#21│桃太郎「鬼が自分の9倍強いうえに9999匹いるんですが」
【17年前】
「本当に、その名前でいいんですね?」
「桃太郎。いい名前じゃないか。実に男らしい」
一人の赤ん坊を、オジイサンが大切そうに抱いている。
「わかりました。あなたがそう言うなら賛成です。ただ・・・・・・」
オバアサンは、オジイサンから赤ん坊を受け取り、ぎゅっと抱きしめた。
言いづらそうにしているところに、オジイサンが口をはさむ。
「お前の気持ちはわかるよ。ワシだって女を男として育てるのは心苦しい」
「そうですよね。しかし、すべては鬼どもを倒すため。男として周知すれば、生贄として差し出されることはありませんから」
言いながら、オバアサンは赤ん坊の額にそっと触れた。
【桃太郎と朱天童子の戦いの場面】
「お前の血を塗れ!桃太郎、お前は女だッ!」
(なんだと!?)
「詳しい説明は、あとだ!今は血を塗って朱天童子を倒せ!!」
考える時間はない。
朱天童子の右側に回り込みながら自分の左腕を刀で斬る。焼けるような痛みと引き換えに、血が溢れ出す。
自分の血にみとれる。この血が朱天童子に効けば、自分は女だということになる・・・・・・。
瞬間、思考が停止、動きが止まってしまった。朱天童子の拳がまっすぐ突き出てくる。
(間に合わん!)
左の足裏で拳を受け止め、そのまま後ろに跳ぶ。直撃を避け、衝撃を吸収・・・・・・
空中で回転し、受け身を取るつもりが、着地に失敗し、倒れた。
「やっと当たったぜ」
俺は体勢を立て直そうとするが、ひざまずく。左足の脛を手で押さえたまま、苦悶の表情で朱天童子をにらむ。
「おっ、今ので脚が折れたかァ?」
朱天童子は口の端を上げて歪んだ笑顔になる。
左手で脛を押さえたまま、右手で刀に血を塗り直す。
朱天童子を倒すには、血をたっぷりと塗った一期一腰で首元を深く斬る必要がある。
攻撃をかわしながらそれを実行するのは難しい。
が、脚が折れたフリをし、油断させた今なら・・・・・・
「はッ」
座った姿勢から跳躍し、横薙ぎの一閃。狙いどおり首と胴体を分かつ。
畳に転げ落ちる朱天童子の首。それに遅れて数秒、体が前のめりに倒れた。
「よぉぉぉぉぉぉし!」
ついに・・・・・・
ついに鬼の頭領・朱天童子を倒した。
これで村人たちは救われるはず――。
「さすがやでぇ、桃太郎はん!」
「ついにやったな!」
「おめでとうございます!」
仲間たちが駆け寄ってくる。
こいつらがいたから、ここまで来れた。
「ありがとな」
全員の頭をなでる。
本当はもっと感謝を述べたいが、気になることが――
「それにしても、桃太郎はんが女だったなんて。ほんまに驚いたで」
「あぁ、私がオバアサンに聞いたから間違いない」
「一番驚いているのは、ご本人でしょう・・・・・・」
いや、正直そこまで驚いていない。
忘れていた大切な何か――
それは、自分が女だったということだ。
猿飛に言われ、急に記憶がよみがえってきた。
本名、水島アキラ。
『男みたいな名前じゃん』と、よく男子にからかわれたっけ・・・・・・。
「そういえば、桃太郎はんが『俺』とか『私』って言ってるとこ聞いたことないもんなぁ」
「うん。自分でも、男とか女とか、そういう概念すら忘れていたんだ」
「そんなことあるんかーい!!」
楽丸のツッコミに、みんなで笑う。
これが平和か。
そう思った時・・・・・・
「ワシと戦える高みに到達したな」
鬼しかいない鬼ヶ島に、人間の声が響く。
そいつが持っていた刀を一振りすると、燃え広がっていた炎が、魔法のように消滅した。
(まさか、こいつの一振りが炎を消したのか!?)
「驚くな。このワシが七星剣を使えば、この程度の火など簡単に消せるわ」
(七星剣!?どこかで聞いたような・・・・・・)
目の前に表れたのは、“ワシ”という一人称が似合わない青年だった。
あたりの炎が消えたので、楽丸、猿飛、雉彦が俺のところまでやってきた。猿飛が、あの静かな猿飛が、叫んだ。
「お前は・・・・・オジイサン!?」
「よぉ、猿飛。元気にしてたか?」
(つづく)

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