#23│桃太郎「鬼が自分の9倍強いうえに9999匹いるんですが」
目を覚ますと、楽丸、猿飛、雉彦が布団を囲むようにして座っていた。
「みんな・・・・・・」
心配そうな顔が並んでいる。それもそうだ。やっと朱天童子を倒したと思ったら、黒幕が出てきたんだから。
それだけじゃない。実は女だった、ということもわかった。
「その・・・・・・大丈夫ですか。気持ち的に」
雉彦が遠慮がちに聞いてくる。
「性別のことか?気にしてないよ」
忘れていた大切なこと。それは、自分が女だったということだ。
だが、いまさら気にならない。転生する前も、古武道をやっていたせいか男のように振るまってきたことを思い出した。
「念のため、確認しておく。わたしたちに残された復活回数は、もうない」
つまり、次に失敗すれば、もう二度と復活はできない。
そのうえ・・・・・・
「厄介極まりない奴があらわれやがった」
干将――。
朱天童子を陰で操っていた、黒幕。
刀同士の戦いなら、一般には長い刀の方が有利と言われている。しかし、奴は短い中国刀で一度も俺に攻撃させなかった。
言葉による“騙しうち”も巧みだった。つまり、喧嘩がうまいのだ。
「猿飛の知り合いみたいやったな」
「そうだ。まさか、敵になるとは思わなかったがな・・・・・・」
猿飛は数秒、遠くを見つめた。そして、力強く言った。
「桃太郎、すべてをオバアサンに話そう。たとえ、傷つけることになっても」
◇◇◇◇◇◇◇
「そんなことがあったのか・・・・・・」
オバアサンは取り乱すことなく、落ち着いてすべてを聞いてくれた。だが、みんなどのような言葉をかけていいかわからない。オバアサンは、大きなため息をついたあと、言った。
「あの人は、強さにとりつかれとった。刀鍛冶としても、戦士としてもな」
「えっ、干将も刀鍛冶だったんですか?」
初耳だ。
「ワシらは、夫婦で刀鍛冶をしとったんじゃよ」
「干将・莫邪といえば、随一の刀匠だ。一振りの刀が、一国を滅ぼすとまで言われている」
えっ、と思わず声が出る。
オバアサン、そんなすごい人だったの?
「そういえば、干将の刀は恐ろしく頑丈だった。一期一腰が粉砕されちまった」
「あぁ。おそらく七星剣じゃろう。別名、“干将の妖刀”。三大妖怪、九尾の狐を斬った刀じゃ」
「待て!“干将の妖刀”は、九尾を倒したときに封印されたと聞いたぞ。昔の干将本人に聞いたから、間違いない」
声を上げる猿飛に、オバアサンが言葉を返す。
「そのとおりじゃ。だから、作り直したのじゃろう」
「干将の妖刀・・・・・・。そういえば、似た言葉を言っていたぞ。たしか、“莫邪の宝刀”って」
干将に斬られる前、たしかに奴はそう言っていた。
「莫邪は、オバアサンの名前だ。そして莫邪の宝刀は、干将の妖刀に並ぶ一振りだ」
猿飛の説明に、楽丸が即反応する。
「ほんなら、つくってーな!その莫邪の宝刀ってのを!」
「作れぬ。この年老いた身体では・・・・・・」
オバアサンは拳を握りしめながら答えた。
「だったら、若返ればいんですね?」
え?
「若返れば、莫邪の宝刀とやらを作れるんですね?」
おいおい雉彦、そのとおりではあろうが・・・・・・。
「わたくしと楽丸に任せてください。若返る力を持つ、”香る紅千鳥”を鬼ヶ島からとってきましょう」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
香る紅千鳥を取りに行った楽丸と雉彦を待つ。
干将との戦いの最中、猿飛の指示で楽丸は香る紅千鳥を探しに行っていたらしい。
「どうせ私たちは戦いの手助けはできない。だから、何かに役立つかもしれないと思って、楽丸に探しに行ってもらったんだ」
そして、楽丸は鼻を利かせて秘薬を見つけた。場所をしっかり確認しておいた、ということだ。
◇◇◇◇◇◇◇
「では、いただくとしようかの」
紅千鳥を粥にして、オバアサンが食べる。
「オ、オバアサン!」
「こりゃ驚くわぁ」
「ほう」
「すごいですね」
きらめく肌。
ツヤを取り戻した髪。
そして、輝く瞳。
大人の女性が持つ、妖しいまでの魅力。
転生前の世界の女優のようである。
「さーて、早速、莫邪の宝刀を作ろうか」
「ま、まってくれ!考える時間がほしい」
ある疑問が生じていた。
本当に、莫邪の宝刀があれば干将に勝てるのだろうか?干将の格闘センスは抜群だ。
「もう、復活できへんしな・・・・・・。慎重になるわな」
「ですが、一体何をどう考えるんです?」
「わからんが、今のままでは干将に勝てる気がしないんだ。何か、根本から変えないといけないと思う」
全員、沈黙。たしかにこんな聞き方では、答えようがないだろう。
静寂をやぶったのは、猿飛だった。
「何度も言うが、わたしは人間の智慧に心の底から敬服している。必ず突破口になるものが、あるはずだ」
(つづく)

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