#24│桃太郎「鬼が自分の9倍強いうえに9999匹いるんですが」
目の前で、大人の太ももほどもある竹が天高く伸びている。
孟宗竹。
かつての愛刀・関孫六では切れなかった竹の最大種だ。
両手で持ったそれを力強く振り下ろす。手首に衝撃すら感じることなく、刃が孟宗竹を通過した。
「すごいな、桃太郎」
「いや、これがすごいだけだ」
古武道で培った技術もあるが、やはりここまでの切れ味を有するこの武器のおかげだ。
「莫邪の宝刀、ほんますごいわぁ」
「今までの刀とは、形が全然違いますしね」
「まぁ、これは“宝刀”とは言わないな。この世界には存在しないかもしれんが、――というんだ」
試し斬りを終えて、思う。
以前見た、孟宗竹の斬れ端・・・・・・。孟宗竹を斬ったのは、まだこの島にいた干将だろう。オバアサンは、あまり語りたがらないが、干将しか斬れる者はいないはず。
たしかに手ごわいやつだが、あんなやつを野放しにしておくわけにはいかない。必ず勝つ。
試し斬りを終え、家に戻ると、意外な人物がいた。
菜々花だ。
「おかえり。オバアサンから話は聞いた。・・・・・・大変だったな」
こいつなりに、気を遣ってくれているのだろうか?
「明日、出発するんだろ?今夜は早く寝るだろうから、昼食を作りに来た」
「おぉ、それはありがてぇ!」
無理矢理、口角を上げて笑顔をつくった。
「なんだ、あたしが食事を作りに来てやったのに嬉しそうじゃないな」
そうではない。
自分は女だったのだ。なぜか、菜々花とどう接すればいいのか戸惑ってしまう。
「ちがう、ちがう。昼に来ることなんてなかっただろ。ちょっとびっくりしただけだよ」
「・・・・・・ならいいけど」
「で、何を作ってくれるんだ?」
「ラーメン」
まじ!?
「らあめん?聞いたことない食べ物じゃのぅ。どんなものだ?」
若返っても、口調はそのままのオバアサンが首をかしげた。
「ひとことで言うと、“魂の食べ物”だ」
◇◇◇◇◇◇
ラーメンという単語を聞いてから、頭の中はそれでいっぱいだ。菜々花め、自分も転生者だと告白したから、ラーメンが作れることを隠す必要がなくなったわけか。喜ばしいことだ。
「麺とスープは作ってきた。あとは熱を加えるだけ。すぐできる」
と言われたが、頭の中はラーメンに支配されて何もできない。
菜々花が鍋に麺を投入した。鍋には、ラーメン用のザル(取っ手が上に伸びているものだ)が引っかけられている。金属が希少な世界なので、ザルは木で作られていた。
(あのザルを作るの、大変だったろうなぁ)
最後の仕上げ、湯切りをする菜々花。鍋の付近だからか、頬に汗が見える。湯切りの動作と共に揺れる金髪のポニーテールが・・・・・・美しかった。
「へい。お待ちっ」
ラーメン屋の店員っぽく菜々花が置いた丼には、見事な醤油ラーメンが出来上がっていた。
細かな油が無数に浮かぶスープ。
久しぶりに見る、タマゴ色の細麺。
そして、脂身を携えたチャーシュー。
これだよ、これ。これが食いたかったんだ。顔がドンブリに吸い込まれるそうになる。
真夏のラーメン。いいじゃないか。
顔が汗だくになるのもかまわず、一気に流し込んだ。
「ふ~。うまかったぜ。ありがとう、菜々花」
仲間の分も作り終え、ひと息ついている菜々花の横に座った。
「構わない。これが、最後になるかもしれないからな」
そうだ。やられても、もう復活することはできない。
「なぁ、桃太郎。戦わなくてもいいんじゃないか?」
言葉の真意がわからず、何も答えられない。
「朱天童子を倒したら、真っ先に逃げてこいよ。干将ってのとは、無理に戦う必要なんてない」
たしかに、そうかもしれない。
「そうだな。干将は極悪人ってわけではなさそうだ。だが――」
菜々花は、目を見ながら黙って聞いてくれている。
「朱天童子を倒しても、打出の小槌を手に入れることはできなかった。干将を倒せば、手に入るかもしれない」
菜々花は、フッと小さく笑った。
「そうだな。元の世界に帰る。桃太郎の悲願だったもんな」
違う、そうじゃないんだ。
「桃太郎がいなくなれば、メシを作りにくる必要もなくなる。ありがたいことだっ」
菜々花は立ち上がり、ラーメンをすするオバアサンの方に行ってしまった。
違う、そうじゃない。今の願いは――
(次回、最終回です!)

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