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#20│桃太郎「鬼が自分の9倍強いうえに9999匹いるんですが」

あらすじ&第1話はこちら

「そうか、炎だったのか・・・・・・」


猿飛の説明を聞いて納得した。目論見通り朱天童子の刀は壁に突き刺さったのだが、そのあと、猛烈な”熱さ”を感じて意識が途切れたのだ。


「猿飛さん、復活できる回数は、あと一回でしたよね」
「あぁ。あと一回は失敗できる」
「けどなぁ。逆に言うたら、あと一回しか失敗できんっちゅーことやなぁ」


仲間たちの会話を聞きながら考える。たしかに朱天童子の動きを体捌きでかわすことはできた。しかし攻撃は一度も届いていない。一体、どうすればいいんだ・・・・・・。


「難しい顔をしているな」


あぐらをかいて悩んでいると。猿飛がポンと腰を叩いてきた。


「あぁ。倒した方が、まったく思い浮かばんよ」


猿飛は、するりと正面に回り込んできた。


「桃太郎。私はお前の体捌きというものを見て、改めて人間の知恵・技術に感動した」


人間の米作りを学び、実践している猿飛の言葉だから、説得力がある。


「必ずあるはずだ。朱天童子を倒すに足る、技術が」
 
朱天童子を倒す技術――か。
転生する前、古武道をで積み重ねた稽古を振り返る。
武芸十八般と呼ばれる十八種目だ。

 弓術
 馬術
 泳法術
 薙刀術
 槍術
 剣術
 小具足(※短刀を用いた格闘術)
 棒術
 杖術
 鎖鎌術
 分胴術
 手裏剣術
 含針術
 十手じって
 居合術
 柔術
 捕手とりて術(素手で生け捕りにする術)
 忍術


 
道具が限られるこの世界では、多くの種目は役に立たない。残ったものの中で活路を見出せるものは――


一日中考え、夜になってひらめいた。


「みんな、聞いてくれ。戦い方を決めたぞ」


◇◇◇◇◇
 

【猿飛の視点】


桃太郎の案を聞いて改めて思う。
やはり、人間の技術には驚嘆すべきものだ。


決戦は明日――。
夕食を終えると、珍しい人物が話しかけてきた。


「猿飛に伝えておきたいことがある。外、行けるかの?」


オバアサンが、真剣な顔をして話しかけてきた。外に、ということは他の人に聞かれたくないのだろう。


家の裏にある竹林へと進む。しばらく歩いたところでオバアサンが口を開いた。


「今後、必要になるかもしれんので言っておく。桃太郎のことじゃ。桃太郎は――――」
「なにっ!?」
「必要なときが来たら、お前さんの口から伝えてくれ」
 
 


◇◇◇◇◇

【桃太郎の視点】



あの四枚のふすまの前にたどり着いた。この先に朱天童子がいるはずだ。
ここまでは、前回と同じ戦い方で問題なかった。むしろ、一度経験したので楽だった。いつもと勝手が違うところもあって、苦労したが・・・・・・。
 
 
楽丸と雉彦が、ふすまを引ける位置につく。打ち合わせ通り、声を発しないで二人に目配せした。
ふすまがサーっと開く。


「大丈夫です。寝ています」


夜でも目が見える鳥類の雉彦が、耳元でささやいた。
そう、今は夜。
朱天童子に勝つために選んだ戦法は、闇討ちなのだ。

力信りきしん流という流派の剣術に「暗夜剣」という夜間戦闘用の技がある。そこから闇討ちという発想に至ったのだ。


卑怯――な方法だとわかっている。
だが、鬼から村の人たちを救うには、手段を選んでいる余裕なんてない。
 


足音が出ないよう、畳に少しずつ足裏を着地させながら進む。
かろうじて見えるのは眼前の畳だけで、朱天童子の姿は見えない。


(臆するな。忍び足袋も履いてきた)


【※忍び足袋】しのびたび
綿を厚く詰めた足袋。
足音が出にくい。

恐怖を打ち消すよう、自分に言い聞かせる。
まさか、忍術を活かす日が来るとはな。
胸の鼓動を抑えながら、少しずつ歩を進める。
 

(だらしなく寝ていやがる)


充分に近づくと、朱天童子が人間のように布団で寝ていることがわかった。布団の周りには、規格外の大きさの徳利とっくりが乱雑に転がっていた。

 
布団の横には、斬馬刀が置かれている。それだけでなく、床の間には何が書いてあるのかわからない掛け軸や、数本の日本刀が飾られており、不気味だった。


斬馬刀を排除できればいいのだが、重そうでとても動かせない。


(やはり、一振りで仕留めるしかない)


覚悟を決め、菜々花の血が入った竹の水筒を取り出す。刀に血を塗り、構える。
狙うは、首。大上段に構え、一気に振り下ろす!
 

「ゲハァ!」


だが、斬り落とせなかった。


(首の骨が太い!?)


直観的に悟った。堅いものにあたり、それ以上斬れなかったのだ。


「卑怯者め!」


異常事態に気づいた朱天童子が半身を起こす。まずい、奴の目が暗闇に慣れる前に・・・・・・
切っ先を朱天童子に向けたまま刀を引く。“突き”に特化した構えだ。狙うは一点。


「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


一期一腰いちごひとこしが突き刺さる。朱天童子の利き腕から鮮血がほとばしる。肘より少し手首よりのところを狙ってやった。
 
酒吞童子は斬馬刀を手にするが、少し持ち上げたところでスルリと落としてしまった。右腕に力が入らないのだろう。


「おのれぇぇぇぇぇぇぇ!」


朱天童子の握りこぶしが飛んでくる。すんでのところで右にかわす。かわした左拳が壁に当たると、城全体が揺れたように感じた。


(!!)


ボクシングのジャブを思い出した。牛頭ごずたちの単調で大ぶりな攻撃とは違う。


無論ボクシングなど存在するはずない。が、朱天童子の拳撃はボクサーのように速く、無駄のない動きだった。あの巨大な斬馬刀を持っていた筋力だ。破壊力も申し分ないだろう。


だから奴の左腕から遠ざかるようにし、破壊した右腕側の方に回り込む。そして、朱天童子の右半身を菜々花の血を塗った一期一腰で斬り付ける。
一太刀、二太刀と浴びせるたびに朱天童子が獣のような唸り声を発する。
 

ボォォォォ!


奴が吐いた炎は、斜め前に前転してかわした。炎を吐けるとわかっていれば、対応できる。

 
朱天童子が吐いた炎により場の様子が変わった。炎が壁に燃え移り、暗かった広間は一転、赤々と明るくなったのだ。

 
だが、問題は明るさではなかった、熱量だ。


(血が・・・・・・渇いていやがる)


刀に塗った血はべとついており、多少戦いが長引いても渇くことがなかった。しかし周囲で燃える炎の熱のせいか、完全に乾いてしまっている。


(血を塗り直さなくては・・・・・・ッ)


戦いの最中さなかで水筒を取り出し、刀に塗り直していたら、たちまち丸焼きにされてしまうだろう。


(猿飛ッ)
猿飛に塗り直してもらうのが最善だ。だが、辺りを見回すと、炎で囲まれていた。


「どうした?急に顔色が悪くなったなァ」


このままでは致命傷が与えらない。
どうする、どうする・・・・・・!
 
「桃太郎ッ!大丈夫かッ!」


猿飛の声だ。
炎の近くまで来ているのか!?


「この炎で血が渇いちまった!塗り直す隙はない!何か手はないかッ!?」


猿飛なら、何か妙案を考えてくれるはずだ。
ところが、返ってきたこたえに度肝を抜かれた。


「お前の血を塗れ!桃太郎、お前は女・・・・だッ!」


(つづく)

次の話→
(1月25日投稿)



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