りはでかい。
「桃太郎、お主・・・・・・!」
わかっている。
左腕の感覚がないことなど。
目の前の敵に切り落とされたのだ。
激痛のせいか、敵の圧力のせいか・・・・・・
まったく動けない。
「こ、こいつは・・・・・・」
一歩一歩、近づいてくる。
「間違いない。鬼の頭領だろう・・・・・・」
確かな証拠はない。だが、その存在感は、これまでの鬼とは別格だった。
「お前が桃太郎だな」
しゃべった。低く、貫禄のある声だった、声の圧だけで、身体が吹き飛びそうになる。
「ふ、ふるえが止まらへん」
やつの武器を見て、ふるえた。
それは、鉄の塊のような斬馬刀だった。
刀身は人間の身長の倍近く長い。電車さえ真っ二つにしてしまうような鉄塊である。
「桃太郎、あいつの脛!」
ご丁寧に、脛当てを身に付けられていた。
(脛斬りが通じねーじゃねーか・・・・・・)
「桃太郎はん、この状況・・・・・・」
楽丸に言われなくてもわかっていた。
「あぁ。絶望的だな・・・・・・」
◇◇◇◇◇
布団の上で目を覚ます。
あのあと、玉砕覚悟で脛斬りを試みたが、脛当てに傷をつけることしかできなかった。
しかも、あの大きな斬馬刀を軽々と振りやがった。斬られたことは、思い出したくない。
「成果は、あったかの?」
珍しく、オバアサンが隣にいた。
「あったよ。鬼の頭領と初めて戦った」
すげぇ強かった。だが、また作戦を練ればいい。
それに、門番は倒せた。確実に前進できているのだ。
身体を起こし、仲間の様子を見る。楽丸、猿飛、雉彦。みんな、まだスヤスヤと眠っている。
普段なら屋外にいる馬南が・・・・・・いない?
結論から言うと――
二度と馬南は復活しなかった。
(つづく)

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